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あなたとの時間は、全てが宝物のようでした。

最後の二日

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「最後にもう一度だけ、確認するけど。本当に、太陽竜との戦いにひとりで臨むんだな? 巨神竜の手助けはいらないんだな?」

「ああ。オレもこれで、グランティスの剣闘士としての矜持がある。強大な相手だとわかってるが、オレと相棒だけでどこまでやれるかを試してえって気持ちもあるんでな」

「元をたどれば、俺達の未来を変えるためにシホは太陽竜と戦うって決めたんだよな。エリシアは国のため、人のために戦うことも多かったけど、巨神竜俺達のために戦ってくれる人はそんなにいなかった。エリシアが強すぎるから必要ないにしても、さ。なんだかんだで、俺もエリシアも嬉しかったよ」

 イルヒラ様は少し恥じ入るように笑いながら、「ありがとう」と言葉にしました。絶対的強者である巨神竜は、常に人々の先陣に立ち、庇護し、鼓舞する神です。ですが、いち個人として誰かが気遣って守ってくれることに喜びを感じる心を持っているのですね。


「……こっちこそ。オレの二十年の最後に、傀儡竜としてただ尽きるだけじゃない意義を与えて貰えて、感謝してるぜ」

 最後にシホとイルヒラ様は、どちらからともなくごく自然に、別れの抱擁を交わしました。




 ほんの一日と半分しか使える時間がないのですから、少しでも多くの場所を巡って、いつもとは違う特別な思い出を残す。そういう方法もあったでしょうが、シホとわたくしの希望は一致していました。それは今までと変わりなく、シホの部屋で人目を気にせずふたりだけで過ごすというものです。

 わたくしも今は身重の体だからというのも、事情としてはもちろん大きいのですが。シホの借りる宿の窓から見える、いつもと変わらない角度のグランティスの街並み。昼と夜とで趣の違いはありますが、人々が行き交い談笑したり、幼子が駆け回って遊んだり。

 残された時間の全てを使って探し求めても、この窓からの眺めを超える幸せな景色なんて見つからないでしょう。この後、わたくし達にどんな運命が待ち受けようと。あなたとふたりだけで眺めたこの景色を、心に刻もうと思いました。いつかわたくしの命が尽きる、その日まで。


 そして、わたくしはその晩。ひとつだけ、今までとは違った、特別な思い出を残したいこと。その方法をシホに伝えて、付き合っていただくことになりました。


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