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第十一章
『諸島群の戦い。後編』
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リザードマン退治が出来たことで浮かれていたつもりはない。
固める場所は固め、後ろを突かれる懸念を先に払拭。殲滅戦に移行しつつ、陣地を整えて今後に備えたつもりだった。だが、結果として隙を晒してしまったのは仕方あるまい。
夕方になって暗く成り始めた所で『敵』が襲ってきたのだ。
「大変です! 浅瀬を守っていた隊が突破されました! 間もなくこちらにも来ます! 敵は複数! 繰り返します、敵は複数です!」
「っ! 作業中のゴーレムを前に出せ! 騎士たちは各個に応戦準備!」
そのタイミングで襲われるのは別にピンチではない。
間もなく殲滅に向かった騎士たちが戻ってくる頃で、フォローの為のジャコビニアス隊は程近くまで持ってきているだろう。そんな状況であったので誰も悲観してはいないが、だからこそ……油断してしまったというべきだろう。
そして今回の件で厄介なのは、複数の強敵が居たという話である。
「判っている範囲で良い、形状と数は? キマイラか、マンティコアか!?」
「キマイラらしき存在が三! 獅子の体に竜の頭を持つ個体と、山羊の頭を持つ個体が迫っております! 浅瀬側で戦闘中の個体は不明!」
声を挙げて状況を確認しつつ、無詠唱で持続光を唱えた。
薄暗がりでは戦い難いし、松明が倒れたら目も当てられないからだ。また、突如打ち合わせにない輝きが本陣の上に現われたら騎士たちも駆けつけて来るだろう。それよりも問題なのが、こちら側に二体来ているという事である。
ひとまず片方にはゴーレムを当てるとして、もう一体の対処をしなければならない。
「暫くすれば援軍が駆けつける。無理をするなよ、確実に抑えて行くんだ」
「「はっ!!」」
俺は剣の形をしたゴーレムを抜刀して戦う準備を整える。
今は防御が重要なので、蛇腹剣状にはせずにオートガードで護衛として機能させておく。蛇腹剣でも相手が人間サイズなら護衛になるんだが、今回はデカイからな。受け流せるだけの質量がないとどうにもならない。
その上で近づいてくる敵を眺める訳だが……。
(確かに獅子の体に竜や山羊の頭だな。思ったよりも体が小さいが……)
(こいつのコンセプトは何だ? それにリザードマンは追い出されたのか?)
(それとも脅威を感じて別の島を調査しただけで追い出されてはいない?)
(いや、それは別に今考える事じゃないよな。それよりもなんで両方に翼が残ってるんだ? 俺の指示を無視した? 騎士はともかくゴーレムがか? ありえん……何かがおかしい……)
最初に感じた違和感は『俺の知ってるキマイラと違う』だった。
もちろんそれで弱いなら問題ない。サックっと倒しておしまいだ。キマイラはゴーレムより強い存在だが、こいつらなら暫く戦ってたら倒せそうなイメージがあった。それもそのはずで通常は三つの首と顔を持ち、場合によっては尻尾にも顔を持つのがキマイラだ。それが一つずつの首と顔しかないのでは恐ろしさの敷居が下がる。
ただ、より違和感が強くなったのが優先命令にも関わらず翼を先に狙って居ない事だ。もちろん当ってないだけという可能性もあるのだが……。
「は、伯爵! こいつ……再生します!? こんな能力、聞いてません!」
「なに!?」
気合の入った兵隊さんがキマイラを刺したのだが直ぐに治ってしまった。
そいつ自体は報告するような余裕なんかないが、指揮していた騎士の一人が俺に報告してきた。その報告に兵士が突き刺した個体を確認し、慌ててゴーレムが時間稼ぎしている筈の個体も眺める。よく見れば相手に攻撃が当たっていないのではなく……掠って入るが、即座に傷が修復されるから、相手の能力が落ちないのだ。
ありない……そう思いつつキマイラの学術的来歴を漁ろうとするが、魔術的見地よりも、先にギリシャ神話を思い出してしまうのは俺も慌てていたのだろう。
「……っ! そうか、スライムだ! 溶かして融合する性質で異なる肉体を持つ生物を一つに繋げようという実験をしたって話があった! 松明を持ってこい! それとゴーレムの傍から出来るだけ離れろ! 火球で焼き払うぞ!」
「なんでそんな実験が……!?」
「そんなことより松明だ! さっさと持ってこい!」
通常、スライムが大きいと全てを捕食してしまう。だが少量なら?
