魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

文字の大きさ
上 下
117 / 167
第十一章

『未来の新体制の為に!』

しおりを挟む

 塩の専売に関しては岩塩を扱っていた連中に名誉職を渡すことで終了した。
岩塩の鉱脈はそれなりに昔からあって限界が来ていた事と、これまでは俺が遠慮して価格統制していただけの話だ。特に耕作地の無い新領地を獲得したということは、塩の大増産以外に儲けを出す方法がない事は判っていたのだろう。

専売公社を立ち上げたら彼らにポストを幾つか渡す事で合意した。

「さて君たちは様々な理由で私の下に送られたわけだが、安心して欲しい」
「元の部署にも十分な資金を渡しているし、君たちにもボーナスを出そう」
「実際に地形を見て考察したり、騎士や役人と話しながらでも研究は出来る」
「それが嫌ならいつでも言ってくれ。快適な場所で魔法の品を延々と製造する任務を用意しよう。どのチームに所属しても成果次第でボーナスを約束するし、ローテーションで完全休息期間も用意するよ。それと実家に借金があるなら先に報告する事。こちらで立て替えて、利息なしの元金払いを先方にオロシャ政府から提案しよう」
 という訳で次は新領地にて、宮廷魔導師の一部をチーム化する事業だ。
まず最初に俺の指揮下に送られてきたことは決して左遷ではない事を説明しておく。中抜きされてない限り、元の部署が困ってるなんてことはまずない。宮廷魔導師はオロシャの為に研鑽し、非常時に控えているという名目で何もしてないからな。要するに自分の研究が国家に役に立つと主張したり、非常時の戦力として待機しているのだ。。だからどれだけ名門出身であるかとか、魔法学院で権威のある研究をしていたかだけが評価される。

送られて来た連中はそいつらの中で立場の無い下っ端だったり、家の関係で嫌と言えない連中が殆どだ。この時点で断る選択肢は最初からないのである。

「創造門のミハイル君として聞きたい。我々は一体何をさせられるのだね?」
「オロシャの民として伯爵様には逆らえまい。だがそのくらいは聞きたいな」
「方針を聞きたいというのは、もっともな意見だ。では国家魔術士としての道と、その上級職としての国家魔導師の確立だな。この部屋を冷やしているマジックアイテムやゴーレムもだが、生活の役に立つアイテムを作ったり、そういった品や魔術そのものを使って国家の役に立つ。別に騎士が兵士と共に苦労することを、魔術師が数人ないし魔導師一人で片付けてしまっても構わないだろう? その体制造りさ」
 最初に発言したのは一同の中でも年かさの、訳アリ連中だった。
彼らはマウントを取るような言い方であったり、嫌味な話ぶりだが内容は共通している。『方針』を聞くことで、これから何をするのか、何が得られるのか、その果てに何が待っているのかを聞きたいのだ。特にマウントを取って来た爺は貴族出身で、魔法学院へ留学したこともないただの古株である。宮廷魔導師団では貴族だから放逐されないが、特に功績も目立った研究も無いので冷遇されてきた男だ。

俺が言いたいのは結局、魔術を国家が大々的に利用して居れば世界はもっと便利であったということだ。川の流れを変える大魔導師や、天候を操作できるグレートシャーマンが居た頃はそうしてきたはずだ。今やってないのは、権威主義の結果に過ぎない(権威があるからこそ態勢にされても居るが)。

「魔術をただの力として利用しろと? これだから……」
「君たちが千人居たら既に魔王は倒せていたはずだ。そうだろう?」
「無茶な。そんなに魔術士は居らん。居たとしてもなぜ我々が!?」
「実行しなかったのは単にその体制がなかったからに過ぎない。深淵を覗き込むために研鑽する者が居るのは良い。だが、騎士以上の力で国家に役立つ魔導師が居たって良いじゃないか。だから私は魔法学院や王立大学の下部組織としての魔術学校ないし魔術士部門を作る。卒業生の受け皿としてのスペシャルチームやマジックアイテムの生産体制をね」
 昔気質の高尚さを否定はしない。反論する爺さんに俺は道を示した。
今までの延長で研究三昧を送り多ならばそれでも良い。それを俺は別に否定しない。その道で食っていけるなら、それで魔術の腕前が磨かれるなら結構な事だ。俺自身、政治に関わってゴーレム魔法のレベルがちっとも上がってないからな。やはり確実に成功する呪文を使い続けても、魔術の腕前は磨かれないものである。

