魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

文字の大きさ
上 下
140 / 167
第十一章

『諸島群の開拓』

しおりを挟む

 諸島群は制圧したが、本格的な戦いの前触れに過ぎない。
この場所を抑えておけば以降に大陸へ渡る魔物は減るし、魔族の島へ渡る事も出来る。だから維持するための準備を整えつつ、戦力を増強しつつ、それらを派遣したり訓練させたりする必要が出来て来た。

何はともあれ地図と居住区は必須だろう。

「第一優先で魔族の島側を抑える仮設砦を設置する」
「交代で休める小屋と物見塔、それとゴーレムの配備は必須だな」
「次に最も大きな島へ城館を建てつつ、桟橋を並行して作る」
「とはいえ城館は本土からの資材待ちになるだろうから、あまり急がずに良い物を作ってくれて構わない。場所は山の中腹を削って造成し、頑丈である事と大勢が入れる事を前提に平屋で設計する」
 帯同している職人たちはあからさまにホっとした表情をする。
当たり前だが少人数しか連れて来て居ないし、木材だって今から木を伐り出して加工するレベルだ。これでまともな家を建てろと言われても困るし、それが貴族の館となれば顔を青ざめもしよう。その条件を根底から覆し、真面目にやれば良いよと言われたら安心もするだろう。

もちろんそんな事も思わず、自分たちの為に行動しようとする奴もいる。

「ゴルビー伯。それでは我々は何処に住めば良いのかね?」
「時も材料も無いのは判るが、城館に集中するために平地にすれば良かろう」
「ならば砦を大きな物にしてしまえば良いのではないか? それで事は足りよう。どうせ魔物を食い止めるための場所なのだからな」
 まるで同じ人物が少しずつ考察しているように聞こえるが別人である。
三人ほどの貴族が次々に発言し、最初の一人が要望を伝えると二人目が便乗、三人目はさも賢げに自分の意見こそが正しいのだと口にする。当然ながら完全に悪い案ではないし、もしこの諸島群が小さかったらそれも正しいだろう。

問題は此処が諸島『群』であり、それなりに広く使える場所が点在していることにある。

「残念ながらこの島には嵐が来るそうです。オロシャで偶に見る物とは比べ物にならない規模と勢力で上陸するそうですよ。その前にはちょっとした建物では破壊される可能性があります。それゆえに仮設の砦ですね、城館を山に建設するのは嵐と津波を避ける為でもあります」
「嵐……君の所の新領地で見たアレよりも大きいのか。アレが……」
「小さな建物はギシギシと申していたな。貧民の家かと思ったほどよ」
「どうせ直ぐに……いや、それならば山に作るのも頑丈なのも止む無しか」
 確固たる信念があって口にしているなら検討するが、そうでもない。
もし魔族との戦いが迫っており、速攻で何とか片付けてその後は特に気にしない……というならば少々のことはどうでも良いのだ。魔族の島側に大きな城館を建てても良いし、立て易い家を幾つか作って貴族や騎士の私邸とし、部下たちを交代で休ませても良いだろう。

だが、今後もこの島を統治するという事が彼らに文句を挟ませないでいた。

「この島……どの程度の扱いになるのであろうな? 領地としてはいかに?」
「代官が収めぬなら、小さめの伯爵領か大き目な男爵領と言う所であろうな」
「いずれかの分家か騎士領を付け、寄り親として誰ぞという所ではないか?」
 貴族たちは期待に満ちた目で、軍師として計画を支える俺を見る。
功績評価だけでなく領地配分にも口を出す権利があり、同時にこの島を経営して行くアイデアを有しているのは俺しか居ないからだ。例え今は畑どころか家屋さえない島であろうとも、貴族として彼らが『領地が欲しくない訳ではない。そのためにそれなりの功績を挙げたぞ!』と言いたいのであろう。こいつらが直接役に立ってなどいないが、騎士や兵士を貸してくれたのは本当だしな。

それらを踏まえると誤魔化す訳にもいかないだろう。

「全てを決めるのは陛下であらせますが、ひとまず領地としてやっていけるまで代官が収め、漁村と農村を幾らか用意してその後に分配となるでしょうね。もし領地として先行きが見えない場合は、オロシャ初の海上戦力の拠点として基地化することになるでしょう。間もなく半島攻略戦も始まりますが、租借地に軍港を作るのは後で確実に揉めますから今の労力は決して損ではありません」
「おお、それは良いな。何も採れぬのに領地と言われても困るわい」
「いっそ海上で戦う騎士団と兵団の拠点のままでも良いのではないか?」
「ははは。その辺りは代官が考えるであろうよ。良き作物があるか次第よ」
 この辺りは自前の領地もあって、温度差があるが仕方が無い。
今回の功績で今の領地を発展させるために、報奨金なり代価の方が欲しい者も居る。そう言う者は飛び地で貰っても困るし、領地が増えようとも替地として飛ばされたら大問題なのだ。権益の方が重要な者は、騎士団への推薦枠やら他の貴族……例えばキーエル家への口利きが出来る権利の方が重要だ。元から裕福で勢力を広げたい者にとっては、タナボタでしかないので儲けが出れば何でも良いのだろう。

ちなみにこの『代官が統治して、功績があった者に領地として引き渡す』という行為は、利益が出ると判ったら直ぐとは言って居ない。仮に交易なら来年からでも収益化が図れるとしても、引き渡すのは五年後とか十年後というのもあり得るからな(かかった総費用的にも)。

「他の者たちにはこの後のスケジュールは追って伝えますが、本隊の到着を待って再編、十分な準備が整えば魔族の島を攻めます。もし半島攻略作戦を急ぐことになった場合は、水棲種族とも合わせて三勢力合同で攻める事になるでしょうね」
「その時は任せておくが良い。我が兵たちならば功績を挙げるであろう」
「水棲種族か……あんな奴らと? 手を組まねばならぬのか」
「滅多な事を言うな。ここは奴らの勢力圏だぞ」
 当たり前だが水棲種族に対しても差が存在する。
亜人種だろうが使える奴は使うというスタンスの者も居れば、嫌悪感を抱く者も居る。それどころか警戒感を抱き、自分達より圧倒的優位だからこそ警戒感を抱く者も居る。まあどれも間違ってはいないし、相手が圧倒的優位無いのは正しいので、仮に嫌悪感が勝っても妙な事は居ないでいてくれると助かる。

ただ、それを放置しただけではよろしくないので少しばかりフォローしておくか。

「個人はともかく種族としてみると、彼らの知識と勢力圏は強大ですし、陸に興味がないからこそ信用も我々より高いですよ。とりあえず彼らには産物に出来そうな果実やサトウキビを頼んでいるので、寄った時には食事会をしてみましょう。それがどれほどの利益をもたらすかを確かめねばなりませんからね」
「「「うむ」」」
 面白い事にこれが利益を齎す話になると思惑が一致する。
俺が考えている産業は砂糖畑にパイナップルなり柑橘系の果樹園であり、転生前だと沖縄県や瀬戸内海での砂糖があった辺りがモデルになるだろうか? 黒糖よ和三盆みたいな微妙な差を着けて売り出しつつ、すっぱめの果実をそのまま売ったり、干して甘くしてから出荷すれば良い。それらが取れる量はたかが知れているが、オロシャでは採れない物ばかりなので、国外はともかく国内では相当な利益が出る筈だ。

そして利益の為には嫌悪感を示していたものまで一致して水棲種族と(少なくとも表向きは)仲良く行くことになったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

処理中です...