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巨神竜を追いかけて
故郷を棄てた彼(ひと)
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本日は、エリシア様とシホ様の「模擬試合」が開催されます。
エリシア様は剣闘場優勝選手との対戦を楽しまれますが、全力を出すことは出来ません。比喩でも何でもなく「闘いの神」であるエリシア様に、人間のいち個人が敵うはずがありません。体の作りそのものが違うのですから。
一方、挑戦者である選手は、全力でエリシア様にぶつかります。勝てなくとも、公の場でエリシア様と戦うという栄誉と、神と戦うという経験を得るために。ゆえに、エリシア様との対戦は「模擬試合」という扱いになっています。
ロンゴメリ様との決勝戦。イルヒラ様との親善試合、そして本日はエリシア様。シホ様は三日連続で強敵と戦うわけなので、心身共にお疲れではないかと心配になりまして。わたくしは、選手控室にて開戦の時を待つ彼に会いに行き、お声掛けしました。
……なんともまあ、白々しいお話です。何年もかかって目指し続けた、夢を達成できるか否かという瀬戸際。そんな大事な試合の前なのだから、ここは静かに、精神統一したいという方が自然ではないですか。わたくしのような、特別な友人でも恋人でもなんでもない、「単なる知り合い」風情がお邪魔していい局面ではないでしょう?
「よぉ、お姫様。わざわざ来てくれたのか」
と、いうことにわたくしが気付いたのは、控室でお会いしたシホ様がいつもと変わらず気さくに笑いかけてくださったその時です。遅すぎました。
「ご、ごめんなさい。わたくしときたら、こんな大事な時間にお邪魔してしまって」
「いんやぁ? 海の向こうに故郷を捨てて、この国にゃあこんな時、オレに会いに来てくれる奴なんか他にいねえよ。しかもそれが国のお姫様だなんてありがてえ話じゃねえか」
「故郷を? 捨ててしまわれたのですか?」
「おふくろとの約束でな。グランティスで剣闘士として生きて死ぬと決めたなら、もうこっちには帰ってくるなってな」
「厳しいお母様だったのですね……」
呆然と呟くと、シホ様はお腹を抱えて笑い出してしまいました。わたくしにはわけがわからず、彼の笑いがおさまるのをただ待つしかありません。
「あのおふくろが厳しいわけがあるかよ。水商売で、自分でも父親が誰か特定できない子供を迷いなく産むような能天気さ。だが、そういうおふくろのへこたれなさや後先考えない信条が案外、ごくごくまともな頭を持ってるせいで考えすぎちまうような人間を何人も救ってた。影響を与えてもいた。尊い血筋の方々にとっちゃあ底辺もいいところの女だとしても、オレにとっちゃあ自慢の親だったな」
エリシア様は剣闘場優勝選手との対戦を楽しまれますが、全力を出すことは出来ません。比喩でも何でもなく「闘いの神」であるエリシア様に、人間のいち個人が敵うはずがありません。体の作りそのものが違うのですから。
一方、挑戦者である選手は、全力でエリシア様にぶつかります。勝てなくとも、公の場でエリシア様と戦うという栄誉と、神と戦うという経験を得るために。ゆえに、エリシア様との対戦は「模擬試合」という扱いになっています。
ロンゴメリ様との決勝戦。イルヒラ様との親善試合、そして本日はエリシア様。シホ様は三日連続で強敵と戦うわけなので、心身共にお疲れではないかと心配になりまして。わたくしは、選手控室にて開戦の時を待つ彼に会いに行き、お声掛けしました。
……なんともまあ、白々しいお話です。何年もかかって目指し続けた、夢を達成できるか否かという瀬戸際。そんな大事な試合の前なのだから、ここは静かに、精神統一したいという方が自然ではないですか。わたくしのような、特別な友人でも恋人でもなんでもない、「単なる知り合い」風情がお邪魔していい局面ではないでしょう?
「よぉ、お姫様。わざわざ来てくれたのか」
と、いうことにわたくしが気付いたのは、控室でお会いしたシホ様がいつもと変わらず気さくに笑いかけてくださったその時です。遅すぎました。
「ご、ごめんなさい。わたくしときたら、こんな大事な時間にお邪魔してしまって」
「いんやぁ? 海の向こうに故郷を捨てて、この国にゃあこんな時、オレに会いに来てくれる奴なんか他にいねえよ。しかもそれが国のお姫様だなんてありがてえ話じゃねえか」
「故郷を? 捨ててしまわれたのですか?」
「おふくろとの約束でな。グランティスで剣闘士として生きて死ぬと決めたなら、もうこっちには帰ってくるなってな」
「厳しいお母様だったのですね……」
呆然と呟くと、シホ様はお腹を抱えて笑い出してしまいました。わたくしにはわけがわからず、彼の笑いがおさまるのをただ待つしかありません。
「あのおふくろが厳しいわけがあるかよ。水商売で、自分でも父親が誰か特定できない子供を迷いなく産むような能天気さ。だが、そういうおふくろのへこたれなさや後先考えない信条が案外、ごくごくまともな頭を持ってるせいで考えすぎちまうような人間を何人も救ってた。影響を与えてもいた。尊い血筋の方々にとっちゃあ底辺もいいところの女だとしても、オレにとっちゃあ自慢の親だったな」
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