魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第十二章

『不本意な最終局面』

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 ドルニエ騎士団と精鋭たちの帰還、そしてヨセフ伯の火計。
この二つで溢れ出すアンデッドの騒ぎがかなり収まって来た。このまま収束するかもしれないというところで、敵の精鋭部隊が突如現れて襲い掛かって来る。実に不運の連続であり唐突ではあるが、逆に考えれば何かのトリガーと各々の採算があるのだろう。いくら何でも力を持つ伯爵が馬鹿だとは思えないし、敵の方も愚かだとは思えない。

つまり、今回の事は本当に偶発が折り重なって双方が食い合う形になっただけだろう。

「間もなく現れるアンデッドが収束する。この機に押し返すだけではなく、敵部隊を壊滅させて魔族を追い落とすぞ!」
「「おおお!」」
 みんなが計算ずくでぶつかり合っているなら逆算が出来る。
ヨセフ伯が無茶をしてジュガス2に燃える大木を引かせているのは、おそらく結界基を見つけて粉砕するために向かったのではないだろうか? そう考えれば唐突な強攻策に納得がいくのだ。性格的に守りは合わないというのもあるだろうが、俺の分析を信じてくれているならば彼を戦死させる訳にはいかない。それにジュガス2は強力なアイアンゴーレムなので、下手な打撃系の攻撃は無力化して進めるからな。活躍で勝利をもぎ取りかねなかった。

ならば俺がすることは一つだ。現れた敵精鋭部隊を仲間と共に殲滅するだけである。

「我々後陣は邪魔にならない様に主力の安全を確保する」
「生き残りのゴーレムを使って簡易的な壁を築きながら進め」
「堀は時間が掛かるから要所のみに絞り、大木を投げて柵を作れ」
「それだけでアンデットは渡る事が出来ない。ヨセフ伯が直卒する前陣がアンデットの結界を破壊し、騎士団が敵精鋭部隊を討っている。我々が為すことはその安全を確保する事であり、討ち漏らした敵を確実に葬る事だ。命を惜しめ、ただしそれは我々の命だけではない。参加している皆の命であり、ヨセフ伯も騎士たちも、諸侯も君たちも全てが貴重な命なのだ。緩やかな戦果であろうと、我らが傷付かず敵のみが倒れるならば我らの勝利である!」
 まずは結論を述べ、やるべきことを示唆して行く。
後は自分たちの立場と、周囲で何が起きているかを説明する。そうなれば後は部隊の士気を鼓舞するだけだ。両翼を延ばすとか突撃させるとか大胆な戦略を、現時点の俺が決めることはできない。何が起きているか判らないし、伝令が情報をかき集めて来るまでは判断材料たないからだ。まずは後陣を預かる者としての行動を行いつつ、手元に使える部隊を残しておく他はあるまい。

その上で、援軍要請があるなり必要な状況があれば、手持ちから遊撃隊を組織して送り込むだけである。

「前陣は順調ですが騎士団の戦いが苛烈を増しております」
「負傷者多数! 大部分は戦いに復帰しておりますが……」
「向こうに行っている者に重傷者を連れて下がらせろ。援護攻撃はしなくて良い。残存組としては強くとも、騎士団の戦いに着いて行けないなら同じことだ。魔術師たちも攻撃するより、治療系の呪文や防御系の呪文に費やしておけ」
 伝え聞く戦況は少し遠く遅く、仕方が無いがまどろっこしい。
この状況になって初めて気がついたのだが、良く考えたら手元に残して相談する副官も、前線に送り込んで事態を好転させるための片腕も居ない。ゴルビー伯爵領は新鋭で辺境貴族だから仕方が無いが、手駒というべき中級指揮官が少ないのだ。アレクセイは代官であり本来は格下の同盟者という立場であり、いわゆる寄力という奴なのでこういう戦場には連れてこれない。勇者軍上がりのウラジミールもあくまで歩兵とか良くて巡検隊の長レベルだし、パトロール仕事くらいしか出来ないのだ。

