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四日目。夜
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結論から言おう、四日目は殆ど移動だけで終わった。
仮定からすれば色々とやったが、満足できることを追い求めたら結果としてそうなったのだ。みんな満足はしているが、この一日を丸まる探索に費やしたらと思わなくはない。例え試練を踏破せずとも、何某かのヒントくらいは得られていただろうから。
だが、それがサラサたちの決断である。
「やっぱり入れ替えだったね。知らなかったらどうしてたかな」
「あの試練が見つかった時点で隊を組んでいて、ヒントがあれば謎を解けるという前提だからな。欠格である俺とジュートは入って居ないという前提にすると、今度は加護を教え合うという仲に成れたかどうかじゃないか?」
基本的には移動で捜し歩きはしなかったが、下で説いた謎は気になった。
立ち寄って聞くだけとはいえ、具体的な話をするとどうしても足を止めてしまう。それに話しながら移動すると注意が取られて、割りと時間が掛かってしまうものだ。日を越えた程度には出発したはずだが、最初にあった臨時のバザールで食料や物資を買い込んだ時には昼を回っていた。
それだけダルマの塔が巨大で、迷宮のように入り組んでいるという事だろう。
「どっちみち俺の方は一緒には居なかったと思うなあ。世話になったもん」
「理由があって仲間になったら話すでしょうが、普通は加護の内容なんて話さないものです。それだと余程に相性が良くないと了承しないでしょう。一人でも秘密の人や、相性悪い者が居たら断ってしまうかと思いますぞ。因果が往訪するにはそれなりの理由があるのです」
選べない試練だったとはいえ、想像を働かせ思考を練る事には意味がある。
次に似たような試練があった時に受けるかどうかを判断したり、あるいは純粋な娯楽として固まった頭をほぐす意味あいもある。ジュートにはスリなので同行させてもらえないとか、不信心な事をしたので選択肢はなかったが、後から仲間になったリネン法師がそこに居たらどうだろうとか話を聞くだけでも面白い。
また、判断というものは一人一人違うものなので、『この仲間はこんな時にこう判断するだろう』という齟齬を埋めるにはちょうど良いのだ。
「この辺りに星読み殿が居られませなんだかな?」
「あの人ならあっちの塔に行っちまったよ。日が過ぎたら自分は必要とされてねえってな。確か……途中の『星読み台』になる場所を探して店を広げてみるとか言ってたぜ」
早めに来ていたというリネン法師の案内で星読みの居た場所を訪れた。
だが、そこは既に別の人物が露店を拡げている。『店を拡げる』と言っても、奉仕活動のついでに占いで金を稼いでいたレベルなのだ。特に人が多い場所ではなく、本当の意味で求める人の多い場所へと昇って行ったのだと思われる。
リネンはそこで買えそうな物を買って少し多めに金を渡し皆の方を向き直った。
「申し訳ない。入れ違いであったようです」
「いや。御坊のお陰で一直線に来れた。本当なら此処で半日は潰していただろう。買うべき物も買ったし、法と秩序の塔を登るぞ」
リネンの言葉に首を振ったケンプは購入して来た地図を叩く。
ソレは判っている範疇のルートを示したもので、これから移動するためのものだ。要するに道で迷わないようにして出来るだけショートカットする心算なのだろう。
その上で、まずはやっておくべき場所がある。
「星読み台とか言ったな。間違いなく空が見える場所の事を示すとしてどれなんだろうな。今の時点で候補がある上に、あの塔は法則性がある筈だから昇る最中で増えていくはずだが」
「星が見える場所で踊るんだよね。俺もチラっとだけど見たことあるよ」
「目的が何か次第なんじゃないの? 加護なのか、御坊様みたいなのか」
「ふむ」
急がなければ、星読みと出逢うのはそれなりに出来るだろう。
塔は上へ上へと昇るごとに狭くなっていっている筈であり(大き過ぎてそうは見えないが)、仮にそうではなくとも、星読みの目的さえ判れば想像は出来る。加護を替える為なら少しでも有望な場所を探すだろう。逆に人々を占うことで、自分の能力を確かめる為ならば、占い易い場所に移動する筈だ。
その言葉にリネン法師は身に纏う丹念な麻布の如く積み重ねた見識に自問する。
