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傷だらけのシホ sideシホ

最後の戦い

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「太陽竜と傀儡竜が対等、か。巨神竜の助けを受けて辛うじて、ということならそうだろうが。限られた一生でどんなに鍛えようが、君と僕が対等になれるなど幻想だろう」

 太陽竜の野郎は、オレとエリシア、イルヒラとの付き合いの深さなんざ知らねえだろう。だから、「巨神竜はそれを教えてくれなかったのか? 無駄な努力だと」なんてほざきやがる。

「あいつらが教えてくれたのは、敵う敵わないに関わらず立ち向かって、最後まで戦い抜いて死ぬことは、この国では誉れだっつうことさ」

「無駄な努力の果てに死ぬことが誉れなんて、体裁の良い洗脳みたいなものだ。……だが、彼ららしくもある。結果も危険性(リスク)もお構いなしに、自分の『感情』の求めるままに行動することが正義だと。遥か昔から、そういう信条だったよ」


 太陽竜は携えた剣を鞘から抜いて、オレからは目を離さずにゆっくりとしゃがんで、傍らに鞘を安置する。剣闘場の試合じゃねえんだから、この隙にさっさと動き出せって話なんだけどな。戦士の誇りをぶち上げた直後だからか、そういう気分じゃなかった。五年前のオレだったら躊躇いなく、その隙に突っ込んでたかもしれないな。


 太陽竜の神器の刀身は、真っ赤だった。血痕を放置しているとかそういうわけではなく、素材そのものからの真紅。神器ってやつは普通の鋼とは違うんだろうか。エリシアの持つ戦斧は間近に見たら鋼でしかなかったんだが、神様が持つもんが人間のありふれた武器と同じ構造ではないだろうしなぁ。そこんところもちゃんと訊いておけば良かったかな。

 太陽竜は右足を後ろに引いて半身を少し捻り、霞の構えを取った。刃を口のあたりで水平に位置取り、その向こうからオレを覗き込むようにしている。


 オレが傀儡竜と成って太陽竜を殺そうと言う以上、奴にはオレの狙いがわかっているはずだ。どうにかして、自分から神器を奪う算段だと。だから、手首を守る構えにしたんだろう。

 オレが真っ直ぐ槍を突き込んだとしたなら、上から刃を落として柄を真っ二つ。どんなものでも切れるとかいうインチキ性能の神器をお持ちだからこその戦略だな。


 本来、剣と槍で戦った場合、槍の方が圧倒的に有利だと言われちゃいるんだよな。基本、剣で槍に勝つのは難しい。だが、そんな常識は剣闘場じゃあ通用しなかった。武器の有利不利なんか容易くひっくり返せる「最強」が、あそこには何人もいたっけな……。


 ……っと、今は過去の苦みを思い出してる場合じゃねえやな。これ以上、後ろ向きな感情に引っ張られたくない一心で、オレはなんとも無策に走り出していた。実際、膠着状態が続くほど、一方的にオレが不利になっていく。オレにとっての詰みの時間タイムリミットが、向こうにとっちゃあ勝利の確定なわけだから。



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