人材不足や貴族仲間への要請が出来るから……というのを言い訳にして、人材を育てて来なかったツケが回っていると言うべきだろう。

(確実に勝つ事、島の魔族を駆逐する事、今後の舵取り)
(今のうちに考えておく優先順位はそんなものだろうな)
(一つ目はもう直ぐだし、二つ目も同様だ。根底となるのは三つ目か……)
(大掛かりな罠で道連れにされて、今後の十年がやり難くなるのは困る。だからヨセフ伯たちも死なない様にする。今後の十年と言えばその事も説明して置いて、『こんなところで反乱を起こしても意味がない』『むしろ島に追放されてしまう』と理解させないといけないか。生き残りの魔族に関しては脱出されたら仕方ないと割り切るとして、この島からは確実に殲滅しないとな。でないと今後がやり難くて困る)
 こういってはなんだが、今の戦闘は確実に勝てる。
溢れ出すアンデッットなど冷静になった人間の敵ではないのだ。あくまで無制限に補充されるからこそであり、『一定の区画で再召喚し続ける術』を掛けた結界ないし儀式呪文があるから問題なのである。前者は結界基を破壊すれば問題ないし、後者は得意ではないが本拠地で行う様な術ではないから問題ない。その上で魔族の精鋭部隊だが……今回の事でハッキリした。確実に操られているだろう。何しろ魔族らしからぬ動きの連続であり、いくらカリスマ性の高い将軍が居たとしても下っ端が従うはずがないのだ。

そして魔族の精鋭が操られているという事は、上位アンデットである魔将の考え一つで動くという事、魔将が優秀な分だけ凄いわけだが同時に出し抜き易いという事でもある。

「敵精鋭部隊は何処に向かっている? 騎士団の動きで判る筈だ」
「そ、その一進一退で判りません。何名か討ち取ったはずですが、こちらも負傷者続出でして……正直な所、戦線が維持出来ているのが不思議ではあります」
 ここでも副官や手持ちの部隊が無い反動が出ている。
詳細な情報が無いので詳しい事がまるで判らないのだが、最初のまま戦闘がそのまま継続しているわけだ。もし精鋭部隊の動きでも分ればやり易いのだが……俺の推測が当たっているならば、敵は丘に作られたであろう本陣かこの後陣を目指してくるはずだ。それは『敵から見て重要な場所』だからだ。その場合は戦力が集まった本陣を叩いて大損害を出すか、後陣から砦に至何処かに居る筈の……大将狙いだろう。普通ならばそのどちらかに総大将が居る筈だからである。

軍師である俺だって総大将自ら前陣を築いて突出しているとは思えない。どんなに優秀であったとしても、個人が操る部隊はそいつの思い込みに影響されてしまうのだ。

「敵はたった一人の天才の指示で送り込まれた部隊だ。合図があるまで丘にある本陣か、ここを目指してやって来る可能性が高い。もし向かってきた場合は他の部隊と合同で消耗させるぞ。活躍する必要はないが粘れよ」
「は、はい……心懸けます」
 騎士団が食い留めているとはいえ、相手が動き出してからだ。
横入りした分だけこちらが有利な筈だが、魔族は一人一人が普通に強い。その上で既に動き出しているから、出遅れているのは間違いがないだろう。数名を倒したという報告は横入りした戦果が出ているという事であり、押し留めている筈なのに一進一退と言う事は、押し返すことに失敗していると言うことでもあるだろう。全体としては盛り返しているから本陣に居る諸侯に撤退命令を出す訳にもいかないし、このまま推移を見守るしかないのが苦しい所である。

とはいえ、それらの推移はもはや見守るしかない。残り少ない手持ち戦力は、イザという時の遊撃隊なので迂闊に動かす訳にも行かないからだ。

「そうだな。後は斥候が残って居たら待機させておけ。敵が撤退した場合、そいつらの逃げた場所を追い掛けさせる必要がある。なんだったら斥候たちは戦わずに温存させても良いと伝えろ」
「アンデットを見張っているとは思いますが……承知しました」
「すまんな。今後を考えると他に手段がない。酷使した借りは返す」
「はっ」
 最後に敵を押し返した後の命令を出してターンエンドというところだ。
此処まで来たら斥候数名が動いていないだけで負けることはないだろう。どちらかといえば騎士団が崩れて敵部隊に押し込まれるか、逆に奴らの攻勢限界が来て撤退する可能性の方が高い。その時に成ったら罠で敵本陣事爆発……とか言うオチが無いように追い込むだけである。

こうしてジリジリと消耗戦が続き、結果的に先の無い魔族側が先に潰れる事になったのである。
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