魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第十二章

『追い詰めたのか、それとも?』

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 あれから同じような流れを二度繰り返した。
魔族たちは二度来襲して堤防に攻撃し、こちらが何もなかったかのように平然と堤防を作り直したことで諦めたようだ。こちらもドルニエ騎士団が西岸を往復し、怪しい場所を焼き払っている所である。

この時点での成果に関しては、こちらが一歩だけ上を行ったと言っても良いかもしれない。

「あれから来ないな」
「待ち構えておるのに気がつかれたか」
「作業が進むからその方が良いですけどね。徒労なのと……まあ、戦力傾斜の罠には気がついたでしょう。ひとまず警戒する頭脳があることには要注意ですね」
 居残り組の騎士団長にそう答えておく。
堤防は順調に形成され、ゴーレムも定数を持ち直した。遠目には直っている様に見せて、実際には修復作業中なのもあったが、連中が完全に顔を出さなくなるころには修復を終えている。もし、可能な限りの攻勢を続けられたら、上位ゴーレム以外は全部破壊されてしまう可能性があった。何しろ修理する俺の魔力の方が有限だからである。

では、どうして敵は襲撃を中止したかというと、作業を邪魔しても意味がなく、本格的に邪魔しようと無理に突っ込んだら誰かが死ぬからである。

「ふむ。我々が即座に駆けつけられると見切ったか。この様子ではドルニエ騎士団の方にも手は出してこないか?」
「今は不要な場所だからそうでしょうね。状況が進めば判りませんけど」
 西岸は人間の領域に近い部分なので向こうも警戒するだろう。
こちらが上陸して色々し始めた段階で、拠点としては捨てている筈だ。それでなくともスライムの居る……というか、キマイラを作ろうとして失敗した施設もある。少なくとも現段階で無理してこちらを攻めるべきではないと判断するのは当然だろう。彼らが重大な決断をするとしたら、こちらの補給が幾らでも続くと判ってから、あるいは向こうの食料を始末し始めてからだと思われる。

要するに、今は亀のように籠っているが食料だって無駄にしているし、そのうちに帰るかもしれないから無理をしてないだけである。

「惜しいな。我々も出撃のタイミングが掴めて来たところなのだが」
「なかなか楽には勝たせてくれんな。狩りのようにはいかん」
「獣や盗賊とは違いますよ。こちらと同等か、それ以上の頭脳を持ってます」
 今まで残留していた騎士団が動けてなかったのは、砦の防御だ。
堤防はあくまで最前線であり、現時点での本拠地は奪った砦である。騎士団はその周囲を固めておいて、余裕の範囲でこちらに援軍を送ろうとしていたからだ。数回の間に少しずつ慣れて遊撃配置というべき場所を掴んでおり、何処に置いたら万が一の迎撃と堤防側への援軍を把握した所だった。もし同じことを続けたら次は間に合ったかもしれないし、その時に深入りして居たら討ち取れたかもしれない。

逆に言えばこちらの状況を把握しているならば、引っ張り出して逆襲できた筈だ。そうせずに襲撃を止めたという事は、こちらの策を全て見抜いているわけではないのだろう。

「怪我をする前に火遊びを止めたとみるべきでしょう。こちらの策を逆用することもせず、また未練がましく伺っている様子もない。相手の様相が大分絞れてきましたね」
「確かにそう言われると小賢しいな。とうてい魔族には思えん」
「まるで人間の策士と戦っておるような気分よな」
 敵部隊は自分たちが出来る事だけを行っている。
それは実に魔族らしくない行動であり、人間じみた智慧と工夫であろう。では普通の人間が魔族に尊敬され、あるいは恐怖で従えられるとは思えない。仮に少年の様な年齢の魔族であろうともだ。『自分の方が強いのではないか?』と思えば平気で裏切るし、『自分の考えた方が正しい』と思えば勝手に自分がやりたいことをするのがこれまでの魔族であったからだ。

