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巨神竜を追いかけて

女王の称賛

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 シホ様が控室を出られるので、わたくしは人目を気にしながら少し小走りに主賓室へ戻ります。辿り着いた頃には、エリシア様とシホ様はすでに試合場でそれぞれの立ち位置についておられました。

 エリシア様との模擬試合には、二点、決まりがあります。まず、開戦を告げる銅鑼は通常の試合と変わらず鳴らすこと。もうひとつは、挑戦者は銅鑼が鳴る前、エリシア様は鳴ってから武器を構えるということ。

 エリシア様と挑戦者を全く対等の状態から始めてしまうと、エリシア様と打ち合える可能性すらゼロになってしまうから。本当にささやかですが、不利な条件ハンディキャップを設けているのです。


 イルヒラ様の時もそうでしたが、エリシア様との戦いを控えたシホ様は余裕の一切見えない、緊張で張り詰めたような表情をされています。無理もありません。自分の限られた生涯で果たしたいと定めた、大いなる目標ゆめ。そして、試合場とはいえ戦場に立つエリシア様は普段の彼女とは違って、人ではなく「闘いの神」なのです。本物の神の前に立ち、しかもこれから神と戦う人が畏怖を感じずにいられるはずがないのです。


 固い表情のままで、シホ様は正眼に構えました。長い十文字槍の穂先はまっすぐ、シホ様の目の高さにあり。対極に佇むエリシア様の眉間に照準を合わせているようです。

「良い槍ね。隅々まで磨き上げて、あんたの『感情こころ』がたっぷり込められてるのが一目で分かる」

 エリシア様……巨神竜は、「力と感情を司る神」と伝えられてきました。エリシア様は、人が人に、あるいは物に、強烈に感情を注ぐことを尊ばれます。

「予選会でも本戦でも、あんたがグラディウスを振るってる姿はいつ見ても、つまんないなぁとしか思わなかったのよ。本命を隠してたんだってのは納得したけど、扱う以上は相応に魅せる使い方が出来てないっていうのはいただけないわね」

「まったく。あいつグラディウスには申し訳ないことしたと、これでも反省はしてるんだけどな」

 以前、わたくしに対しておっしゃっていたのと同じ言葉を、シホ様は再び口にされました。致し方なかったとはいえ、巨神竜との戦いという本番までの繋ぎのように扱ったことは本当に反省しているようですね。

「その槍の動きなら、この目で見て焼き付けておきたいわ。銅鑼が鳴ったら即行で、一発打ち込んできなさい。この期に及んでつまらないもの動き見せたら承知しないわよ」


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