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巨神竜を追いかけて

目指し続けた夢

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「そいつはまた……ありがてぇこった……」

 エリシア様が構えないのは、決まり通りではあるのですが。打ち込むまで動きもしないというのは明らかな恩情です。闘神からひとりの戦士への情けであり、ありがたい話ではあるのですが、きっとシホ様はエリシア様との絶対的な格の違いも痛感したでしょう。

 銅鑼が鳴ったらすぐ動け、というのも、もたついたら見下げるぞと言われているようなもの。シホ様はその瞬間を、どのような心境でお待ちになったでしょうか。


 シホ様の限られた一生の中で二度目があるとも限らない、運命の音が鳴り響きました。

 つまらない動きを見せるなと忠告されていたシホ様は、最初から全力で駆け出しました。ですが、わたくしには一秒が一分のように、長く長く、動きがコマ送りのように見えてしまいました。それはシホ様の動きが鈍かったというわけではなく、わたくしの心がそのように体感させただけでしょう。

 グランティスの王族に生まれたわたくしは、エリシア様の圧倒的な強さを生まれた時から間近に眺めていました。だから、シホ様の願いが叶うのか……夢が叶いますようにと祈りながらも、やはり、現実を知ってもいたのです。

 「その瞬間」を迎えたくない。目の当たりにするのが辛い。その気持ちが、今、この場で繰り広げられる光景を……シホ様の動きのひとつひとつを、目に焼き付けることを優先して、このように体感させていたのかもしれません。

 たとえ叶わなくても。人生の目標に手が届くかもしれないという、念願の夢のただ中にいるその瞬間の姿を、この心に刻みつけたかったから……。


 構えもしない相手に対して、シホ様はどこへ打ち込もうとされたのか。一発打ち込んだ後には、エリシア様も動き出すことを想定して、腋を開けすぎるわけにはいきません。そこをしっかりと意識しながら。

 シホ様は真正面ではなく、エリシア様の左耳に触れるか触れないかという際に、十文字槍の穂先を突きました。そして、自分に出来るありったけの速さで、伸ばした腕を手前に引き戻します。穂の三日月でうなじを斬ろうとしたようです。


 エリシア様は膝を曲げてしゃがみ、難なく穂をやり過ごし。右側に半身を少し捻り、右手だけで提げていた戦斧の柄を左手でも握ります。

 左足を前に踏み出し、ぐんと腰を持ち上げて。大きな斧の刃を的確に、シホ様と自分の体の隙間へ滑り込ませて。刃先をシホ様の首の防具に水平に沿わせていたのでした。

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