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グランティスの未来のために
未来なんて知りたくない
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ミモリ様は、弟子として面倒を見たその傀儡竜にも、同じように伝えていた。たとえ叶わなくても、自分が最後まで諦めず足掻くように生きる姿は、ミモリ様の目指す未来の世界への礎となる。水泡に帰すだけではないのだと。
月光竜の言うように、絶対に叶わないのだから早々に諦めて、余生を穏やかに過ごす道だって選べたでしょう……ですが、そうはされなかったのです。
お会いしたことのない方の、ほんの僅かな伝聞でしかないというのに。わたくしは深く共感して、その方が救われなかった悔しさに、拳を握りしめて震わせていました。
わたくしだって、王族に生まれて、ただ穏やかに。いつか誰かの子供を産む、その日を待つだけの人生を過ごすことだって出来たのです。わたくしの一生はそれで良し、満足ですとは思えなくて。結果として、わたくしは剣闘場で傷を受けながら戦うという道を選びました。戦乱の時代、誰かを守るために戦うというわけでもないのに、徒に苦労して傷まで受けるという不毛なことをして。
男性と同じ土台で戦って、たまにしか勝てなくて、最弱。それでも挫けないで立ち向かう。現状の剣闘場でたったひとり、平凡な人間の女の体であるわたくしが戦い続けることで、誰かが勇気を出すきっかけにはなるかもしれない。結果を伴わなくても努力する、ただそれだけで、わたくしの生きた証が残るのかもしれない。
……つくづく、「かもしれない」ばっかりで、確たる保障などなんにもありません。だけど、「結果が伴わない、叶わない夢ならば、努力する過程自体が無駄である」なんて、わたくしには絶対に受け入れ難い主張でした。
「さて、余談が長くなってしまいましたが、いよいよあなた方に運命を授けましょう。絶対にお聞きになりたくない、ということであれば、私はこのまま退散します。しばし時間を置きますので、お決めになってください」
月光竜としては、シホが「予言を聞くか、聞かないか」という選択すら、運命視によって見ているはずです。もしも、月光竜が知っている未来と違う選択をシホが選んだとしたら。それだけでも、月光竜の念願である「個人の行動によって、運命が変わる瞬間を目撃する」ことが出来るわけで。
どちらを選ぶのか、シホはかなり真剣に迷っています。未だ、彼の太股に体を預けて彼を見上げているわたくしの目には、シホの表情からそのように察します。
一瞬のようにも永遠のようにも感じられる時間でした。月光竜は、ふぅ、と小さな溜息を溢し、口を開きます。その吐息には、失意が滲んでいるような気がしました。シホの選択は彼の見た運命視から違えていなかったのかもしれないですね。
月光竜の言うように、絶対に叶わないのだから早々に諦めて、余生を穏やかに過ごす道だって選べたでしょう……ですが、そうはされなかったのです。
お会いしたことのない方の、ほんの僅かな伝聞でしかないというのに。わたくしは深く共感して、その方が救われなかった悔しさに、拳を握りしめて震わせていました。
わたくしだって、王族に生まれて、ただ穏やかに。いつか誰かの子供を産む、その日を待つだけの人生を過ごすことだって出来たのです。わたくしの一生はそれで良し、満足ですとは思えなくて。結果として、わたくしは剣闘場で傷を受けながら戦うという道を選びました。戦乱の時代、誰かを守るために戦うというわけでもないのに、徒に苦労して傷まで受けるという不毛なことをして。
男性と同じ土台で戦って、たまにしか勝てなくて、最弱。それでも挫けないで立ち向かう。現状の剣闘場でたったひとり、平凡な人間の女の体であるわたくしが戦い続けることで、誰かが勇気を出すきっかけにはなるかもしれない。結果を伴わなくても努力する、ただそれだけで、わたくしの生きた証が残るのかもしれない。
……つくづく、「かもしれない」ばっかりで、確たる保障などなんにもありません。だけど、「結果が伴わない、叶わない夢ならば、努力する過程自体が無駄である」なんて、わたくしには絶対に受け入れ難い主張でした。
「さて、余談が長くなってしまいましたが、いよいよあなた方に運命を授けましょう。絶対にお聞きになりたくない、ということであれば、私はこのまま退散します。しばし時間を置きますので、お決めになってください」
月光竜としては、シホが「予言を聞くか、聞かないか」という選択すら、運命視によって見ているはずです。もしも、月光竜が知っている未来と違う選択をシホが選んだとしたら。それだけでも、月光竜の念願である「個人の行動によって、運命が変わる瞬間を目撃する」ことが出来るわけで。
どちらを選ぶのか、シホはかなり真剣に迷っています。未だ、彼の太股に体を預けて彼を見上げているわたくしの目には、シホの表情からそのように察します。
一瞬のようにも永遠のようにも感じられる時間でした。月光竜は、ふぅ、と小さな溜息を溢し、口を開きます。その吐息には、失意が滲んでいるような気がしました。シホの選択は彼の見た運命視から違えていなかったのかもしれないですね。
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