魔法剣の姫は、まもなく散る猛き花を愛しました。

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剣闘士を目指して

貴方との約束Ⅰ

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「お姫様が予選会に出たら、オレ達ゃ同じ土台の身内なかまになる。そしたら遠慮なく、エリシア達みたいに呼んでやれるな!」

 そ、そこまでしないと、こんなささやかな希望が通らないなんて。なんだか、頬を手のひらで張り飛ばされたような衝撃を、体ではなく心の方に受けてしまいました。って、そういえば彼の手のひらは、今はわたくしの頼りない両肩にあったのです。今更ながら仄かな体温を感じ始めてしまって、なんだか胸がはしたない「期待感」のようなもので乱されて、思考が茹だってきてしまいます。すぐ目の前にあるシホ様のお顔が、蜃気楼のようにゆらめいてきました。

「もし、わたくしが予選会に出たとしたら……まちがいなく、全選手の中で最弱ですよね……」

 予選会に出場される選手層の中には、どんなに頑張っても一勝も出来ないような方も、一定数おられます。そんな方々にだって、人前で堂々と相棒トイトイを披露し、鍛錬をしてきていないわたくしに敵うはずがありません。

「いいじゃねえか、最弱だって。誰だって最初から強くはねえ。何度も戦って、コツを掴んで勝てるようになってくもんだ。『女』で『最弱』が予選会で踏ん張って、いつか剣闘士になれたらよ。同じような立場で自分もやってみてえなって思ってる女にとっちゃ、あんたが目標になるかもしれないぜ?」


「……わかりました。ご自分から言いだしたのですから、忘れないでくださいね! 約束ですよ?」

「忘れませんよ~。心して、記憶に刻んでおきますよっと」


 こうして、わたくしの新しい道は始まりました。前途多難、最弱、無謀。そんな言葉が相応しい、今まで漫然と佇んでいた場所とは比較にならない、過酷な道へと踏み出そうとしていました。

 けれど……彼と過ごせた、たったの五年間。彼が剣闘士として我が国に在ったわずかな歳月は、わたくしだけに限らず、多くの人の生き方にこのように影響を与えたのでした。
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