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剣闘士を目指して

半神の意地と誇り

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「ああ。最低でも赤首くらいの実力がないと、エリシアとまともに打ち合えない。何なら、彼女にとっちゃ刃先でちょっと撫でたつもりで相手が死にかねないからね」



「予選会百勝に一年かかったオレが、四年以内で赤首は高い壁だよなぁ。とはいえ、その過程で力をつけねえと、戦ったところでエリシアを倒せねえもんな」

「そう、高い壁。なんで、追加で特例設けてやろうかと思ってさ。受けるかやめるかはシホに任せるけど」

「受けるに決まってんだろ? こっちは将来のねえ体なんだから」

 シホ様が特例の内容さえ確かめずに即答するので、イルヒラ様は「だと思った」と苦笑します。例えば、「特例を認める代わりに」別の条件が付与されていたりしたら、どうするつもりなのでしょう。わたくしの目には危険な交渉に思えるのですが……イルヒラ様やエリシア様が、そのような意地悪はしないと信じているのかも。

「赤首になってなくても、剣闘場で優勝出来たら、俺と戦わせてやる。そんで、俺に勝てたら次はエリシアとだ」

「……イルヒラっつうのは、巨神竜の『こっち』だって聞いてるが」

 シホ様は、人差し指でつんつん、ご自身の右のこめかみをつつきます。

 イルヒラ様の巨神竜としての役割は、エリシア様がいつでも思う存分、戦いだけに注力出来るように。それ以外に考えなければならない全てを代わりに担うのです。ゆえに、イルヒラ様は「巨神竜の頭脳を担当する」というのが、世間で認識されています。

「だからこそ、だよ。おまえもそうであるように、『イルヒラはエリシアのおまけみたいなもんでろくに戦えない』と思ってる連中が多いからさ。こう見えて、俺だってエリシアに育てられた。一緒に巨神竜やってくためには、彼女に認められてなきゃ務まらない。その辺の剣闘士に後れを取るほど弱くないんだよね」



 イルヒラ様はいつも紳士的、理性的な立ち振る舞いで知られています。それが今は珍しく、ちょっと腹立たしげにお顔を歪めています。

 思えば先ほどだって、試合を観戦したのはイルヒラ様だというのに、シホ様は当たり前のように「エリシア様が見てくれた」と変換して受け取りましたからね。あちゃ~、地雷踏んじまったかな、と、今度はシホ様が苦笑い。

「そういうわけだから。エリシアと戦いたいなら、まずは俺を倒してからにするんだな」
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