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彼は自らの意思で、わたくしの国を最期の地に選んだのです。

予選会でのご挨拶

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 数日後、シホ様を含む新人剣闘士の五人の「予選会・初戦」を迎えました。

 剣闘場の新人はまだ正式に剣闘士として認められてはいません。経験の浅い新人同士が闘う予選会で百勝出来た者だけが「本戦出場資格」を得て、正式に剣闘士となるのです。


「よお、女王様におひぃ様。主賓席とかいうとこで観戦するって聞いてたが、オレ達みてぇな下々のところまで下りてきたりするもんなんだな」

「日頃はしないけど、あんたのことが気になってね。ていうか、下々って? あたし達をなんだと思ってんのよ」

「何って、王族だろう?」

「ああ、あんたってR大陸の出身か。感覚が違うわけね」

 わたくしも自国を出た経験がないので想像するしかありませんが、グランティスのあるG大陸と隣接するR大陸、P大陸では、王族の在り方そのものが違うのだそうです。わたくし達にとっては王族だからといって国民の皆様とさして垣根を感じませんが、R大陸では厳密な身分制度があり、王族は平民の前には終生、姿すらお見せしないのだと聞いております。

「誰にでも許すわけじゃないけど、あんたは傀儡竜だからね。あたしのことは女王じゃなくてエリシアでいいわよ」

「そうかい。じゃ、ありがたくそうさせてもらうぜ。エリシア」

「はいよー」

 傀儡竜は神としては最弱、最下位という立場になるのですが、神として生まれた以上はエリシア様にとっては同胞というか、同格というか。究極的には「きょうだいのようなもの」と感じておられるみたいです。

 それはそうと、差し出がましいのですが……わたくしのことも、別に「お姫様」などと呼ばずとも、「レナ」とお呼びいただいて構いません。そう言いたかったのに、機会を逸してしまいました。あまりにもお二方の対話が自然体すぎて、間に差し挟むのが難しかったのです。「あ、あの……」と、掠れた声が漏れただけ。シホ様とエリシア様のお耳には、そんなわたくしの呟きは届かなかった様子。


「お、おい……。シホ、おまえまだ十五歳になったばかりなんだろう? その堂々とした立ち振る舞いはなんなんだよ」

 申し訳なくもお名前を失念してしまいましたが、シホ様の肩にしがみついておずおずとわたくしとエリシア様のお顔を覗き込む彼は、シホ様と同じ面接会でお会いした志願者の青年です。シホ様が堂々としすぎているというのは彼のおっしゃる通りではありますが、彼の佇まいこそ、これから剣闘士を目指して激戦を重ねていくにしては些か頼りないのではないでしょうか。
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