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あなたとの時間は、全てが宝物のようでした。

誕生日、おめでとう

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 わたくしがお腹を撫でながらそう口にすると、店内のお客様から拍手が起こりました。このような展開を想定していたわけではないのですが、店主さん達がそ接してくれたおかげでこのようになってしまい、こそばゆいです。ですが、もちろん、嬉しくてたまりませんでした。


 身重のわたくしの体を気遣って、奥方様は店内の隅にある、布張りの長椅子の席へ案内してくださいました。本来、ここは小さな子供連れの家族のための席なのだそうです。

 

 グランティスの一般的なお店料理の味を、わたくしはあまり口にしたことがありません。宮廷料理人のそれとはたぶん違うのだろうと、漠然と想像していました。

 シホが日頃、気に入って口にしていた料理を食べてみたかったというのもあったので、注文は彼にお任せしました。

 注文した夕食の全てをいただいて、腹八分目というところでした。仕上げのエスプレッソをいただこうと、奥方様にお声掛けしたところ、「ちょいと待ってくださいね~」とご機嫌な調子で答えて、彼女は厨房へ行きました。そして、持ってきたのはエスプレッソだけではありませんでした。

「剣闘場の広報で見たんだよ~。シホりん、あさってなんだろ? 誕生日、おめでとう」

 ふたりで半分に切ったら、ちょうど良さそうな、小さな円のケーキでした。わたくし達の突然の来店で用意したものですから、特殊な飾りがあるわけではありません。チョコレートで全体を包んで真っ黒のケーキに、赤いソースで花柄とお祝いの言葉メッセージが書かれています。

「あ……」

 わたくしはもちろんですが、シホも、全く想像していなかったのでしょう。誰かと祝うことなく、ひとりきり。戦場で迎えるつもりでいた誕生日を、前祝いしていただけるなんて。

 シホと五年の付き合いのこちらのご一家が、シホの体の事情を知らないはずがありません。それでもなお、彼らは誕生日を祝いたいと思ってくださったということですね。

 わたくしの目の中はじんわりと潤ってきましたが、それよりも先に、シホがわたくしを左手で抱き寄せて彼に密着させました。その手は震えていて、シホは奥方様から顔が見えないように、思いっきり俯かせます。わたくしは両手を伸ばして、彼の膝の上にあったシホの右手のひらを上から包み込みました。


「……みんな、ありがとう。……オレは、この国で。最後までグランティスで生きるって決めて、正解だったなあ」


 ほんの数滴ですが、わたくしの手の甲には冷たい雫が降ってきました。ですが、もう一度顔を上げて奥方様を見た時には、いつも通りのシホの笑顔でした。頬はりんごのように、赤く色づいていましたけれど。
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