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愛しているから、言えない

姫君の眼差しⅡ

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「ああ……まさしく、『気が変わった』としか言いようがねえんだけどよ」

 シホは手を伸ばし、わたくしの前髪をかき上げます。その下に隠れているのは、あの日の、古い傷痕。

「これからもレナは、グランティスの剣闘場で戦っていくだろ? 自分の意思で、史上初の女剣闘士を目指す。後世の指標になれるような、エリシアのような強く気高い女傑になっていくんだよな?」

「……ええ。今後も、目指し続ける。わたくしはあなたと違って、人並みの時間に恵まれて生きているから。あなたの分も、その時間に報いたいと思うの」

「オレだって、レナがそうなっていく……夢を叶えていく過程を、この目で見たかった。オレが夢を目指す姿をレナはいつも見守って、応援してくれたから。知り合いも何もねえこの国にひとりでやって来たオレを、他の誰より特別に、ずぅっと見ていてくれたレナの存在は……オレにとってどんだけ救いになってたか……」

「……いつから、知っていたの? わたくしが、ずっとあなたを見ているって……」

「言っただろ? 初めて満月の下でオレ達の遭遇した、あの夜に」


 ……いっつも物欲しそうな目をして見ていただろう。オレ達の試合をさ。


 あの時には、もう。わたくしのあなたを見る眼差しに、気付いてくれていたのね……。






「オレには見られねえレナの一生を、オレに代わって見続けてもらいてえ。そんなの、赤の他人にゃとても託せねえ。だが、レナが子供を産んだなら、そいつは母親としてのレナをずぅ~っと見ていくはずだろ?」

 まあ、母親を置いて故郷を出てきたオレが言っても説得力がねえかな。なんて、シホは力なく笑います。わたくしは首を横に振って、否定します。

 自分がこの世に在るうちに、生きた証を残したい。死んでからはむしろ、残された人の重荷になりたくない。そんな彼が、ようやく、自分の我儘を言えるようになったのです。

「あなたの願いを託された命を、わたくしはこの体に宿したい……あなたの代わりに、これからも一緒に生きていきたい」

「ああ。その宝に恵まれたなら、誰より大事にしてやってくれ。レナがオレをずっと、見守ってくれたようにな」

 お互いの呼吸が触れそうな距離感にあるシホの顔が、瞬く間に滲んでぼやけていきました。わたくしの腕は無意識に、緩慢に動いて、彼の両頬を手のひらで挟んでいました。

 わたくしとシホはお互いに瞼を閉じて、薄闇の中でお互いの唇を触れ合わせました。

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