魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第十二章

『よろしくない続報』

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 悪しき未来予想図が出来上がったことで、魔族の島討伐は必須となった。
当初は出来たら確保であり、安全に魔族をすり減らし、確実に情報だけは持ち帰る。その程度の出来レースめいた戦いが、俄に緊張感を帯びる。もっとも、そう思って居たの英雄の称号を受けている俺だけで、ヨセフ伯らライバルたちは野心のために必須だったのかもしれない。いずれにせよ、オロシャはこれから挙国一致して島の攻略に勤しむことになるだろう。だが、待ち受けて居たのはそれ以前の段階であった。

遠征軍が落したという魔族の砦で意外な報告を聞いたのである。

「魔族側の大反攻を喰らったんですか? この時期に?」
「イル・カナンの連中が横槍を入れに来たのだがな。魔族たちはそれで我らの全軍が揃ったと思ったのだろうよ。我らが動き始める前に、一気に叩き潰してしまおうという算段を立てたのだと思われる。……少なくとも私はそう信じたいところだ」
 俺を出迎えたのはいつもの取り巻き男爵だ。
ヨセフ伯が傍に居ないからというのも影響しているかもしれないが、いつになく神妙な顔をしている。そう言えばこの男がこのくらい真面目に俺の話を聞いているのは、最初に魔将と戦って酷い目にあった時以来だな。あの時は勇者たちは全員が揃っておらず、戦闘好きの剣聖と……確か賢者と合流する前後だったはずだ。

つまり、この男の経験からしてその時以来の危機なのか、今の立場を勘案して少し早めに真面目になったという所だろうか?

「幾つか考えられますが……好意的に考えるならば……」
「第一に、動きたがっている若者を抑えられなかった可能性」
「第二に、戦力に余裕はなく最初で最後の決戦を挑んでいる可能性」
「第三に、昔と同じ調子で『自分達の方が強いから考える必要がない』と過信してしまっている可能性。この三つが考えられますね。一番警戒すべきは二つ目ですが、どのパターンも守り切ってから反撃に出れば勝つのは難しくありません。むしろ、洞穴や森に隠れ潜んで何年も戦われるよりは楽なくらいですよ。このまま五年も十年も過ごす方がオロシャにとっては問題ですからね」
 ちっとも楽観視できないが、最初は付き合って指揮を保とう。
この場には取り巻き男爵殿以外の下級貴族たちや兵士も居る。特に兵士たちが妙な噂を立てて、それが全軍に広まると大問題だ。戦う前方士気が低下し、全軍崩壊とかなりかねない。いや、イル・カナンの連中が乗り込んで来たという話もあった。それを考えたら、少しばかり不安である。もし連中が壊滅してたら……次は我が身かと思うのが普通だからだ。

ひとまず、うちはゴーレム以外は無事だと信じたいところだ。

「司令部に移動するとして……被害は?」
「上位ゴーレムを即座に投入したのでそれほどは。イル・カナンに先を越されまいと焦った馬鹿どもが『使えなくなった』程度だな」
 兵に聞かれるとマズイので移動しながら質問。
返って来た答えは良くも悪くも想定内だった。戦闘用ゴーレムを盾にしていたからこそ戦死者は少なく、だからこそゴーレムは破壊された。そして穴埋めを兼ねてジュガス2やソブレメンヌイを投入し、戦力を保ったのだろう。問題なのはやるなと言われているのに突出した連中か……馬鹿につける薬はないが、他国に先を越されてトンビに油揚げを奪われるのに耐えられなかったのだろう。

その挙句に無残に数名が殺され、それを見た何人もの兵士が戦えなくなったのだと思われる。

「それは重畳。これから援軍が上陸します。兵数的には問題ないでしょう」
「……待て、本国で何かあったのか? 予定になかったろう」
「正確には南で。十年後、大国二つに挟まれますよ。勝つ必要が出ました」
「むう……」
 俺は兵士の戦死を許容するタイプではない。
だが、ソレを前提にする作戦を立てている以上、俺ではなくオロシャ本国の予定に大きな変更があったのは伺えたのだろう。そこで未来に拮抗する情勢が見えた事と、それに対抗するために、少しでも伸びしろのある余力を稼いでおく必要が出たことを手短に伝える。四つの大国が牽制し合い、うち一つは属国の様な同盟国だが、その分だけ他二国が連携して来る地獄絵図だ。

