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剣闘士を目指して

魔法剣の姫

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 わたくしは光の剣を宝石の中へ戻し、手甲から外してシホ様に手渡します。そして、宝石に刻まれた文字を指でなぞります。その動きを目で追ったシホ様が、文字を読み上げました。

「トイトイ?」

「この魔法剣の持ち主だった方の名前だと思います。これは、数年前。わたくしがまだ幼子……十歳になったばかりの頃でしたか。グランティスが定期的に行っている、砂漠の視察の際に見つけて、拾ったものです」


 現在、グランティスとクラシニアの関係は良好になりつつあるのですが。エリシア様とイルヒラ様がお生まれになった当時、七百年ほど前は戦争状態にありました。関係が改善されたきっかけは、四百年前にG大陸を襲った「精霊族統一軍の襲撃」により、それぞれ大国であったグランティスとクラシニアは協力して精霊族を打倒しなければならなくなったからです。

 精霊族はその戦争から間もなく自滅の道を辿ったのですが、まるで置き土産のように、砂漠に「砂精霊」を遺しました。砂精霊は生まれたままの状態では、自我も知能も持ちません。砂漠を歩く人を襲い、喰らうことで、その人の思考を吸収するのです。

「精霊族との戦争で亡くなった方の遺品としてはこの宝石はまだ真新しく、綺麗すぎます。おそらくこの百年から十数年の間に、砂精霊に襲われて命を落とした方のものではないでしょうか」

「砂精霊に食われた人間の身に着けてたもんは、そのまま砂漠に散らばるのか」

 肉でないものは消化しないで、吐き出すのだそうです。シホ様のご想像の通りだと思いますので、わたくしは肯きました。

「せいぜい百年前後の遺品で、名前も、出自がクラシニアにあることもわかっている。遺族の誰かがご存命かもしれません。でしたらこのような拾得物は、速やかにクラシニアへお返しするべきでしょう。……ですが、わたくしは。どうしても、この魔法剣……『トイトイ』を手放せなかったのです」

 一国の王族の姫ともあろうわたくしが、ひと様の落し物を盗むような真似をして、後ろめたくてなりませんでした。当然、誰にも見られたくないと、必死で隠し続けました。

 月明かりの下で、魔法剣トイトイを現して。眺めたり、ひとりきりで手習いをしていると……なんだかとても、懐かしくて、あたたかな気持ちになるような気がしました。魔法剣も宝石も何も言葉を口にしないというのに、まるで……「トイトイ」と対話しているかのような心地がしたのです……。
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