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傷だらけのシホ sideシホ

信じられるもの

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 巨神竜。力と感情を司る神。

 短い命だから、その全てを、自分の感情のままに使い尽くしたい。おふくろが生んでくれた体をめいっぱい活かして、強くなって、力を示して。オレの生まれてきた意味を、生きた証をこの世に残したい。

 うん。オレが一番、信じられる神様は、……。


「そう。巨神竜様を信仰して、強くなるって決めたのね。あなたが旅立つその時まで、あたしは全力で手伝うからね」

 大人になったら、巨神竜の治める、ここからうんと遠い国へ行く。グランティスで剣闘士になって、巨神竜と戦って、勝つ。そうと決めてからは、故郷での時間は全てそのために費やした。

 道場に通って、良い師匠にも出会えた。実践だけではなく、武器の研究にも熱心な人だった。巨神竜の神器と戦うなら十文字槍っていう発想アイデアも、その人からの提案だ。


「母親が体を売って得た金で神聖な道場に通うなんて、恥ずかしいと思わないのかね」

 そうやって虚仮にする奴も多かったが、槍の腕を磨いて打ち勝って、黙らせてやった。



 もうすぐ成人を迎えるので、旅立ちの準備をしていた時。おふくろは唐突に告白した。

「あなたの父親はわからないって言っていたけど、実はここ数年でその人の確信が持てたのよ。声変わりしてからのあなたの声が、その人にそっくりだったから」

 その客とはまだ関係が続いていた。王族の末席の落ちこぼれで、爪弾きになっていて、寂しさからおふくろに頼るようになった王子だという。

 オレは王子の子供かもしれないと本人に気安く伝えたら、はにかみながらこう答えたんだって。

 ……嬉しいなぁ。あなたの子供が、僕との間の子かもしれないなんて。会わせてもらうわけには……いかないよねぇ……


 会いたい気持ちは一切なかった。絶対的な階級制度の国の王族に生まれておいて、下流の商売女との子供を無邪気に喜べる。そういう人がオレの父親だって知られただけで、満足だった。



 別れの日。「またな」ではなく「さようなら」と、おふくろに伝えた。彼女も同じ気持ちだったから。


「さようなら、信歩シホ。巨神竜様の国へ行って、彼らを信仰して生きていくと決めたのなら、もうこの街に帰ってきてはダメよ。最後はそっちの土の中で、安心して体を休められるように。自分を信じて歩き続けなさい」
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