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巨神竜を追いかけて

儚き花に恋をした

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 下世話を言うが、この顔も母親譲りで、色々と得をさせてもらえるからな。シホ様はご自分の顔を指さしました。父親が誰なのかわからなかった、というのは、顔がお母様に似すぎていてお父様の名残りを見つけにくいからなのでしょうか。

「シホ様はお母様にそっくりなのですね。でしたらお母様も、とても美しい方なのでしょう」

 まあな! と、シホ様は一切謙遜をせず、肯定されます。お母様譲りのお顔で、得をした。実際、その通りなのでしょう……わたくしだって、あの日。男性でありながら女性のように見まがう美しいお顔に目を奪われてしまいました。しかし、お顔に反して女性らしさとは対極の美丈夫で。自信に満ちて、力強くて。……それなのに、「命」だけは、たったの二十年しか許されない。

 こんなにも、戦って生きる人として強い心と、磨き上げた技術があるというのに。わたくしには到底手の届かない、高嶺の花のような人なのに。……いいえ、まさしく。ほんの僅かな時間だけ美しく咲いて、人の心に強く印象を残して散っていく、花のよう。貴方はそういう人なのかもしれません。



「ん、どうした? 元気がなくなっちまったじゃねえか」

 エリシア様との試合、頑張ってくださいね! そう激励することが目的だったはずなのに、わたくしはすっかり、気分を落としてしまいました。シホ様と出会って一年間、自分の中で無意識に、目を逸らせようとしていた気持ちをついに自覚してしまったからです。

「……シホ様にとって、長年の夢を叶えようという大事な日ですから。図々しいですが、わたくしまで緊張しているのか、胸が苦しくなってしまいました」

「ふ~ん……そいつぁ申し訳ねえな。苦しいのが胸とあっちゃあ、さすってやるってわけにもいかねえもんな」

「またそうやって、お顔に似合わない……」

「下品な冗談をおっしゃって、ってか?」

 シホ様は舌を出して、悪戯な男児のように笑いました。後になって振り返ると、彼はとても、人の心に聡い人でしたから。わたくしのこの時の、そして日頃の態度から、とっくに気付いていたのかもしれませんね。わたくしが貴方に、恋しているのだと。

 胸をさするのは、と言っておいて、これくらいならいいか? とことわった上で。彼はわたくしの背中を遠慮がちに撫でてくださったのでした。
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