これからの十年を真面目に改革へ勤しみ、相手国にこそ『戦争するべきでない』と思わせるべきだろう。その為にはこの島を回収して、良い領地にしておきたいところである。土地が痩せている可能性は高いが、そこはそれ使いようは見つけられるしな。

「最後に、お願いしていた情報は?」
「数が多いのは遠目だから宛にならんが、一応生き残りからも多少はな。だが、焦っているから幾らか嘘が混じっていると思ってくれ。これだ」
 取り巻き男爵は本当に同じ人物かと思うくらいには協力的だった。
情報を集めることは以前から言って居るから資料があるのは判るが、どれがどのような経緯で集められ、信用度がどの程度かを読む前に教えてくれるとは思わなかった。かいつまんで要約しなかったのは主観で傾向を狭めない為だと思うのだが、その辺りを含めると此処までの流れが嘘で陰謀に巻き込むとかそういう話ではないことが分かる。

要するに、それだけ危険で彼もいつものように嫌味を言う余裕が無いという事だ。ヨセフ伯の陣営にもそれだけ緊張感が漂っているとも言える。

(恐ろしいと言うべき能力ばかりだが……一撃でゴーレムを破壊してない)
(ゴーレムがまるで追いつけないほど翻弄したともあるが、強いだけだな)
(呪文も範囲攻撃に連打に多彩だが、別にそのくらいなら人間で出来る)
(それよりも問題なのは、どうしてこいつらは『一緒に行動して』いるんだ? 我の強い魔族らしくない。兄弟でも仲が良いってのは稀だった。それに、何より戦術だとすると人間的過ぎるな。魔将は人間のように部隊を作るべきと主張して、更迭でもされた奴かな? だとすると、部隊長であってもそいつが一番ヤバイ)
 見た感じ、複数の加護を持つ魔族が攻めて来たのは間違いがない。
ただ話と外見を総合すると、一人や二人ではないのだ。魔族は人間と違って一人が複数の加護を持つので、最初は戦いぶりが特定出来ない事があったが、今回はそうでもない。大男で剛力なのに素早いとか、豊満な女だが鞭で騎士をひっくり返すほどとか、これが人間だったらどれだけトンデモなんだよと疑う所なのだが……魔族だとしたら大人し過ぎるのだ。能力もだが、一緒に行動している時点で魔族らしくはない。

ここまでの経緯を見ると、子供の魔族を率いる中隊から大隊長格の魔族だろうか?

「おそらくだが、対抗するのは難しくない。直ぐに巻き返して追い詰めて行ける。だが……仕切ってる奴を生き残らせるとマズイな。こいつは経験すれば経験する程、人間の戦術や連携戦闘を覚えて凄い指揮官に成って行くと思う。逆に言えば大駒ではあるけれど、部隊指揮官以上じゃない」
「資料だけで良く分るな。しかし、そう言ってくれるとありがたい」
「ヨセフ伯の前で、できれば全軍の前で勇ましく?」
「ああ。勝てるかどうかよりそちらの方が心配だよ、まったく」
 俺の感想を聞いて取り巻き男爵が盛大に溜息を吐いた。
これまで楽勝だったこともあわせて、相当に士気の低下が酷そうだ。そんななかでマッチョ主義のヨセフ伯だけが気を吐いて、西部諸侯だけを引き連れて突撃しかねないのだろう。だが、ゴーレムを圧倒するほどの速度の敵が居るのに(しかも剛力)、ジュガス2ではどうしようおないだろう。ソブレメンヌイを高速で走らせ続けて、漸く一撃かませるかというレベルであるはずだ。

そんな話を聞いて、どうやって会議の主導権を握るか俺は素早く考え始めた。

「お二人とも! 総司令官がお待ちです!」
「「今行く!!」」
 帰りが遅いのか心配……というか、ジレて呼びにこさせられた騎士の言葉に俺たちは同時に返事をし、顔を見合わせると苦笑し合うのであった。
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