「そもそも、あの方をよく覚えていたのは星読みだからではなく、自分と同じような術の使い方をするからです。拙僧の術は右に災いが赴くならば右を避け、早いうちに対処したいならば右にあえて赴く。そんな術でありまして、実は不備を問わぬのです。帳尻を合わせるのは難しいですが、やって出来ない訳ではない。否、むしろその困難を越える程に面白いと拙僧は思いまする」
「難儀な性格をされておられる。方違えは本来、安んじるものだろうに」
「状況を入れ替えたり、状況を固定して対処を変える術だよね」
「ふーん……結局、その人は何処に向かってるの?」
性格である程度は読み易い筈のだが、坊主は厄介なタイプだ。
手段と目的が入れ替わっているというか、過程こそを愉しむタイプなのだろう。似たような知り合いでも居るのか面倒くさがるケンプと、術式そのものには詳しいサラサ。しかし、脇で見守っているジュートには話が全く分からない。
敢えて言うならば、ひねくれているというか、挑戦的だと言う所だろう。
「場所で選ばない方が良いな。適度に目立って星を観れる場所なら何処でも良いというところか。まずは上を目指せるだけ目指して、途中で聞きながら行くしかない。とはいえ、俺たちも上の階で試練を受けねばならん身だ。目的は同じだと見よう」
「それしかない……かな? ただ登り続けて出会えるか判らないけどね」
「俺の事は気にしなくて良いよ。この塔に挑んだって経験だけで良いしさ」
「いずこであろうと、拙僧は御供致しましょうぞ」
こうして法と秩序の塔を登る事になった。
中央の塔はあくまで神への奉仕目的であり、己の強さを磨きたい者が世界でも屈強な魔物を倒すために挑む場所である。そこに運命を占いたい者が居るとも思えず、星占いの入る余地はないからである。
その為にケンプは方眼紙のようにマス目が描かれた地図を取り出した。
「こちらの塔は基本的に規則正しくできているそうだ」
「途中までは公開されているし、序盤に意味のある試練は少ない」
「ついでに言うと法と秩序の神は祭壇で祈っても加護を大きく変更はしてくれん」
「元から加護を変えることに意義を見出してない神なのだろう。変えるとしたら、加護に明らかに問題がある場合こそ当然と考えているフシがある。もしこちらで祈る場合は己の加護とどう向き合うかを、今までとは別の意味で決めておいた方が良いな。特にどのような方向に修正したいか、だ」
ケンプは地図に掛かれた地形を指さした。
そこにはカクカクとした道が、これまた規則正しい部屋に通じている。あるいは全体が正方形ないし長方形のブロックで構成されており、その部屋ごとを繋いでいるかのようだ。確かに規則正しく、隠し部屋なども存在はするが、左右対称であったり、何かの絵の模様に成っている構図の一部に隠れていた。ちゃんとマッピングしていれば気付けるようである。
それらは隠されているというよりは、ちゃんと探索したり交流して情報を仕入れているかどうかを確認しているようでもあった。
「修正?」
「俺の場合は権能だから可能かどうか判らないが……『異議を申し立てて地位や身分を得ることはできない』という前置きを追加してもらう感じだな。それで本国に戻れるし、戻る気がなくなったら別に神に叶えてもらう必要は無くなる。その時は商人なり傭兵でもするし、むしろ修正などない方が助かる。良くできているよ権能と言うやつは」
普通加護を弱くしてくれとは言わないが、ケンプの場合は国の事情がある。
彼の家系が権能を与えられた本来の理由は、一族を守る為の筈だ。それが理由で追放案件に成っているならば、それは明らかな不備なのだろう。本国に戻るならば手持ちの財産があれば問題なく、その後の人生を移民として暮らすならば今の権能はあった方が良い。新しい地で市民の権利を申し立てて得られないというのは大問題なのだから。
あまりにも特殊過ぎて参考にはできないが、どういう意味なのかは分かる。
「ああ、私の場合は生命力だけなら魔力も使う方に変更したい……とかじゃなくて? なるほど。なら分割で使わせて欲しいとか、せめて術の影響で気絶しない様に使いたいかな? 後は頑張って鍛えるわよ」
「その意気だ。ひとまず竜や蟲の女王を見たら戻るか考える位で良いだろう」
サラサも思ったよりスムーズに思いついたようだ。
以前に言われてから気にするようにはしていたのだろう。今のところ、切り替えが出来ていないのだが、生命力のみを消費しているわけではなさそうである。今後に魔力も併用できるようになれば、グっと術の行使が楽になるはずだ。これまで出来てない方がおかしいのだが、そこは詰め込み式の英才教育をやった弊害だろう。
こうして一同は法と秩序の塔を登って行く。
「言われてみれば規則正しいですな。これまでまったく高さが変っておりませぬ。おそらく階段で登るという情報は間違いありませんな。螺旋状に登る場所ならば、等間隔で登るのでしょう」
