魔法剣の姫は、まもなく散る猛き花を愛しました。

sohko3

文字の大きさ
上 下
59 / 111
史上初の女性剣闘士を目指して、頑張ります!

そばにいて欲しい時

しおりを挟む
 医務室で頭の傷の手当てを受けました。斬られた場所が頭なだけに慎重に確認がなされましたが、重篤な後遺症はなさそうだということでした。

 しかし、わたくしは繊細な場所に傷を受けて多くの血を流したせいなのか、心身を疲弊させて、微熱を出してしまいました。

「初勝利おめでとう。だけど、その程度の切り傷で熱なんか出してる軟弱なところ、ひとに見られたら王家の恥だわ」

 予選会に関心はなくとも、わたくしの試合はきちんと観戦してくださっているエリシア様です。お祝いの言葉はくださいましたが、そのように申しつけられて。わたくしは医務室から事務室へ移動しました。

 事務室には勤務中に昼食をいただいたり、仕事が片付かず帰りそびれてしまった夜に仮眠をしたりするための、革張りの大きな長椅子があります。わたくしは座布団を丸めて枕代わりにして、そちらに横になっていました。

 まだお日様も高い時分です。本日の予選会の試合は、まだまだ続いています。当然、係員は試合の最中に事務室で寛いでいる者など誰もいません。

 自分ひとりの空間で、静かに横になっていると、頭の傷がズキズキと痛みました。剣闘大臣を任されていた頃のわたくしは、この部屋でひとりきりで過ごした覚えはありません。そのせいか、なんだか非常~~に、孤独感に苛まれます。……二十歳にもなって。自分で望んで出た試合で負った傷の痛みで、誰も側にいないからと心細くなんてしまうなんて。エリシア様のおっしゃる通り、こんな軟弱な姿、恥ずかしくてひとに見せられませんね……。


「……よお。お加減はいかがですか、……なんてな」

 ひとに見られたくないと思ったそばから現れるんですから、この人シホときたら……ですが、「見られたくない」なんてちっとも本音ではない、単なる強がりなのですから。ここぞという時機にやって来て、ちゃんと側にいてくれる……本質は、そちらだったりするのかも。


「きちんと診ていただいたもの。あの程度の傷、大したことないわ。それよりシホ、あなたの方こそいつもの元気がないじゃない……」

「ん……さっきの試合。メイディッチは剣闘士界隈でも最低の野郎だって知れ渡ってたから。よりにもよって今朝、あんなかる~い口約束をした日に対戦に当たっちまって。そのせいで、無理をさせすぎたんじゃねえかと思ってな……」

「今日の試合にあなたの責任は何ひとつないわ。わたくしは以前から、あの男が大嫌いだった。だから絶対に負けたくなかった、それだけよ。自分のせいでこうなったなんて、自意識過剰だわ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない

もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。 ……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。

処理中です...