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巨神竜を追いかけて

今回だけは、お許しください!

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 試合中だというのに深々と息をつき、心も体もたっぷり休めた様子で、まるで何事もなかったように先ほどと同じ動きを繰り返しました。前進し、打ち合いし、そして疲れたら後退して休む……。


 何度も何度も、繰り返し。試合開始から、もう三時間も経ってしまいました。観客の皆様はどの方も一様に、疲れたような、うんざりした表情になっています。


「きっさま……どこまで恥を知らないんだ! 卑劣な戦いをしやがって……ッ」

 疲れているのは観客だけではなく、ロンゴメリ様も同じでした。いえ、観客よりも遥かにお疲れでしょう。

 ロンゴメリ様の方が、剣闘士としての技術も経験も優れている。しかし、自由のきかない足を庇うような立ち方と、両手足に重装備をつけていることで、シホ様よりも体力の消耗は激しいはずです。

 おまけに、シホ様に対して悪感情を抱いていることを試合前のやり取りで示されました。シホ様はそれを不快に思うどころか、逆に利用してしまいます。長時間の持久戦に持ち込むことで、ロンゴメリ様の体力と精神を摩耗させようという戦略に出たのです。

「う、う~ん……」
 致し方ないのは承知ですが、正直に申し上げると、真っ向勝負ではなく姑息です。それも、観客の皆様は十三年に渡って、時に苦境にもあったロンゴメリ様を見守って、応援してきているのです。このような手段を見せられては、シホ様の今後の世間体が心配になって、わたくしは思わず眉間を擦ってうめき声を出してしまいました。隣に立って試合を観戦していたイルヒラ様もすっかり苦笑して、わたくしの肩をとんとん叩きます。優しい振動が心臓まで届くようで、少し落ち着きました。

 シホ様から振り下ろされた刃を片手剣で右に払ったロンゴメリ様は、その一瞬、冷静さを欠いていました。胸元ががら空きになり、シホ様は瞬時に、ロンゴメリ様の足元にしゃがんで滑り込みます。大柄なバスタード・ソードでは、内側に入り込まれるとすぐに切り返すことが出来ませんでした。

「今後あんたと何度もやりあって、その全部で打ち負けてもいい。だが、今日だけはオレが勝つんだ!」

 シホ様は跳ねるように立ち上がり、刃先を赤首の防具へ水平に沿わせました。今大会の決勝戦の勝者は、シホ様で決まりました。

 野次を飛ばすことはエリシア様から禁止されているため、観客席からはまばらな拍手とたくさんの溜息。そして、ごく一部の方々の歓声が響き渡りました。大穴狙いで、シホ様の勝ちに賭け金を投じていたのかもしれませんね。

「なんだかモヤモヤが残る試合運びだったなぁ。終わるまで立ちっ放しでレナちゃんも疲れただろ」

「いえ、そんな。この程度で疲れているようでは、とても試合に出ようなんて言えないではないですか」

「それは一理あるね。でも、明日は俺が全力でぶつかるから。今日みたいな試合にはさせないよ」

「はい……わたくしも、勉強させていただきますね」
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