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彼は自らの意思で、わたくしの国を最期の地に選んだのです。

初めて聞いた、彼の声

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 シホ様とエリシア様の……僭越ながら、わたくし、レナ・グランティスと。三者の出会いの場面とは、国内外から剣闘士を志願する方々との面接会でした。


 剣闘場は戦えさえすれば誰でも参加可能ですので、面接をしたところでよほどの事情がなければ参加資格を得られます。大抵はエリシア様と、現在の剣闘大臣を務めているわたくしのふたりで、志願者の皆様とお会いしています。


「ふわぁ~あ……」

 志願者の皆様をお呼びする前、エリシア様はだらしなく、大あくびを溢されました。苦言を呈したいところではありますが、皆様の面前で同じことをされては失礼ですので、今のうちに済ませていただける方がまだマシでしょう。わたくしは口を噤んで辛抱しました。

「最近、見どころのありそうな新人やつ、ぜ~んぜんいないのよね~……今回も似たり寄ったりかしら。ねえ、レナ?」

「そうでしょうか……わたくしの目には、皆様、じゅうぶんに努力されているように映りますが……」


 剣闘場は、世界最強の闘神であるエリシア様が「自分と対等に戦える者を見つけること」を目的に始まった活動でした。とはいえ、なにしろ彼女は「闘いの神巨神竜」であるわけなので、いくら人間の最大限界の強者を見つけたとしてもエリシア様を満足させることは出来ないのです。開場から間もなかった百年前、当時のエリシア様は剣闘場にまだ期待を抱いていたそうですが、今やすっかり退屈をごまかせなくなっていました。


 衛兵が面接会場の扉を開けて、そろそろ志願者を中へ入れますと報告に来ました。どうぞ、お通し下さいとわたくしは答えます。衛兵は廊下に戻り、五人の志願者を連れてやってきました。


 最後尾についていた「五人目の志願者」の出で立ちに驚き、わたくしは目を疑いました。目のところだけが長方形にくりぬかれた真っ白な頭巾で顔を覆い隠していたからです。

 一方、エリシア様は「お?」と言いたげに、目を輝かせていました。面接会の場では、腕に覚えのある者が、わたくしのような王族と、エリシア様という女王と間近で接する都合上、危害を加えようと思えば容易い距離感なのです。顔を極限まで隠した怪しい様相に、「もしかしてこいつ、賊なのかしら」と闘志に火をつけたのでしょうね。


 大変申し訳ないのですが、わたくしもエリシア様も五人目のその人に気を取られすぎて、先に所信表明を述べられている志願者の皆様のお言葉が少しも記憶に残りませんでした。
 わたくしの横に立つ衛兵が、五人目に立つように指示します。頭巾を外さないまま、彼は声を出しました。

「オレの目標は百勝して予選会を卒業して、本戦に出場してあんたと戦うことだ。エリシア・グランティス。それを踏まえて今日、この場で頼みたいことがある」

 その人はいたって男性的な低い声質で、しかしよく通る済んだ響きでした。耳の奥深くにすんなりと入ってくる聞き取りやすい音色でした。
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