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グランティスの未来のために

報われない努力なんてない

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 わたくしは、月光竜と同じく神竜であるエリシア様の口から、このように聞かされていました。「月光竜に遭遇してもたらされる絶対変わらない未来予知に基づいた助言じみた何かは、迷惑この上ない余計なお世話である」と。

 予選会に出場したわたくしは、一年間で一度も勝てない最弱の選手でした。勝てる見込みがない中で足掻くばかりの日々でしたが、もしも「あなたは一年間耐えれば、最初の勝ち星を得られますよ」だとか、あるいは「今後も絶対に勝てませんよ」といったお告げがあったとしたら、どうだったでしょう。

 ……なんとも、言語化が難しいのですが。「余計なお世話である」というのはまさしくこういうことでしょう。未来なんて知らないからこそ、純粋に取り組める。人が生きるというのはそういうことだと、わたくしは思います。

 思いっきり反論して、何ならわたくしに備わる全ての語彙を駆使して罵倒してさしあげたい気持ちを、わたくしはどうにか堪えていました。月光竜はあくまで、シホに向かって話していて。シホは静かに、その言葉を聞き入れているからです。少なくとも、相手の言い分を最後まで聞こうという姿勢が、シホからは感じられるから……。

「四百年ほど前でしたか。あなたのように、傀儡竜が神罰を逃れて救われる可能性を探し求めて、二十年目を迎えるギリギリまで努力し続けた傀儡竜がいましてね。彼は世界一の大賢者、ミモリ・クリングル殿に師事していました。私はミモリ殿に運命をお伝えしたくてそちらへ伺ったのですが、せっかくお会いしたのだからと思って、先ほど言ったことを彼にも伝えたのですよ」

「……どんなに努力したって、傀儡竜が救われる手段なんかありゃしねえ。無駄な努力なんかしてねえで、余生は穏やかに暮らしたらどうか。ってことか?」

「その通りです。彼もまた、運命を変えてはくれませんでしたけどね」

「結果として自分の命が助からなくても、努力を続けること自体は無駄にならねえ。そいつはそれを知ってたんだよ」

「……シホ?」

「オレも、ミモリ様に聞かせてもらった。その傀儡竜の残した、この世に生きた証をな」

 大賢者のミモリ様という方は、世界一の魔法都市であるフィラディノートに本籍を置かれています。シホもまた、生まれ、育ちはフィラディノートでした。


「ミモリ様はフィラディノートで傀儡竜が生まれたと知って、わざわざオレに会いに来た。四百年前に自分が面倒見て、救われなかった傀儡竜のことを伝えたいって。そいつフウの結末を見届けて、ミモリ様は改めて、誓ったんだそうだ。『いつか必ず、特定の個人だけが割を食う不平等な世界じゃなくて。誰もが公平に同じ時間を穏やかに生きられる世界を、自分が実現してみせる』ってな」
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