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生まれてくる「証」

ふたりの宝もの

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 とりあえず、エリシア様の血痕とわたくしが嘔吐したものから離れようと、シホはわたくしをゆっくり立たせて、肩を支えながら少し歩きました。

 わたくしはすっかり、身を起こしているのも重怠い有様でした。シホは自分が先に地面に腰を下ろし、胸にわたくしの背をもたれかからせてくれました。わたくしの肩越しに、お腹のあたりを覗き込みます。

「大丈夫か?」

「ええ……、いえ、今はやっぱり、気持ち悪い……辛い、けど。……想像の通り、だったら……嬉しいから」

「……だよな。だったら、いいよなぁ」

 シホは左手でわたくしの肩を支えて、右手をお腹まで伸ばして、微かに撫でました。その右手を見下ろしていて、思い出します。右手の甲には、鍛錬の際にエリシア様が不意打ちで出した無詠唱魔法の直撃を受けた火傷の痕が消えずに残っています。

「シホ……以前から、あなたに言おうと思っていたことがあるの」

「なんだ?」

「この子……トイトイを、あなたの戦いに連れて行って欲しいの。わたくしの代わりに」

 わたくしは常に、右手にトイトイを着けています。その右手をシホの火傷痕に重ねます。

「わたくしはしばらく、予選会には出ない。今だけは、わたくしだけの体ではないから、大事にしたい。魔法剣はね、普通の武器と違って、多少なら魔法を斬撃出来るの。太陽竜の火球にどこまで通用するかなんてわからないけれど、きっと、あなたのことを守ってくれるはずだから……」

「だったら、このトイトイを返すためにも。どんな風になっていようが、オレはレナのところへ戻ってこないとだな」

「ええ……お願いね」



 宮廷医に診ていただいて、ふたりの宝が確かにこの身に宿ったのだと、認められました。

 残念なことに、わたくしが懐妊したことにより、最後の三か月はシホと一緒に過ごせる時間が激減してしまいました。わたくしの悪阻の症状はさして軽くはなく、頻繁に吐き戻してしまいます。シホの暮らす宿泊所の個室には水回りがありませんし、あったとしても宿の方にもご迷惑ですから。

「それなら逆に、シホが王宮に泊まったら? 部屋は有り余ってるし、何ならレナちゃんの寝台だって余裕でふたりで寝られるんだし」

 イルヒラ様はそうご提案くださいましたが、わたくしからそれはお断りしました。シホは相変わらず、剣闘場での試合とエリシア様との鍛錬で忙しい体です。夜はわたくしの体調を気にせず、ぐっすり眠って休んで欲しいと思いました。


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