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剣闘士を目指して
おかえりトイトイ
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「そのトイトイってやつは生まれた国へ帰るより、お姫様のところへ帰りたかったのかもしれねえな」
「どうしてですか? わたくしには、何の心当たりもないのに……」
「記憶に残ってなくたって、あの魔法剣との動きを見てたらわかるさ。息がぴったりだもんな」
そう言いながら、シホ様はわたくしにトイトイを返すような動作をしました。わたくしが胸の高さに手のひらを上向けて寄り添わせると、シホ様はやはりそちらにトイトイを置いてくださいます。
(……もしも、あなたと直接にお話しすることが出来たなら。わたくしがどうするべきかわかるのにね)
左の手のひらにトイトイを移し、右手で宝石を撫でました。クラシニアへ帰りたいのか。わたくしと共にありたいのか、明確な答えをあなた自身から貰えたらいいのに。……なんて。自分の行いに対する責任を転嫁しているだけですよね。
でも、何の根拠もなくたって……シホ様の言う通り。わたくしにも、漠然と、心の奥底から訴えかけてくるような何かを感じるのです。
わたくしはいつか、トイトイと、約束した気がすると。「あなたと共に、魔法剣を振るって戦いたい」と。そんな風に語り合ったことがある気がすると……。
「ありがとうございます、シホ様。大事な日を控えた前夜だというのに、わたくしの話を聞いてくださって……」
「いんやぁ? オレは元々の習慣通りにここへ来るだけで、お姫様のために殊更何かしてやってるつもりはねえけどな」
「そうですか? でしたら、ひとつだけ。わたくしから、確かな『お願い』があるのですが。聞いていただけますか?」
「ん~……とりあえず、聞くだけなら」
わたくしの改まった物言いに、虫の知らせでもあったのでしょうか。シホ様は予防線を張ってしまわれました。
「わたくしのことは、レナとお呼びいただけませんか?」
「え~……人前でそいつぁ、末端の剣闘士にとっちゃ世間体がだなぁ」
「えぇ~……エリシア様やイルヒラ様から同じことを言われた時には、即座に了承していたじゃないですか! どうしてわたくしだとダメなんですかぁ?」
せっかく、精いっぱい勇気を振り絞ってお伝えしたと言うのに、困ったような顔をされてしまいました。ことのほかその反応が辛くて、涙が浮かんできてしまいそうです。
「あいつらはほら、王族であると同時に同族だからっつうか。……そうだ、いいこと思いついたぜ」
何事か閃いたのか、ちょっと意地悪な笑顔を浮かべながら、ぽんとわたくしの両肩を手のひらで押さえました。
「どうしてですか? わたくしには、何の心当たりもないのに……」
「記憶に残ってなくたって、あの魔法剣との動きを見てたらわかるさ。息がぴったりだもんな」
そう言いながら、シホ様はわたくしにトイトイを返すような動作をしました。わたくしが胸の高さに手のひらを上向けて寄り添わせると、シホ様はやはりそちらにトイトイを置いてくださいます。
(……もしも、あなたと直接にお話しすることが出来たなら。わたくしがどうするべきかわかるのにね)
左の手のひらにトイトイを移し、右手で宝石を撫でました。クラシニアへ帰りたいのか。わたくしと共にありたいのか、明確な答えをあなた自身から貰えたらいいのに。……なんて。自分の行いに対する責任を転嫁しているだけですよね。
でも、何の根拠もなくたって……シホ様の言う通り。わたくしにも、漠然と、心の奥底から訴えかけてくるような何かを感じるのです。
わたくしはいつか、トイトイと、約束した気がすると。「あなたと共に、魔法剣を振るって戦いたい」と。そんな風に語り合ったことがある気がすると……。
「ありがとうございます、シホ様。大事な日を控えた前夜だというのに、わたくしの話を聞いてくださって……」
「いんやぁ? オレは元々の習慣通りにここへ来るだけで、お姫様のために殊更何かしてやってるつもりはねえけどな」
「そうですか? でしたら、ひとつだけ。わたくしから、確かな『お願い』があるのですが。聞いていただけますか?」
「ん~……とりあえず、聞くだけなら」
わたくしの改まった物言いに、虫の知らせでもあったのでしょうか。シホ様は予防線を張ってしまわれました。
「わたくしのことは、レナとお呼びいただけませんか?」
「え~……人前でそいつぁ、末端の剣闘士にとっちゃ世間体がだなぁ」
「えぇ~……エリシア様やイルヒラ様から同じことを言われた時には、即座に了承していたじゃないですか! どうしてわたくしだとダメなんですかぁ?」
せっかく、精いっぱい勇気を振り絞ってお伝えしたと言うのに、困ったような顔をされてしまいました。ことのほかその反応が辛くて、涙が浮かんできてしまいそうです。
「あいつらはほら、王族であると同時に同族だからっつうか。……そうだ、いいこと思いついたぜ」
何事か閃いたのか、ちょっと意地悪な笑顔を浮かべながら、ぽんとわたくしの両肩を手のひらで押さえました。
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