33 / 111
巨神竜を追いかけて
儚き花に恋をした
しおりを挟む
下世話を言うが、この顔も母親譲りで、色々と得をさせてもらえるからな。シホ様はご自分の顔を指さしました。父親が誰なのかわからなかった、というのは、顔がお母様に似すぎていてお父様の名残りを見つけにくいからなのでしょうか。
「シホ様はお母様にそっくりなのですね。でしたらお母様も、とても美しい方なのでしょう」
まあな! と、シホ様は一切謙遜をせず、肯定されます。お母様譲りのお顔で、得をした。実際、その通りなのでしょう……わたくしだって、あの日。男性でありながら女性のように見まがう美しいお顔に目を奪われてしまいました。しかし、お顔に反して女性らしさとは対極の美丈夫で。自信に満ちて、力強くて。……それなのに、「命」だけは、たったの二十年しか許されない。
こんなにも、戦って生きる人として強い心と、磨き上げた技術があるというのに。わたくしには到底手の届かない、高嶺の花のような人なのに。……いいえ、まさしく。ほんの僅かな時間だけ美しく咲いて、人の心に強く印象を残して散っていく、花のよう。貴方はそういう人なのかもしれません。
「ん、どうした? 元気がなくなっちまったじゃねえか」
エリシア様との試合、頑張ってくださいね! そう激励することが目的だったはずなのに、わたくしはすっかり、気分を落としてしまいました。シホ様と出会って一年間、自分の中で無意識に、目を逸らせようとしていた気持ちをついに自覚してしまったからです。
「……シホ様にとって、長年の夢を叶えようという大事な日ですから。図々しいですが、わたくしまで緊張しているのか、胸が苦しくなってしまいました」
「ふ~ん……そいつぁ申し訳ねえな。苦しいのが胸とあっちゃあ、さすってやるってわけにもいかねえもんな」
「またそうやって、お顔に似合わない……」
「下品な冗談をおっしゃって、ってか?」
シホ様は舌を出して、悪戯な男児のように笑いました。後になって振り返ると、彼はとても、人の心に聡い人でしたから。わたくしのこの時の、そして日頃の態度から、とっくに気付いていたのかもしれませんね。わたくしが貴方に、恋しているのだと。
胸をさするのは、と言っておいて、これくらいならいいか? とことわった上で。彼はわたくしの背中を遠慮がちに撫でてくださったのでした。
「シホ様はお母様にそっくりなのですね。でしたらお母様も、とても美しい方なのでしょう」
まあな! と、シホ様は一切謙遜をせず、肯定されます。お母様譲りのお顔で、得をした。実際、その通りなのでしょう……わたくしだって、あの日。男性でありながら女性のように見まがう美しいお顔に目を奪われてしまいました。しかし、お顔に反して女性らしさとは対極の美丈夫で。自信に満ちて、力強くて。……それなのに、「命」だけは、たったの二十年しか許されない。
こんなにも、戦って生きる人として強い心と、磨き上げた技術があるというのに。わたくしには到底手の届かない、高嶺の花のような人なのに。……いいえ、まさしく。ほんの僅かな時間だけ美しく咲いて、人の心に強く印象を残して散っていく、花のよう。貴方はそういう人なのかもしれません。
「ん、どうした? 元気がなくなっちまったじゃねえか」
エリシア様との試合、頑張ってくださいね! そう激励することが目的だったはずなのに、わたくしはすっかり、気分を落としてしまいました。シホ様と出会って一年間、自分の中で無意識に、目を逸らせようとしていた気持ちをついに自覚してしまったからです。
「……シホ様にとって、長年の夢を叶えようという大事な日ですから。図々しいですが、わたくしまで緊張しているのか、胸が苦しくなってしまいました」
「ふ~ん……そいつぁ申し訳ねえな。苦しいのが胸とあっちゃあ、さすってやるってわけにもいかねえもんな」
「またそうやって、お顔に似合わない……」
「下品な冗談をおっしゃって、ってか?」
シホ様は舌を出して、悪戯な男児のように笑いました。後になって振り返ると、彼はとても、人の心に聡い人でしたから。わたくしのこの時の、そして日頃の態度から、とっくに気付いていたのかもしれませんね。わたくしが貴方に、恋しているのだと。
胸をさするのは、と言っておいて、これくらいならいいか? とことわった上で。彼はわたくしの背中を遠慮がちに撫でてくださったのでした。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
拾った仔猫の中身は、私に嘘の婚約破棄を言い渡した王太子さまでした。面倒なので放置したいのですが、仔猫が気になるので救出作戦を実行します。
石河 翠
恋愛
婚約者に婚約破棄をつきつけられた公爵令嬢のマーシャ。おバカな王子の相手をせずに済むと喜んだ彼女は、家に帰る途中なんとも不細工な猫を拾う。
助けを求めてくる猫を見捨てられず、家に連れて帰ることに。まるで言葉がわかるかのように賢い猫の相手をしていると、なんと猫の中身はあの王太子だと判明する。猫と王子の入れ替わりにびっくりする主人公。
バカは傀儡にされるくらいでちょうどいいが、可愛い猫が周囲に無理難題を言われるなんてあんまりだという理由で救出作戦を実行することになるが……。
もふもふを愛するヒロインと、かまってもらえないせいでいじけ気味の面倒くさいヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより pp7さまの作品をお借りしております。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる