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あなたとの時間は、全てが宝物のようでした。

たったひとつの、思い出

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「シホには悪いけど、この子の名前はもう、わたくしが決めてしまっているの」

「子供の名前っつうのは、母親の中から出てきて顔を見てから決めるもんだろ? おふくろはそうしたって言ってたが」

 そういう人もいるでしょうが、生まれる前から決めている親だっているでしょう。聡明な彼らしくなく、自分の母というたった一例を基準にしてしまっているのが可笑しくて、わたくしは思わず小さく笑ってしまいました。

「この子の名前はね、シホ・グランティス。生まれたのが男の子でも女の子でも、絶対にそうするって決めたの」

「……んん~……なんだかなぁ」

 まさかまさかの、なんだか不満げな唸り声を絞り出していました。驚いて、「どうしたの?」と訊き返してしまいました。


「いや……オレは結局、エリシア巨神竜と戦って勝つっていう、この国に来て公然とぶち上げた目標を果たせなかったのに。王族のレナが関係してくれたおかげで成果もなく、名前だけはグランティスの歴史に残りました~みたいなの、些かかっこ悪くねえかなぁと」

 成果がない? そんなはずはないでしょう。シホってば、他人のことに関しては聡くて洞察力があるというのに、自分自身のことに関してはたま~にとっても鈍いですよね。

「あなたが目標を持ってグランティスにやって来て、努力して、最後まで全力で戦った。そうやって実直に生きる姿で、わたくしはあなたに心を奪われた。どうかあなたの子供を産ませてくださいなんて縋るほどにね。これが、あなたの生き様が実を結んだ成果でなくてなんだっていうの?」

「そうやって文章にされるとなかなか、とんでもねえな」

「そうよ。とんでもないのよ、あなたっていう人は」

「誉められてんのかなぁ」

「当たり前じゃない。あなたがとんでもないからこそ、ついつい気になって追いかけているうちに、わたくしは目が離せなくなってしまったのだもの……」

 などと語り合っているうちに、わたくしのお腹の内側で、何かが微かに動きました。本当に微かでしたので、彼の手のひらまで伝わったのかまではわかりません。ですが、わたくしは密やかに。「最初で最後かもしれない、親子三人での会話」、そんな思い出として後生大事に、記憶していくことにしました。
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