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彼は自らの意思で、わたくしの国を最期の地に選んだのです。

レナの秘密

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 エリシア様がシホ様への関心を失ってからも、わたくしは剣闘大臣の務めとして、彼の戦いを見守ってきました。公にはなかなか表明出来ませんが、シホ様の試合に関しては些か、思うところがあって贔屓目に。

 シホ様の、どこか全力を出しておられないような、飄々とした剣捌き。しかし、彼には確かに、ほんの五年限りという時間の制限があります。生き急いでいる感じは、確かに見受けられるのです。その危うさとの不釣り合いに見ているだけで胸がざわつくというか……ハラハラしてしまうというか。彼に対する無自覚の恋慕か、それとも哀れみなのか。確証が持てないまま、月日が過ぎていきました。



 ……王族という立場は、恵まれているようでいて、同時に自由が制限されるものです。わたくしなりの精いっぱいの自由の漫喫として、わたくしにはひとつだけ、秘密の嗜みの時間がありました。


 グランティスの街の入口で、門番にだけこっそり話を通してあって、外へ出していただきます。それはおおよそ十五日おき、よく晴れた満月の晩に行います。人目につかない夜でなければならず、なおかつ月明かりの頼りない夜ではなかなか、わたくしの目的が果たせないからです。


 満月の光をたっぷり浴びて、心を落ち着かせてから。わたくしは、右の手袋に装着したまあるい宝石に左手を添えて、必要な呪文を詠唱しました。


「……んん? お姫様じゃねえか?」

 そこへ投げかけられた、聞き覚えのある声に、わたくしはおさえきれず肩をびくりと震わせてしまいました。驚きすぎて。その姿勢のまま、おそるおそる、背後を振り返ります。

 そちらにいらっしゃったのは、想像通り、シホ様なのでした。


「「……その手は……」」

 はからずも、彼とわたくしの言葉はそろってしまいました。お互いの身に着けているものに、ほぼ同時に疑問を抱いたのでしょう。

「お姫様、魔法剣を扱うのかい?」

 わたくしの右手の宝石から帯状に伸びているのは、山吹色の光の剣です。この色は、グランティスの王族に普遍的に表れやすい、魔力の性質です。

「……嗜み程度、ですが。王族の姫といえど、グランティスという武勇を誇る国に生まれた以上、何ひとつ鍛錬しないわけにはいかないでしょう?」
「そういやあ、考えたことなかったな。剣闘場の試合には、魔法剣での出場は認められてないのかな」

「その……実を申しますと、飛び道具としての魔法を使っての戦いは禁止なのですが。魔法剣はあくまで、武器のひとつとして認められています。これまで百年に渡って、魔法剣を使っての志願者がいなかっただけで……」
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