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グランティスの未来のために
グランティスの運命
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「これより三百年ほど先のこと。千年目の約束の日を迎える間際、グランティスの国内で太陽竜殿と真っ向勝負と相成った巨神竜殿は敗北し、命を落とされます」
「……は、エリシア様?」
てっきり、シホに向けての予言であると思い込んでいたわたくしは、思わず声を漏らしてしまいます。それも、あのエリシア様が、敗北する?
「私は『あなた方の運命』と申し上げたはずですよ、お嬢さん。そちらの彼は、私が何を伝えたいのかおわかりのようですが?」
わたくしはようやく身を起こすことにして、シホの太股に手のひらだけのせて、彼の顔を覗き込みました。いつの間にか、シホは愕然とした顔で、月光竜を見つめています。
「最高神である太陽竜殿は、巨神竜殿がいかにお強くても、神器によって殺めることが出来ません。この世で唯一、太陽竜殿の命を直接的に奪うことが出来るのは……傀儡竜が、太陽竜殿の神器を用いて、致命傷を与える。これ以外にはないと思われますね」
月光竜のお告げはまだ続きます。いわく、太陽竜は明確な目的意識をもって、二十歳になって傀儡竜に神罰が下された後に「神器によって、傀儡竜を安楽死させる」ということを繰り返してきたのだと。先ほどのお話に上がったミモリ様の弟子も、そのような流れで太陽竜に殺された。
なので、このままシホがグランティスで暮らしていれば、一年後。太陽竜は神器を携えて、この地に現れることが確定している。
それまでに、太陽竜から神器を奪って。「傀儡竜になったシホがそれを使って、太陽竜を殺す」。それが出来れば、遥かな未来、エリシア様が太陽竜に殺されるという運命を変えることが出来る……?
「で、でも……傀儡竜になるということは、シホの体は神罰の苦痛に蝕まれている……そんな中で、神器を振るって最高神と戦うことなんて」
「彼がひとりで戦うとしたなら、限りなく難しいでしょうね。だからこれは、彼ひとりの問題ではない。『グランティスという国の運命を告げる予言である』。そういうことですよ」
どこか歪な笑みを浮かべながら、可笑しげでもなく淡々と告げられる予言を理解していくうちに、わたくしも血の気が引いていくような思いでした。
傀儡竜になったシホひとりの力だけで、太陽竜を屠るのは難しい。だったら、とどめを刺せるその時を迎えるまで、誰かが足止めをして決着だけをシホに任せる。
ですが、太陽竜は、巨神竜をもしのぐ戦力を個人で有する最高神。その足止めをするとしたら、グランティスが軍勢でもってあたらなければならないでしょう。太陽竜が相手では、軍勢といっても無傷で済ませられるはずがありません。国民から、犠牲を出してしまうかもしれない
こんな大事なことを、わたくし達……ふたりだけで、決断しなければならないなんて……。だからこそ、思ったのです。わたくしが今夜、あなたと一緒にいられて良かったと。もし、彼がたったひとりで月光竜に遭遇していたとしたら。グランティスという国の未来を懸けた重すぎる選択を、彼だけに背負わせてしまうことになっていたのだから。
「……考えるまでもねえ。そうだろ、レナ」
シホは、左腕でわたくしの左肩を自分の方へ抱き寄せました。わたくしの頭は彼の胸にあたり、心臓の音が聞こえてしまうほどに強く押し当てられます。
「グランティスの未来のために、太陽竜はオレが殺す」
そうするより他に道はねえ、と。シホは確たる決意として、それを口にしました。
「……は、エリシア様?」
てっきり、シホに向けての予言であると思い込んでいたわたくしは、思わず声を漏らしてしまいます。それも、あのエリシア様が、敗北する?
「私は『あなた方の運命』と申し上げたはずですよ、お嬢さん。そちらの彼は、私が何を伝えたいのかおわかりのようですが?」
わたくしはようやく身を起こすことにして、シホの太股に手のひらだけのせて、彼の顔を覗き込みました。いつの間にか、シホは愕然とした顔で、月光竜を見つめています。
「最高神である太陽竜殿は、巨神竜殿がいかにお強くても、神器によって殺めることが出来ません。この世で唯一、太陽竜殿の命を直接的に奪うことが出来るのは……傀儡竜が、太陽竜殿の神器を用いて、致命傷を与える。これ以外にはないと思われますね」
月光竜のお告げはまだ続きます。いわく、太陽竜は明確な目的意識をもって、二十歳になって傀儡竜に神罰が下された後に「神器によって、傀儡竜を安楽死させる」ということを繰り返してきたのだと。先ほどのお話に上がったミモリ様の弟子も、そのような流れで太陽竜に殺された。
なので、このままシホがグランティスで暮らしていれば、一年後。太陽竜は神器を携えて、この地に現れることが確定している。
それまでに、太陽竜から神器を奪って。「傀儡竜になったシホがそれを使って、太陽竜を殺す」。それが出来れば、遥かな未来、エリシア様が太陽竜に殺されるという運命を変えることが出来る……?
「で、でも……傀儡竜になるということは、シホの体は神罰の苦痛に蝕まれている……そんな中で、神器を振るって最高神と戦うことなんて」
「彼がひとりで戦うとしたなら、限りなく難しいでしょうね。だからこれは、彼ひとりの問題ではない。『グランティスという国の運命を告げる予言である』。そういうことですよ」
どこか歪な笑みを浮かべながら、可笑しげでもなく淡々と告げられる予言を理解していくうちに、わたくしも血の気が引いていくような思いでした。
傀儡竜になったシホひとりの力だけで、太陽竜を屠るのは難しい。だったら、とどめを刺せるその時を迎えるまで、誰かが足止めをして決着だけをシホに任せる。
ですが、太陽竜は、巨神竜をもしのぐ戦力を個人で有する最高神。その足止めをするとしたら、グランティスが軍勢でもってあたらなければならないでしょう。太陽竜が相手では、軍勢といっても無傷で済ませられるはずがありません。国民から、犠牲を出してしまうかもしれない
こんな大事なことを、わたくし達……ふたりだけで、決断しなければならないなんて……。だからこそ、思ったのです。わたくしが今夜、あなたと一緒にいられて良かったと。もし、彼がたったひとりで月光竜に遭遇していたとしたら。グランティスという国の未来を懸けた重すぎる選択を、彼だけに背負わせてしまうことになっていたのだから。
「……考えるまでもねえ。そうだろ、レナ」
シホは、左腕でわたくしの左肩を自分の方へ抱き寄せました。わたくしの頭は彼の胸にあたり、心臓の音が聞こえてしまうほどに強く押し当てられます。
「グランティスの未来のために、太陽竜はオレが殺す」
そうするより他に道はねえ、と。シホは確たる決意として、それを口にしました。
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