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愛しているから、言えない

残酷な夜明けⅠ

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 深夜に寝台の中で目覚めた時、わたくしはシホの体温を感じました。胎児のように身を丸めたわたくしは彼の胸に包まれるような体勢でいました。未だ覚醒しきらずぼんやりとした頭のままで、わたくしを腕枕している彼の顔を見上げます。シホはわたくしより先に目覚めていて、じっとわたくしを見ていました。

「知らねえ方がレナにとっちゃ平和でいられるんだろうが……聞いとくか? オレの本音」

 こんな不穏過ぎる言い方をされて、聞きたいと思えますか? ……いいえ、少しくらい不穏な前振りをされた方が、人は好奇心を刺激されてしまうものです。怖いもの見たさという心境で、わたくしは聞かせて欲しいとお願いしました。

「オレの母親が体を売って生活していたのは、生活に困ってとかやむにやまれずそうしてたっていうよりはだな。そういう行為が人より好きだから。『好きなことを仕事にしてえ』って願望ゆえだったっていうんだよな」

「……そ、それはなんとも。破天荒なお母様で……」

 過去にお母様のお話をシホが話してくれた時、彼は「自慢の親だった」と言っていたので。話の最後まで聞く前に、否定的な感情を抱かずにいようと思いますが。

「そういうわけだから、一度、こういう関係を知っちまうとだな。オレの目指す他の目標の何もかもがどう~でもよくなっちまうんじゃないかって。どうせ二十年の体なら、知らずに終わるのが平和なんじゃねえかと思ったわけだよ」

「……実際に体験してみて、どうだったの?」

「そりゃあもう、おふくろの気持ちがよぉ~~っく、わかったさ」

 シホは肘をついて身を起こし、ふたりの上に被っていた布団をはいで、何も身に着けていないわたくしの肩に手で触れました。試合で負った傷痕がいくつも残る腕を上から下へと撫でていきます。

「レナの、この体の全部、オレのものにしてえ。他の男にゃ触れさせねえで、いつまでもひとり占めしていられたらどんなにいいかって。今まで割り切れてたオレの人生が悔しく思えてきちまったよ」

「……ごめんなさい、って、言うべき? わたくしの願いを叶えるために、あなたをそんな気持ちにさせて」

 無性に申し訳なくなって、目の中がまた、冷たくなってきました。

「まさか。直接に愛を告げられねえオレにこんな幸せを教えてもらって、オレの方こそレナに感謝するべきだろ」

 わたくしの目尻に浮かんでいた水滴を拭った指先をぺろりと撫でて、シホはもう一度、わたくしに覆いかぶさって唇を重ねます。わたくしも力を抜いて、お互いの舌の感触を味わいます。


 心地よくて、幸せで、堪りませんでした。




 それからのわたくしとシホは、お互いに忙しすぎる日々の合間で隙を見つけては、彼の部屋でこのように過ごしました。会話よりも何よりも、ただただ体を重ねることを重視した逢瀬。

 行為を終えて、布団の中でただ抱き合って温もりを感じている時。容赦なく重みを増していく瞼に叱責し、眠りたくない、と念じ続けていました。彼とふたりだけの小さな部屋の中で過ごす夜。それ以上の幸せな時間が、わたくしの今後も続く人生の中にあるとは思えませんでした。

 このまま時が止まって、朝など来なければいいのに。いつだってそう願っていましたが、どんなに抗ってもわたくしは彼の腕の中で眠りに落ちて、朝は巡ってくるのでした……。
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