「ほう……。疑っていたわけではないが、御坊の加護で裏付けが得られたな」
暫くしてリネン法師が気がついたことを述べる。
彼の加護は位置の差が判り易くなるという物だ。決して扱い易い加護でもないが、こういうマッチした時の機能は優れていると言えた。もし彼が最初にこちらを探索すれば、非常に役立ったはずではあるが、まったく嬉しそうには思えない。おそらく以前に言った通り、何かを努力する様な過程が無いからだろう。
この坊主は活躍する結果よりも、過程を楽しめたかどうかを重要視しているのだから。
「ねえねえ。坊さんはもし加護を変えられるとしたらどうするの?」
「特に不自由はありませんので気にしておりませんでしたが……。そうですなあ。指定した場所との差が判るというのでは便利過ぎますな。友誼を結んだ相手との位置が分かり易くなる程度で十分でしょう」
これまで控えめだったジュートがリネン法師に何気なく尋ねた。
事も無げに応える坊主に対し、ジュートは好奇心がくすぐられたようだ。『どうせならこんなのは?』と提案したり、『それは面白くなくない?』と口にする当たり、自分の加護は判らなくても良いと言いつつ、内心では気にしているのだろう。とはいえ、それは子供ゆえに当然とも言えた。
一同はせっかく知り合った縁である。この塔の中だけでも協力しようと、改めて心に誓った。
「最初の試練は間違い探しとか、使っている文字の多さとか面倒そうだったけど、その割りに『どんな加護があるのか』って情報だけだったね」
「そのリストがあるだけでも杭によっては助かりそうだがな。まあ、自分を見直せと言うことだろうよ」
やがて暫く登った所で、こちらの塔の最初の試練に出逢った。
既に攻略されているので試練に挑む権利はないのだが、そもそも情報を得られるだけなので十分だった。そして確認できた加護は無数にあり、サラサの様に似て非なる加護を持つ者も、異なる加護として記載されていたのが判る。あまりにも膨大過ぎて模写するだけでも写経の様であり、それぞれが持つ加護を元に確認しただけで終わった。
そして模写の為に集まる学者や宗教家が多い事もあり、その位置は安全な場所であろう。ひとまず休息の場として、邪魔にならない様に見つめながら一同は眠りにつくのであった。
結論から言おう、四日目は殆ど移動だけで終わった。
仮定からすれば色々とやったが、満足できることを追い求めたら結果としてそうなったのだ。みんな満足はしているが、この一日を丸まる探索に費やしたらと思わなくはない。例え試練を踏破せずとも、何某かのヒントくらいは得られていただろうから。
だが、それがサラサたちの決断である。
「やっぱり入れ替えだったね。知らなかったらどうしてたかな」
「あの試練が見つかった時点で隊を組んでいて、ヒントがあれば謎を解けるという前提だからな。欠格である俺とジュートは入って居ないという前提にすると、今度は加護を教え合うという仲に成れたかどうかじゃないか?」
基本的には移動で捜し歩きはしなかったが、下で説いた謎は気になった。
立ち寄って聞くだけとはいえ、具体的な話をするとどうしても足を止めてしまう。それに話しながら移動すると注意が取られて、割りと時間が掛かってしまうものだ。日を越えた程度には出発したはずだが、最初にあった臨時のバザールで食料や物資を買い込んだ時には昼を回っていた。
それだけダルマの塔が巨大で、迷宮のように入り組んでいるという事だろう。
「どっちみち俺の方は一緒には居なかったと思うなあ。世話になったもん」
「理由があって仲間になったら話すでしょうが、普通は加護の内容なんて話さないものです。それだと余程に相性が良くないと了承しないでしょう。一人でも秘密の人や、相性悪い者が居たら断ってしまうかと思いますぞ。因果が往訪するにはそれなりの理由があるのです」
選べない試練だったとはいえ、想像を働かせ思考を練る事には意味がある。
次に似たような試練があった時に受けるかどうかを判断したり、あるいは純粋な娯楽として固まった頭をほぐす意味あいもある。ジュートにはスリなので同行させてもらえないとか、不信心な事をしたので選択肢はなかったが、後から仲間になったリネン法師がそこに居たらどうだろうとか話を聞くだけでも面白い。
また、判断というものは一人一人違うものなので、『この仲間はこんな時にこう判断するだろう』という齟齬を埋めるにはちょうど良いのだ。
「この辺りに星読み殿が居られませなんだかな?」
