魔法剣の姫は、まもなく散る猛き花を愛しました。

sohko3

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巨神竜を追いかけて

決着

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「……、はっ!?」

 まだまだ試合を続けるつもりでいたイルヒラ様は、思いがけずそれが終わってしまったこと。それも、自分の敗北を悟って、驚愕の声を上げました。振り上げていた斧を下ろすべきと思い出すまでに、どれくらいの時間をかけたでしょう。


「……はぁ~~っ……」

 張りつめていた緊張の糸が溶けたように、シホ様は脱力し、大の字になって試合場に仰向けに倒れました。はぁ、はぁ、必死で息継ぎをします。この光景だけでは、まるで勝者と敗者が逆転しているかのようです。


 シホ様の十文字槍は、長柄の四か所ほどに、分解出来る切れ目があります。そもそも、あんな長い得物を所持していたのなら、いくら隠していたってグランティスの住人に一切、それを目撃されないなんて不可能です。

 わたくしと彼が、満月の晩にふたりで対面した、最初の夜。彼は、五等分に割れた十文字槍を目立たないよう手提げ鞄に入れて持ち運んでいました。それを組み立てながら歩いてきたところを、わたくしは見てしまったのです。だから、「内密に頼む」と求められたわけで……。

「……やられた。その槍を、戦ってる最中に小さくしてくるなんて、想定してなかった」

 だからこそ、シホ様は、イルヒラ様との対戦までに十文字槍をひた隠しにしていました。「長い斧と戦うために、長い槍を選んで鍛錬してきた」と思い込ませるために。長い槍を振るっている相手が懐に飛び込んでくると想像させないため。

「欲を言えば、エリシアとあたるまで残したかったんだけどな……ここで切り札を切らないと、あんたイルヒラを倒せなさそうな気がしたんでな」

「それで正解だよ。この程度の小細工、俺は引っかけられても、エリシアには通用しないからな」

 イルヒラ様のその言葉の真の意味をシホ様が理解するのは、エリシア様と直接に戦ってからのことでしたが……。とりあえず。

「俺の負けだ。こんな策に引っ掛かっちゃ、後でエリシアにどやされるな」

 あ~あ、と悔しそうにぼやきながら、イルヒラ様は倒れ込むシホ様へ手を差し出されたのでした。
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