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グランティスの未来のために

心の距離は、確かに近づきました

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 あんな風に触れあったというのに、次にお会いした時にはシホは今までと変わらぬ態度でした。軽薄で、会話をしたら節々が意地悪で。まぁ、たまにはしおらしくて優しいシホも悪くないとは正直思いはしましたけれど、やっぱりこの方が彼らしくて落ち着きますよね。

 今までと、何もかもが変わらなかったというわけではありません。わたくしもシホも、心に高い壁を築いて隠してきた最大の秘密を、お互いに打ち明け合いましたから。剣闘場では他の人の目もあるからともかくとして、満月の夜に町の外でふたりきりで会って話す時には、明らかに今までとは違った距離感の会話になっていました。


 赤首になったシホは、剣闘場で優勝すればエリシア様との模擬試合の権利を獲得します。この一年間の間に、二度、その機会がありました。二年間の「真面目に剣闘士として取り組んだ経験」があるので、最初の対戦のように一瞬で終わってしまうという結果にはなりませんでした。とはいえ、エリシア様は全力で手加減をして何度か打ち合いに付き合ってくださるという体ですし、その上で勝利は全く叶わない、夢のまた夢という印象でした。

 わたくしは相変わらずの戦績ではありましたが、出る試合全てで負けるという状況からは脱することが出来ました。一年の間に、片手で数えて余るほどの勝ち星を獲得しました。

 これは、エリシア様やシホからも指摘を受けたのですが……。

「最初から勝とうとしなくても、負けながら経験詰んで徐々に強くなればいい。っていうエリシアの考えも間違ってなかったんだろうけどな。『なんとしても絶対に勝ちてえ、負けたくねえ』って気概がなかったせいで、レナはなかなか勝てなかったのかもしれないな」

「そうねー。勝てないからって挫けて出場出来なくなるより、結果にこだわらず出るだけ出たらって思って言ったんだけど。あたしがしくじったのかも」

「いえ。負け続けても気落ちせずに試合に出るという心と、剣技の経験も重ねられました。エリシア様の指導が間違っていたわけではないと思います」

 ポーラ・メイディッチとの試合はわたくしの体に物理的な傷を、シホの心に負い目という傷を与えた最低最悪なものでしたが。ある意味、わたくしを次なる境地へ踏み込ませてくれたきっかけになったのかもしれません。



 ……そして、シホが運命の一日を迎える「最後の一年間」は、間もなく幕を開けようとしているのでした。
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