「あの人ならあっちの塔に行っちまったよ。日が過ぎたら自分は必要とされてねえってな。確か……途中の『星読み台』になる場所を探して店を広げてみるとか言ってたぜ」
早めに来ていたというリネン法師の案内で星読みの居た場所を訪れた。
だが、そこは既に別の人物が露店を拡げている。『店を拡げる』と言っても、奉仕活動のついでに占いで金を稼いでいたレベルなのだ。特に人が多い場所ではなく、本当の意味で求める人の多い場所へと昇って行ったのだと思われる。
リネンはそこで買えそうな物を買って少し多めに金を渡し皆の方を向き直った。
「申し訳ない。入れ違いであったようです」
「いや。御坊のお陰で一直線に来れた。本当なら此処で半日は潰していただろう。買うべき物も買ったし、法と秩序の塔を登るぞ」
リネンの言葉に首を振ったケンプは購入して来た地図を叩く。
ソレは判っている範疇のルートを示したもので、これから移動するためのものだ。要するに道で迷わないようにして出来るだけショートカットする心算なのだろう。
その上で、まずはやっておくべき場所がある。
「星読み台とか言ったな。間違いなく空が見える場所の事を示すとしてどれなんだろうな。今の時点で候補がある上に、あの塔は法則性がある筈だから昇る最中で増えていくはずだが」
「星が見える場所で踊るんだよね。俺もチラっとだけど見たことあるよ」
「目的が何か次第なんじゃないの? 加護なのか、御坊様みたいなのか」
「ふむ」
急がなければ、星読みと出逢うのはそれなりに出来るだろう。
塔は上へ上へと昇るごとに狭くなっていっている筈であり(大き過ぎてそうは見えないが)、仮にそうではなくとも、星読みの目的さえ判れば想像は出来る。加護を替える為なら少しでも有望な場所を探すだろう。逆に人々を占うことで、自分の能力を確かめる為ならば、占い易い場所に移動する筈だ。
その言葉にリネン法師は身に纏う丹念な麻布の如く積み重ねた見識に自問する。
「そもそも、あの方をよく覚えていたのは星読みだからではなく、自分と同じような術の使い方をするからです。拙僧の術は右に災いが赴くならば右を避け、早いうちに対処したいならば右にあえて赴く。そんな術でありまして、実は不備を問わぬのです。帳尻を合わせるのは難しいですが、やって出来ない訳ではない。否、むしろその困難を越える程に面白いと拙僧は思いまする」
「難儀な性格をされておられる。方違えは本来、安んじるものだろうに」
「状況を入れ替えたり、状況を固定して対処を変える術だよね」
「ふーん……結局、その人は何処に向かってるの?」
性格である程度は読み易い筈のだが、坊主は厄介なタイプだ。
手段と目的が入れ替わっているというか、過程こそを愉しむタイプなのだろう。似たような知り合いでも居るのか面倒くさがるケンプと、術式そのものには詳しいサラサ。しかし、脇で見守っているジュートには話が全く分からない。
敢えて言うならば、ひねくれているというか、挑戦的だと言う所だろう。
「場所で選ばない方が良いな。適度に目立って星を観れる場所なら何処でも良いというところか。まずは上を目指せるだけ目指して、途中で聞きながら行くしかない。とはいえ、俺たちも上の階で試練を受けねばならん身だ。目的は同じだと見よう」
「それしかない……かな? ただ登り続けて出会えるか判らないけどね」
「俺の事は気にしなくて良いよ。この塔に挑んだって経験だけで良いしさ」
「いずこであろうと、拙僧は御供致しましょうぞ」
こうして法と秩序の塔を登る事になった。
中央の塔はあくまで神への奉仕目的であり、己の強さを磨きたい者が世界でも屈強な魔物を倒すために挑む場所である。そこに運命を占いたい者が居るとも思えず、星占いの入る余地はないからである。
その為にケンプは方眼紙のようにマス目が描かれた地図を取り出した。
「こちらの塔は基本的に規則正しくできているそうだ」
「途中までは公開されているし、序盤に意味のある試練は少ない」
「ついでに言うと法と秩序の神は祭壇で祈っても加護を大きく変更はしてくれん」
「元から加護を変えることに意義を見出してない神なのだろう。変えるとしたら、加護に明らかに問題がある場合こそ当然と考えているフシがある。もしこちらで祈る場合は己の加護とどう向き合うかを、今までとは別の意味で決めておいた方が良いな。特にどのような方向に修正したいか、だ」
ケンプは地図に掛かれた地形を指さした。
そこにはカクカクとした道が、これまた規則正しい部屋に通じている。あるいは全体が正方形ないし長方形のブロックで構成されており、その部屋ごとを繋いでいるかのようだ。確かに規則正しく、隠し部屋なども存在はするが、左右対称であったり、何かの絵の模様に成っている構図の一部に隠れていた。ちゃんとマッピングしていれば気付けるようである。