だが、今ある一本道を三本なり四本なりに増やす……いわゆる『国家三分の計』みたいな先行きを示したことで爺さんは黙った。今までの道を否定しなかったことで矛先を失ったのだ。

「それぞれの道とその先を用意するから、元の部署にも空きが出来る筈だよ。研鑽の道を選ぶならばそうすると良い。教師なり部隊長くらいなら解散されない限り私が任命しよう。校長や団長職は流石に陛下たちが決める筈だけれどね。元の方は空いた分の枠を得られるとは思う」
「中々に魅力的なお言葉ですな。具体的には何をすれば良いので?」
 俺の言葉に嫌味を言っていた方は早々に鞍替えをしたようだ。
何しろ元の場所に持っても居場所はあるかもしれないが、栄光の未来なんかは存在しない。彼らは不要とは言わないが、陛下が行けと言ったら仕方なく送られる程度の連中なのだ。ここで『その程度』という段階を抜け出し、『功績を上げて戻って来た』くらいの位置を確保しないと駄目だろう。

もちろん居残って教師なり部隊長になりたいならば、俺の権限で幾らでもポストを用意できる。

「最低でも三つのチームを作る。魔族の島付近までの現地調査チームは、危険手当を出すし長期休息も出すから、現場で魔物の素材を収集したり大地が持つ魔力を研究するだけではなく、此処に戻って自分の長期研究も出来る。次に生活に役立つ魔術や騎士や官僚に近い魔術師を研究するチーム、この場で議論や研究を行うが、呪文の開発もするから腕前を鍛えるなら此処だな。最後にマジックアイテムを延々と作るチーム、報酬や小さな休息は多いが長期休暇はその分難しいだろう。後は必要に合わせる」
「なるほどなるほど。己を磨きたいなら現場に行けと言う事ですかな」
「そうなるな。世界を知らないのに、この世の神秘を探求と言われても困る」
 俺は比較例として、幾つかの呪文使用例を書いたメモを渡した。
浮遊の呪文や水上歩行の呪文で移動し、発火や水作成で生活を便利にする道具を作り、あるいはゴーレムや部隊と連携するために伝言の呪文などを習得した魔術師などの例だ。もちろん傭兵をやっている奴らなら自然と覚えている経験則であるが、そういった事を何も知らない魔術士も多い。例え導師級に到達して魔導師と呼ばれるようになってもそれは同じことだ。

そして次には、呪文のランクを示したリストと、何枚かの魔法陣を見せた。

「君たちには潤沢な魔術触媒の他、どう呪文を唱えて行けば効率よく腕前を上げられるかという情報、あるいは私が所有する魔法陣の使用権を用意しよう。それだけでも元の席に戻るよりはマシだと言えるだろうな。君たちにアイデアがあり野心があるならば、私を否定するよりも『こんな研究や魔法陣はどうでしょう?』と提案し給え。私の独断の他、君たちの議論次第でもソレを許可する」
「「おお……」」
 馬の前には人参をぶら下げておくものだ。報酬で頬を叩くと言っても良い。
先ほどマウントを取ろうとした老魔術師ですら目を変えたように、ここに居る者たちは先行きがないからな。もちろん将来有望だがスパイとしてやって来た者も居る筈だ。だが、個々でケチな姿勢を見せるよりは、報酬なり地位でやる気を出させるべきだろう。

最後にもう一つ、こちらの要望もせっかくなので教習の材料として織り交ぜておこう。

「先ほど魔術の腕を磨くならば現場に出るべきだとは言った。だが、せっかくなのでこの場所でマジックアイテムや、その延長でゴーレムを作る研修を全員で行っておこう。どうせ冒険者による調査隊が戻って来てからの方が確実だし、中には魔法の品を作る方が好みな者も居るだろうしな。もちろん報酬は普通に出すよ」
「それは嫌味かね? 儂は年齢の問題で外には出れぬだけじゃよ」
 全員の呪文を確認し、希少になってしまう者が外に出るかもしれない。
それを考えれば今のうちに必要な物は作れるだけ作ってしまうべきだろう。俺やセシリアが唱えられる呪文は幾らでもなんとかなるが、それこそマイナーな呪文だったり高位の呪文は募集しようもないからな。

ちなみに文句ばっかり言っている老魔術師だが、流石にレベルが高いのでありがたい。特に浮遊の呪文を当たり前の様に成功できる事で、空飛ぶゴーレム研究が進みそうだった。この事は塩の権利を手放して、最初の朗報だろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...