少しずつ取り込んでいき、やがて大きく侵食していくのだ。触れた部分が徐々に境界線が怪しく成り、やがて取り込まれている部分の方が多くなる。しかし、途中でスライムの総体情報を保てなくなるほどに焼かれてしまったり、異なる生物などの生命情報が強烈になって行くと、スライムの方が情報汚染されてしまう可能性が『増えて来る』わけだ。もちろんただの賭けでしかないし、人間はショック死とか拒否反応あるはずだけどな。
つまり、こいつはキマイラを作る過程で放り出された失敗作だ。今回はたまたま、俺たちの不利になっただけの話で、本来は未完成であったのだろう。
「敵に素手で触るなよ! 粘液はともかく本体に触れた奴は松明に触れて焼いてろ! 死にたくなければ火傷は嫌だとぬかすな!」
「りょ、了解しました! 本人が嫌がっても傷口の確認を徹底しろ!」
「はい!」
思うのだが魔族側でキマイラを作ろうとした実験でもあったのだろう。
残された留守居の魔将が考えたのか、単純に以前から存在して解き放たれただけかもしれない。いずれにせよスライムに成り掛かっているキマイラと戦う事になる。おそらくは浅瀬側で戦っている最後の一体も、元は同じ個体だったのではないだろうか? キマイラとして統合しきれておらず、個々に動いて、それぞれが好き勝手に戦っているものと思われる。
ここでの問題は兵士たちにも飛び火する可能性があるのと、剣で切ったり刺したりするくらいでは倒しきれないということだ。
「離れたな? まずはあいつから焼く! そしたらゴーレムにそいつも任せろ! その後は浅瀬側の連中にも伝えろ! 決して触るなとな!」
「は、はい!」
「炎よ!」
そのままファイヤーボールの呪文を唱え、もう一発唱えて一体目を撃破。
兵士を移動させつつゴーレムに牽制させ、後から戻って来たジャコビニアス隊も合わせてようやくキマイラもどきを退治する事が出来た。だが、この話はここで終わる事はない。万が一にもスライムが残って居たら大変だからだ。その日は徹夜で兵士たちの体を確かめ、翌日はもう一度島を調査して侵食された存在が居ないかを確認。
浅瀬でつながる隣の島も、翌日から数日掛けて徹底的に探してようやく諸島群を制圧したのである。
その過程で石化の呪文がスライムに有効だと思い出したり、わざと粗雑に作った無形のゴーレムを石化するというテクニックに思い至ったのはずっと後の事である。
リザードマン退治が出来たことで浮かれていたつもりはない。
固める場所は固め、後ろを突かれる懸念を先に払拭。殲滅戦に移行しつつ、陣地を整えて今後に備えたつもりだった。だが、結果として隙を晒してしまったのは仕方あるまい。
夕方になって暗く成り始めた所で『敵』が襲ってきたのだ。
「大変です! 浅瀬を守っていた隊が突破されました! 間もなくこちらにも来ます! 敵は複数! 繰り返します、敵は複数です!」
「っ! 作業中のゴーレムを前に出せ! 騎士たちは各個に応戦準備!」
そのタイミングで襲われるのは別にピンチではない。
間もなく殲滅に向かった騎士たちが戻ってくる頃で、フォローの為のジャコビニアス隊は程近くまで持ってきているだろう。そんな状況であったので誰も悲観してはいないが、だからこそ……油断してしまったというべきだろう。
そして今回の件で厄介なのは、複数の強敵が居たという話である。
「判っている範囲で良い、形状と数は? キマイラか、マンティコアか!?」
「キマイラらしき存在が三! 獅子の体に竜の頭を持つ個体と、山羊の頭を持つ個体が迫っております! 浅瀬側で戦闘中の個体は不明!」
声を挙げて状況を確認しつつ、無詠唱で持続光を唱えた。
薄暗がりでは戦い難いし、松明が倒れたら目も当てられないからだ。また、突如打ち合わせにない輝きが本陣の上に現われたら騎士たちも駆けつけて来るだろう。それよりも問題なのが、こちら側に二体来ているという事である。
ひとまず片方にはゴーレムを当てるとして、もう一体の対処をしなければならない。
「暫くすれば援軍が駆けつける。無理をするなよ、確実に抑えて行くんだ」
「「はっ!!」」
俺は剣の形をしたゴーレムを抜刀して戦う準備を整える。
今は防御が重要なので、蛇腹剣状にはせずにオートガードで護衛として機能させておく。蛇腹剣でも相手が人間サイズなら護衛になるんだが、今回はデカイからな。受け流せるだけの質量がないとどうにもならない。
その上で近づいてくる敵を眺める訳だが……。
(確かに獅子の体に竜や山羊の頭だな。思ったよりも体が小さいが……)
(こいつのコンセプトは何だ? それにリザードマンは追い出されたのか?)