それらは隠されているというよりは、ちゃんと探索したり交流して情報を仕入れているかどうかを確認しているようでもあった。
「修正?」
「俺の場合は権能だから可能かどうか判らないが……『異議を申し立てて地位や身分を得ることはできない』という前置きを追加してもらう感じだな。それで本国に戻れるし、戻る気がなくなったら別に神に叶えてもらう必要は無くなる。その時は商人なり傭兵でもするし、むしろ修正などない方が助かる。良くできているよ権能と言うやつは」
普通加護を弱くしてくれとは言わないが、ケンプの場合は国の事情がある。
彼の家系が権能を与えられた本来の理由は、一族を守る為の筈だ。それが理由で追放案件に成っているならば、それは明らかな不備なのだろう。本国に戻るならば手持ちの財産があれば問題なく、その後の人生を移民として暮らすならば今の権能はあった方が良い。新しい地で市民の権利を申し立てて得られないというのは大問題なのだから。
あまりにも特殊過ぎて参考にはできないが、どういう意味なのかは分かる。
「ああ、私の場合は生命力だけなら魔力も使う方に変更したい……とかじゃなくて? なるほど。なら分割で使わせて欲しいとか、せめて術の影響で気絶しない様に使いたいかな? 後は頑張って鍛えるわよ」
「その意気だ。ひとまず竜や蟲の女王を見たら戻るか考える位で良いだろう」
サラサも思ったよりスムーズに思いついたようだ。
以前に言われてから気にするようにはしていたのだろう。今のところ、切り替えが出来ていないのだが、生命力のみを消費しているわけではなさそうである。今後に魔力も併用できるようになれば、グっと術の行使が楽になるはずだ。これまで出来てない方がおかしいのだが、そこは詰め込み式の英才教育をやった弊害だろう。
こうして一同は法と秩序の塔を登って行く。
「言われてみれば規則正しいですな。これまでまったく高さが変っておりませぬ。おそらく階段で登るという情報は間違いありませんな。螺旋状に登る場所ならば、等間隔で登るのでしょう」
「ほう……。疑っていたわけではないが、御坊の加護で裏付けが得られたな」
暫くしてリネン法師が気がついたことを述べる。
彼の加護は位置の差が判り易くなるという物だ。決して扱い易い加護でもないが、こういうマッチした時の機能は優れていると言えた。もし彼が最初にこちらを探索すれば、非常に役立ったはずではあるが、まったく嬉しそうには思えない。おそらく以前に言った通り、何かを努力する様な過程が無いからだろう。
この坊主は活躍する結果よりも、過程を楽しめたかどうかを重要視しているのだから。
「ねえねえ。坊さんはもし加護を変えられるとしたらどうするの?」
「特に不自由はありませんので気にしておりませんでしたが……。そうですなあ。指定した場所との差が判るというのでは便利過ぎますな。友誼を結んだ相手との位置が分かり易くなる程度で十分でしょう」
これまで控えめだったジュートがリネン法師に何気なく尋ねた。
事も無げに応える坊主に対し、ジュートは好奇心がくすぐられたようだ。『どうせならこんなのは?』と提案したり、『それは面白くなくない?』と口にする当たり、自分の加護は判らなくても良いと言いつつ、内心では気にしているのだろう。とはいえ、それは子供ゆえに当然とも言えた。
一同はせっかく知り合った縁である。この塔の中だけでも協力しようと、改めて心に誓った。
「最初の試練は間違い探しとか、使っている文字の多さとか面倒そうだったけど、その割りに『どんな加護があるのか』って情報だけだったね」
「そのリストがあるだけでも杭によっては助かりそうだがな。まあ、自分を見直せと言うことだろうよ」
やがて暫く登った所で、こちらの塔の最初の試練に出逢った。
既に攻略されているので試練に挑む権利はないのだが、そもそも情報を得られるだけなので十分だった。そして確認できた加護は無数にあり、サラサの様に似て非なる加護を持つ者も、異なる加護として記載されていたのが判る。あまりにも膨大過ぎて模写するだけでも写経の様であり、それぞれが持つ加護を元に確認しただけで終わった。
そして模写の為に集まる学者や宗教家が多い事もあり、その位置は安全な場所であろう。ひとまず休息の場として、邪魔にならない様に見つめながら一同は眠りにつくのであった。
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