上 下
94 / 111
傷だらけのシホ sideシホ

勝負運

しおりを挟む
 一年前、月光竜から予言を受けた場所。五年前から、レナと夜を共に過ごした場所。それと同じところに今夜、オレはひとりで腰を下ろして待っていた。

 二月十九日。グランティスは温暖な国ではあるが、さすがにこの時期の夜歩きはそれなりの厚手の生地でないと厳しい。これから、命の限りを尽くした大立ち回りをしなきゃならねえって時に布地で体が重たいってのは難だなぁ。

 一年前の今日は満月だったが、今年はかろうじて端っこが光ってるような、爪先の白いところかよっていう頼りなさだ。月明かりも町灯りも頼れねえ視界不良の中で、全力を尽くせるわけもない。

 なんだか「待ち構えてます感」ありありでかっこ悪いが、こんな場合の備えとしてイルヒラが用意しておいてくれた松明を組んで地面に突き立て、火をつける。

 分解した十文字槍相棒を組み立てる。

「オレは多少の傷を負おうが、太陽竜との戦いでおまえ相棒に傷ひとつつけさせねえ。もし、オレが帰れなくてもおまえだけは、レナ達のところへ戻ってもらいてえからな」

 おまえにこうやって声かけするのも、もしかしたらこれが最後かな。うっかりそう考えそうになって、首を振って追いだした。

 左手には、レナから預かった魔法剣のトイトイ。教えてもらった呪文を詠唱して、形を現す。寸の長さはグラディウスに近くて、馴染みがある。エリシアが言うには、太陽竜の神器とも同等の長さだとか。

 この世のどんなものでも切れるという特色の、太陽竜の神器。だが、魔法剣はそいつに接して切れたところで、すぐに形を再生する。物理的な武器とは違うからこそ、これは使いようによっちゃ大助かりなんじゃねえか? レナはそういう想像を働かせた上でこいつをオレに渡したわけじゃねえんだろうが、どっちにしろありがたく使わせてもらおうと思う。


 オレがここに到着してひと通りの準備を終えて、日付が変わるまではあとどれくらいなんだろう。もし、太陽竜がここに現れるのが、「日付が変わってから」だとしたら、その時点でオレの命運は尽きる。奴との対面が「オレが傀儡竜に成る前」で、さらにそうなる前に太陽竜から神器を奪えなけりゃあ、この一年間の全てが無意味になっちまう。

 最後の最後でまた、実力以外の「勝負運」が求められるわけだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...