(それとも脅威を感じて別の島を調査しただけで追い出されてはいない?)
(いや、それは別に今考える事じゃないよな。それよりもなんで両方に翼が残ってるんだ? 俺の指示を無視した? 騎士はともかくゴーレムがか? ありえん……何かがおかしい……)
最初に感じた違和感は『俺の知ってるキマイラと違う』だった。
もちろんそれで弱いなら問題ない。サックっと倒しておしまいだ。キマイラはゴーレムより強い存在だが、こいつらなら暫く戦ってたら倒せそうなイメージがあった。それもそのはずで通常は三つの首と顔を持ち、場合によっては尻尾にも顔を持つのがキマイラだ。それが一つずつの首と顔しかないのでは恐ろしさの敷居が下がる。
ただ、より違和感が強くなったのが優先命令にも関わらず翼を先に狙って居ない事だ。もちろん当ってないだけという可能性もあるのだが……。
「は、伯爵! こいつ……再生します!? こんな能力、聞いてません!」
「なに!?」
気合の入った兵隊さんがキマイラを刺したのだが直ぐに治ってしまった。
そいつ自体は報告するような余裕なんかないが、指揮していた騎士の一人が俺に報告してきた。その報告に兵士が突き刺した個体を確認し、慌ててゴーレムが時間稼ぎしている筈の個体も眺める。よく見れば相手に攻撃が当たっていないのではなく……掠って入るが、即座に傷が修復されるから、相手の能力が落ちないのだ。
ありない……そう思いつつキマイラの学術的来歴を漁ろうとするが、魔術的見地よりも、先にギリシャ神話を思い出してしまうのは俺も慌てていたのだろう。
「……っ! そうか、スライムだ! 溶かして融合する性質で異なる肉体を持つ生物を一つに繋げようという実験をしたって話があった! 松明を持ってこい! それとゴーレムの傍から出来るだけ離れろ! 火球で焼き払うぞ!」
「なんでそんな実験が……!?」
「そんなことより松明だ! さっさと持ってこい!」
通常、スライムが大きいと全てを捕食してしまう。だが少量なら?
少しずつ取り込んでいき、やがて大きく侵食していくのだ。触れた部分が徐々に境界線が怪しく成り、やがて取り込まれている部分の方が多くなる。しかし、途中でスライムの総体情報を保てなくなるほどに焼かれてしまったり、異なる生物などの生命情報が強烈になって行くと、スライムの方が情報汚染されてしまう可能性が『増えて来る』わけだ。もちろんただの賭けでしかないし、人間はショック死とか拒否反応あるはずだけどな。
つまり、こいつはキマイラを作る過程で放り出された失敗作だ。今回はたまたま、俺たちの不利になっただけの話で、本来は未完成であったのだろう。
「敵に素手で触るなよ! 粘液はともかく本体に触れた奴は松明に触れて焼いてろ! 死にたくなければ火傷は嫌だとぬかすな!」
「りょ、了解しました! 本人が嫌がっても傷口の確認を徹底しろ!」
「はい!」
思うのだが魔族側でキマイラを作ろうとした実験でもあったのだろう。
残された留守居の魔将が考えたのか、単純に以前から存在して解き放たれただけかもしれない。いずれにせよスライムに成り掛かっているキマイラと戦う事になる。おそらくは浅瀬側で戦っている最後の一体も、元は同じ個体だったのではないだろうか? キマイラとして統合しきれておらず、個々に動いて、それぞれが好き勝手に戦っているものと思われる。
ここでの問題は兵士たちにも飛び火する可能性があるのと、剣で切ったり刺したりするくらいでは倒しきれないということだ。
「離れたな? まずはあいつから焼く! そしたらゴーレムにそいつも任せろ! その後は浅瀬側の連中にも伝えろ! 決して触るなとな!」
「は、はい!」
「炎よ!」
そのままファイヤーボールの呪文を唱え、もう一発唱えて一体目を撃破。
兵士を移動させつつゴーレムに牽制させ、後から戻って来たジャコビニアス隊も合わせてようやくキマイラもどきを退治する事が出来た。だが、この話はここで終わる事はない。万が一にもスライムが残って居たら大変だからだ。その日は徹夜で兵士たちの体を確かめ、翌日はもう一度島を調査して侵食された存在が居ないかを確認。
浅瀬でつながる隣の島も、翌日から数日掛けて徹底的に探してようやく諸島群を制圧したのである。
その過程で石化の呪文がスライムに有効だと思い出したり、わざと粗雑に作った無形のゴーレムを石化するというテクニックに思い至ったのはずっと後の事である。
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