魔法剣の姫は、まもなく散る猛き花を愛しました。

sohko3

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巨神竜を追いかけて

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 「赤首が剣闘場で優勝した時のみ」しか模擬試合は開催されないので、その機会は一年に数度しかありません。ゆえに模擬試合が開催される日はその開催に集中するため、他の試合は行われないことになっています。

 観客がお帰りになってから、剣闘場の事務室では今後の試合の対戦表の作成などの雑事を行いました。わたくしも一応、剣闘大臣の役職に就いておりますので参加します。雑事に煩わされたくないエリシア様はすでに、イルヒラ様に姿を変えていました。

「はー、終わった終わった」
「本日はお疲れ様でした。イルヒラ様も、エリシア様も」
「レナちゃんこそ。じゃあ、帰ろうか」
「はい」

 イルヒラ様も、エリシア様と同じように神器の斧頭を肩にのせて歩き出し、わたくしはその後についていきます。剣闘場を出ると時刻はすでに夕暮れで、空が赤くなっていました。

 グランティスという国は人工芝を全体に育てていて、剣闘場の周囲でも例外なく。その芝生の上に、胡坐をかいて座り込むシホ様がいました。試合は午前中でしたし、十文字槍は分解して手提げ鞄に納めてあり、剣闘士の身なりから私服にも着替えています。とっくに帰宅の準備を整えているのが明らかなのに、何時間もここにいた様子。

 気の抜けたような表情でぼんやりと空を見つめているので……もしかして、いわゆる燃え尽き症候群にでもなってしまわれたのだろうかと、わたくしは言い難い感情に蝕まれます。わたくしは、シホ様の生涯を捧げた夢が「叶わない可能性が高い」のを知りながら、今日まで何の助言もせず口を噤んできましたから。何と言ったら良いのかわからなかったというのもありますが、自分の行動が無責任に思えてしまうのです。

「よお、お疲れ。あの長い槍、そうやって小さくして運んでたんだな。便利そうでいいな」

 イルヒラ様は一寸の憐れみすらなく、常と変らぬ態度でシホ様に話しかけました。本当は俺達の神器も「姿かたちを変えることに特化してる」から、やろうと思えば小さく出来るんだけど、エリシアが絶対に許してくれないんだよな、とぼやいています。

 気まぐれに声掛けしただけで、長話しようという気はなかったのでしょう。イルヒラ様は立ったままで、座り込むシホ様を見下ろします。シホ様は少しすねたような、鳥のように唇を尖らせたままで口を開きます。


「イルヒラさんよぉ。あんたが話してたのと大分違うんじゃないか?」

「ん? 何が?」
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