この辺りの事を踏まえると、もたらされる結論は二つしかない。

「目の前で戦っている部隊が正真正銘、魔族が有する最後の戦力であるか……。さもなければ、人間出身の魔導師か何かが魔将として部隊そのものを操っているという可能性が高いでしょう。後者の場合は、リッチなり吸血鬼に成り果てていると思われます」
「前者であって欲しいものだな。有能な魔人だけの方がやり易すかろう」
「殲滅すれば『全て』が終わりだからな。しかし高位のアンデットか」
 人間じみた魔族が指揮官である可能性だと思いたかった。
だが、ここまで明確に魔族を支配しているのであれば、どうしても跳ねっ返りが居ない事が気になってしまう。何度も繰り返すが魔族は少数部族の亜人連合体みたいなものなので(魔族と言う亜人も居るには居るが次元生命体ではない)、それぞれが勝手な事を繰り返すという意味では、人間社会の貴族連合と差は無いのだ。むしろ個人が強いだけに明確な個性が存在する魔族は、扱い難い兵士であるだろう。

しかし、アンデッドだけは話が異なる。精神支配を始めとして様々な特殊能力を有しているとか、魔術師出身者も居る為だ。なお吸血鬼の場合、元は妖精みたいな種族だったらしいが、魔術師が死霊魔術の応用で変化し始めてからはそのほとんどがアンデッドであるという。

「どちらであっても戦略はそう変わりません。前者ならば部隊が最後の魔族であるがゆえに、包囲網を切り抜けたらそのまま逃げてしまう可能性があるくらいです。後者の場合は魔王の城ならぬ古代魔術師の研究室が最終決戦場になるくらいでしょうね」
「結論はまだ早かろう。そろそろ戻って来るドルニエ騎士団の報告待ちだな」
「西岸を回り切って南の様相を調べてから……か。時間が掛かりそうだな」
 この場に居る俺と騎士団長二人の見解だけでは進められない。
あくまで現場に出る者の中で上位の存在だから、その意見が通り易いだけの話だ。それこそヨセフ伯なら総司令官としてのゴリ押しで決める権限は高いし、諸侯が雁首並べて文句を言ったらやはり方針を慎重策から切り替える必要があるだろう。そのためにも予定の行動である、ドルニエ騎士団の西岸南下作戦は成果を待たねばならない。

とはいえ、地形が想像できない訳ではないのだ。

(おそらくだが、海流に乗って流れて来る湿った空気を山が受け止めている」
(それが、この辺りに沼沢地体が存在している源泉な訳だ。その上で……)
(南から東に掛けては文明圏が存在しない大海原に面してるはずだ)
(それはこれまで魔王率いる魔族の大侵攻が、カナン河流域や遊牧民の勢力圏でしか起きていないことが証明している。水棲種族に金を積まないと詳細な海岸線は判らないが、海洋船が大回りして何もしなかった経緯を考えると、おそらく創造の範疇内だろう。少なくとも、そちらから脱出される可能性は低い)
 魔族の島が大陸から切り離された説を無視しても、向こうには何も無い。
だから魔族の部隊が年少の魔族で構成されている場合、西岸からイル・カナンへと突破するか、さもなければ北岸から遊牧民のエリアに抜けて行く事だけを対策して居れば良いわけだ。水上戦力は物資と増援の輸送で忙しいし、水中戦力はルサールカ二号機くらいである。遊牧民海岸へ抜ける筏の類を潰すくらいはさせられるが、船出する可能性のない南と東を見張らせるのは惜しいのだ。

問題なのはアンデットの魔将が居る場合である。元人間で魔術士なら体は脆く性格の反りが合わないだろうから、留守居役をさせられた可能性は高いのであり得る話だ。拠点は地下だろうから面倒なことこの上ない。

「いずれにせよ南と東は人間社会が遠いので、逃げられても追い詰めることが可能です。ドルニエ騎士団が帰還し次第に、北岸を捜索して行く話を詰めましょう」
「「うむ」」
 ただアンデットでも戦略は変わらない。島の中央部を確実に占領していく。
むしろ脱出に向かない分だけ、作戦の詰め方は楽な位だ。気を付けなければならないのは、拠点が分からない事と相手の魔力次第で強敵である事だろう。ひとまず魔族の最終集団であることを念頭に、突破されない包囲の仕方を考慮しつつ、アンデットでも良い様に損害を増やさないように戦う必要があるだろう(こちらの死体を敵兵に変えられる可能性もあるので)。

そして、この悪い予感は最悪の状態で当たるのであった。
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