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あなたとの時間は、全てが宝物のようでした。
グランティスの宝
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「へい、らっしゃーっせー! おう、シホりんじゃねえの……おおう!?」
「どうしたんよ、お父ちゃん……あっらー!? レナ様じゃねえの!」
「えっ、なになに? わぁー、ほんとだぁ!」
あの部屋の窓からは、広場を囲む何軒もの飲食店が見えます。その内の一軒のお店の味と接客の雰囲気をシホはとても気に入っていて、特に事情もなければ毎食でもそちらでいただいていたのだそうです。
わたくしは顔を隠してシホの部屋に通っていましたし、食事も王宮で済ませた夜分のことでした。お話はうかがっていましたが、ふたりで共にそのお店を訪れたのは今夜が初めてで……そしてこれが、最後になってしまうのでした。
今夜はわたくしは平服で、顔を隠さずにシホと腕を組んでお店に入りました。最初に気付いた店主の男性とその奥方、店内のお客様がわたくしを見て驚愕の声を上げています。わたくしとシホの密着具合に気付くと、ひゅーひゅーと店内のあちらこちらから口笛を吹いて囃し立てる音が聞こえてきます。
「なんだよシホり~ん、いつの間にやらレナ様と仲良しになっちまって。隅に置けねえじゃんかぁ~」
「レナ様も今となっては、剣闘場の戦士ですもんねぇ。お姫様といったって、現役剣闘士とお近づきになることもあるでしょうよ」
「ねえねえ、レナさまぁ。だっこしてぇ」
「これ、おやめなさい! あつかましい!」
後で、店主夫妻のお孫さんであると紹介されました。四歳くらいの女の子がわたくしの足にぎゅっと抱きついて、甘えてきました。とてもかわいらしくて、このように接していただけて嬉しかったのですが。
「ごめんなさい。わたくしのお腹の中にはね、シホの子供が育っているところなの。だから今は、重たいものを持ち上げられなくて」
「そうなの? あたいのかあちゃんのなかにもね、さいきん、あかちゃんがすむようになったんだって。レナさまとおそろいなんてすごいね~」
えっへん! と胸を張る女の子の頭を撫でてあげたら、お返しとばかりに彼女はわたくしのお腹を小さな手のひらで撫でました。
「まあ……レナ様、そうなんですか? 良かったねえ、シホりん」
「あ……ああ、まあ。オレの故郷じゃあ、王族が庶民の男となんて、とんでもねえ話なんだが。この国じゃあよくあることなんだってな?」
「そりゃあそうさ! 強い人間は、グランティスの宝だからな!」
「そうですよ。わたくしは、自分で決めて、シホとの子を残したいと決めたのです。絶対に絶対に、無事に生まれますように。皆様もきっと、シホのためにお祈りしてくださいますよ」
「どうしたんよ、お父ちゃん……あっらー!? レナ様じゃねえの!」
「えっ、なになに? わぁー、ほんとだぁ!」
あの部屋の窓からは、広場を囲む何軒もの飲食店が見えます。その内の一軒のお店の味と接客の雰囲気をシホはとても気に入っていて、特に事情もなければ毎食でもそちらでいただいていたのだそうです。
わたくしは顔を隠してシホの部屋に通っていましたし、食事も王宮で済ませた夜分のことでした。お話はうかがっていましたが、ふたりで共にそのお店を訪れたのは今夜が初めてで……そしてこれが、最後になってしまうのでした。
今夜はわたくしは平服で、顔を隠さずにシホと腕を組んでお店に入りました。最初に気付いた店主の男性とその奥方、店内のお客様がわたくしを見て驚愕の声を上げています。わたくしとシホの密着具合に気付くと、ひゅーひゅーと店内のあちらこちらから口笛を吹いて囃し立てる音が聞こえてきます。
「なんだよシホり~ん、いつの間にやらレナ様と仲良しになっちまって。隅に置けねえじゃんかぁ~」
「レナ様も今となっては、剣闘場の戦士ですもんねぇ。お姫様といったって、現役剣闘士とお近づきになることもあるでしょうよ」
「ねえねえ、レナさまぁ。だっこしてぇ」
「これ、おやめなさい! あつかましい!」
後で、店主夫妻のお孫さんであると紹介されました。四歳くらいの女の子がわたくしの足にぎゅっと抱きついて、甘えてきました。とてもかわいらしくて、このように接していただけて嬉しかったのですが。
「ごめんなさい。わたくしのお腹の中にはね、シホの子供が育っているところなの。だから今は、重たいものを持ち上げられなくて」
「そうなの? あたいのかあちゃんのなかにもね、さいきん、あかちゃんがすむようになったんだって。レナさまとおそろいなんてすごいね~」
えっへん! と胸を張る女の子の頭を撫でてあげたら、お返しとばかりに彼女はわたくしのお腹を小さな手のひらで撫でました。
「まあ……レナ様、そうなんですか? 良かったねえ、シホりん」
「あ……ああ、まあ。オレの故郷じゃあ、王族が庶民の男となんて、とんでもねえ話なんだが。この国じゃあよくあることなんだってな?」
「そりゃあそうさ! 強い人間は、グランティスの宝だからな!」
「そうですよ。わたくしは、自分で決めて、シホとの子を残したいと決めたのです。絶対に絶対に、無事に生まれますように。皆様もきっと、シホのためにお祈りしてくださいますよ」
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