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史上初の女性剣闘士を目指して、頑張ります!
そばにいて欲しい時
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医務室で頭の傷の手当てを受けました。斬られた場所が頭なだけに慎重に確認がなされましたが、重篤な後遺症はなさそうだということでした。
しかし、わたくしは繊細な場所に傷を受けて多くの血を流したせいなのか、心身を疲弊させて、微熱を出してしまいました。
「初勝利おめでとう。だけど、その程度の切り傷で熱なんか出してる軟弱なところ、ひとに見られたら王家の恥だわ」
予選会に関心はなくとも、わたくしの試合はきちんと観戦してくださっているエリシア様です。お祝いの言葉はくださいましたが、そのように申しつけられて。わたくしは医務室から事務室へ移動しました。
事務室には勤務中に昼食をいただいたり、仕事が片付かず帰りそびれてしまった夜に仮眠をしたりするための、革張りの大きな長椅子があります。わたくしは座布団を丸めて枕代わりにして、そちらに横になっていました。
まだお日様も高い時分です。本日の予選会の試合は、まだまだ続いています。当然、係員は試合の最中に事務室で寛いでいる者など誰もいません。
自分ひとりの空間で、静かに横になっていると、頭の傷がズキズキと痛みました。剣闘大臣を任されていた頃のわたくしは、この部屋でひとりきりで過ごした覚えはありません。そのせいか、なんだか非常~~に、孤独感に苛まれます。……二十歳にもなって。自分で望んで出た試合で負った傷の痛みで、誰も側にいないからと心細くなんてしまうなんて。エリシア様のおっしゃる通り、こんな軟弱な姿、恥ずかしくてひとに見せられませんね……。
「……よお。お加減はいかがですか、……なんてな」
ひとに見られたくないと思ったそばから現れるんですから、この人ときたら……ですが、「見られたくない」なんてちっとも本音ではない、単なる強がりなのですから。ここぞという時機にやって来て、ちゃんと側にいてくれる……本質は、そちらだったりするのかも。
「きちんと診ていただいたもの。あの程度の傷、大したことないわ。それよりシホ、あなたの方こそいつもの元気がないじゃない……」
「ん……さっきの試合。メイディッチは剣闘士界隈でも最低の野郎だって知れ渡ってたから。よりにもよって今朝、あんなかる~い口約束をした日に対戦に当たっちまって。そのせいで、無理をさせすぎたんじゃねえかと思ってな……」
「今日の試合にあなたの責任は何ひとつないわ。わたくしは以前から、あの男が大嫌いだった。だから絶対に負けたくなかった、それだけよ。自分のせいでこうなったなんて、自意識過剰だわ」
しかし、わたくしは繊細な場所に傷を受けて多くの血を流したせいなのか、心身を疲弊させて、微熱を出してしまいました。
「初勝利おめでとう。だけど、その程度の切り傷で熱なんか出してる軟弱なところ、ひとに見られたら王家の恥だわ」
予選会に関心はなくとも、わたくしの試合はきちんと観戦してくださっているエリシア様です。お祝いの言葉はくださいましたが、そのように申しつけられて。わたくしは医務室から事務室へ移動しました。
事務室には勤務中に昼食をいただいたり、仕事が片付かず帰りそびれてしまった夜に仮眠をしたりするための、革張りの大きな長椅子があります。わたくしは座布団を丸めて枕代わりにして、そちらに横になっていました。
まだお日様も高い時分です。本日の予選会の試合は、まだまだ続いています。当然、係員は試合の最中に事務室で寛いでいる者など誰もいません。
自分ひとりの空間で、静かに横になっていると、頭の傷がズキズキと痛みました。剣闘大臣を任されていた頃のわたくしは、この部屋でひとりきりで過ごした覚えはありません。そのせいか、なんだか非常~~に、孤独感に苛まれます。……二十歳にもなって。自分で望んで出た試合で負った傷の痛みで、誰も側にいないからと心細くなんてしまうなんて。エリシア様のおっしゃる通り、こんな軟弱な姿、恥ずかしくてひとに見せられませんね……。
「……よお。お加減はいかがですか、……なんてな」
ひとに見られたくないと思ったそばから現れるんですから、この人ときたら……ですが、「見られたくない」なんてちっとも本音ではない、単なる強がりなのですから。ここぞという時機にやって来て、ちゃんと側にいてくれる……本質は、そちらだったりするのかも。
「きちんと診ていただいたもの。あの程度の傷、大したことないわ。それよりシホ、あなたの方こそいつもの元気がないじゃない……」
「ん……さっきの試合。メイディッチは剣闘士界隈でも最低の野郎だって知れ渡ってたから。よりにもよって今朝、あんなかる~い口約束をした日に対戦に当たっちまって。そのせいで、無理をさせすぎたんじゃねえかと思ってな……」
「今日の試合にあなたの責任は何ひとつないわ。わたくしは以前から、あの男が大嫌いだった。だから絶対に負けたくなかった、それだけよ。自分のせいでこうなったなんて、自意識過剰だわ」
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