魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第十章

『暴走しない呪文型ゴーレム』

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 魔法の品を作れるようになったセシリアがアンナへプレゼントするという。
その時にちょっとした作例を挙げたのだが、せっかくなので本当に作ってしまう事にした。何のことはない、変形すると口から水を吐き出すマーライオン型ゴーレムだ。特に凄い能力はなく、あえてどの部分も強化しない。意図したことは一つだけ、変形したら水を吐き出すという事を含めたら二つになるか。

それは初心者が作れる人形より、一回り上の通常サイズゴーレム。
熟練者が手習いで作るゴーレムであり、初心者が目指すべき第一歩というレベルでしかない。その個体に水を吐き出すという能力を付け加えたと言っても良いかもしれない。

(こいつをマーライオンか何か判り易い飾りの中に入れれば十分だろう」)
 付与はゴーレムでも使うし、水作成だけなら俺も使えるから問題ない。
そう思って作例として挙げたゴーレムを用意する事にした。ただマーライオンなんか例えであってこの場にあるわけではないので、手足もなく関節が一つあるだけの長方形ゴーレムを用意する。もちろん関節は一枚板を割いた物で、変形すると水作成の呪文構文が成立しなくなるやつだ。サイズも呪文を使えるだけの魔力を有する基本サイズにしておいた。

そして出来るだけシンプルにしたかったので、付属のレバーを倒したら変形して水を出し、戻したら元に戻って水を出すのを止めるだけの単純な命令である。

(まずはコイツでどのくらいの水を出したら止まるのかを計測しないとな……アレ? 妙に量が出ねえなあ)
 ゴーレム本体の性能検査もクソもないので、水だけを計測する。
長方形のゴーレムの動きなんか調整する必要もないからだ。あえていうならば動力制御の火が完全に不要なくらいで、土は保有魔力で水はゴーレム成立で風は魔力吸収と使わない部分はないので、あえて基本形で全部投入してある。

だが、予想外の出来事が起こった。出て来た水は1リットルほどの基本状態で止まったのだ。

「嘘だろ!? たったこれだけでもう魔力が尽きたのかよ? って、また出て来るな? どういうことだ……」
 思わず言葉が出てしまった。内心の声が収まらなかったという感じだろう。
1リットルというのは普通に水作成の呪文を使った時に生成される量であり、たったそれだけで水の作成が終わるとは思わなかったのだ。前に別の呪文とはいえ組み込み型のゴーレムを使用した際には、暴走して魔力が尽きるまで超過駆動したものである。

だが、不思議な事にこのゴーレムは僅か1リットル生成しただけで停止し、そして動作を繰り返すと同じように水が生成された。

(もしかして、魔力の暴走が起きてない? なんでだ!?)
 思わず独り言をしてしまった事に気が付き、慌てて口を閉じて考える。
口元と顎に指の感覚を感じて、思案しているポーズなのだなと改めて気が付いた。念のためにもう一度だけ、時間を空けて検証する。その結果はやはり同じだ。そこで検証は止めて置き、思考だけで推論を重ねる事にした。もし実験したければ、暫くすれば魔力が回復するだろう。

その時、割かれた板切れを覗き込み、変形後の合体状態で無いのがもどかしいくらいに何度も呪文構文を確認していく。

(間違いなく暴走していない。なんでだ?)
(暴走の考察は、『最大級している水の魔力に引っ張られた』だったか)
(こいつは初心者なら全力で作る物を、今の俺が片手間で作れるもんだ)
(だから一切魔法陣も補助呪文も使ってない。あえて言うなら刻印する時の……ああ、一つ一つは魔力も分割してないから分割用のも使ってないな。本当に基礎の刻印だけか。ということは、同じような事を試せば出来る……と?)
 これまでも基礎に近いゴーレムに呪文を組み込んだことはあった。
検証は何度もしないと駄目だし、四大魔力を調整して一部の能力だけを強くしたり、ゴーレム魔術用の呪文を見つけるために色々と小細工した面も否めない。だからこいつは正真正銘、一切、強化しようという思いも混じってないし、魔力を調整していないのだ。

ここで考えることは本当にそうなのかではなく、もう一度試す事、そしてどんな呪文ならば作る意味があるかである。

(落ち着け。今の俺ならこのレベルのゴーレムを作るのは難しくない)
(重要なのは一切の気負いを乗せず、同じランクのゴーレムを作ること)
(問題なのはそれで初歩の呪文が暴走しなくなったとしてどうするんだ?)
(簡易変形でも強制中断させることは出来る。だから重要なのは呪文が使える事じゃない。思い出せ、セシリアにも言ったじゃないか。ゴーレムが呪文を使えるメリットは、術者がそこに居なくても成立させられることだと)
 もう一度試して検証すること自体は簡単だ。失敗してもまた試せば良い。
だから迷うことなく試し、この状態で作れば同じ物が用意できると示す事。そして、呪文を入れ替えて、『何の効果を持つ呪文をどう使った』ならば意味があるかを検証すべきなのである。そこまでやれば呪文を使うゴーレムに意味が出来るし、価値が生まれることで何度も建造することになり、その経験から逆算して可能な限り暴走しないゴーレムも出来るかもしれない(何十例も検証しないと意味が無いので、偶然にあまり意味が無い)。

例えば今回の水作成ならば、魔力を鍛えていない遊牧民たちに預けても使う事が出来る。レバーを曲げるという動作はあえて付け加えずに、『一日に決まった時間になったら水を出す』という命令を与えておけば魔力を使いすぎることはないからだ。

(水作成・水移動・抵抗……送風・空気作成・伝声、着火・発火・発光、土作成・土移動・硬化。完全な初歩はこの位か……戦闘と同時に抵抗や硬化? そこまでする意味がねえ。やっぱり何かを作るのが一番で、2ランク目を簡単に実行できるようになったら……せめて3ランク欲しいよな)
 戦闘行動に意味があまりないので、どうしても作成形に偏ってしまう。
空気作成で地下空洞に新鮮な空気を作ったり、土作成で砂の移動に蓋をするくらいだろうか? おそらく意味のあるのは2ランク目にある呪文だろうが、難易度の問題で確実に成功するのは得意傾向に限られる。俺だと火だから持続光とか意識の活性化とかだが、それ以外だとマジックアイテムの方が早くなってしまう。現段階だと『一日に指定回数ほど、自動的に発動する』という効果にあまり意味が無いのだ。3ランク目だと冷却システムを魔力を支払う人が要らなくなるように手直しが出来るのだが……。

やはり暴走しない状態でほどほどの強化できるように、逆算をなんとか探し出すしかないのだろうか?

(俺が試すなら持続光で灯台か? ゴーレム同士の魔力回復を妨げないように高く作って、一機目が消耗仕切る前に二機目が上がって交代、必要なら三機目という風に順繰りに動かしていく。消耗した個体は階下に移動して大人しく魔力補給とかだな。遠洋航海しないからあんまり意味はないが)
 持続光の呪文は火のランク2に位置して、誰もが使い易い呪文だ。
継続時間が長く一回の使用で1時間くらい保つ。俺は最初に発火・火移動・火球と覚えて行ったんだが、後から火移動じゃなくて持続光の方が便利だったなと思う程である。何しろ同じように発光で十分だから別の呪文にしようと思ったやつが、持続光は日常生活でも役に立つと順当に覚えるくらいである。

灯台に比べてあまりありがたみはないが、重要拠点で明かりを灯しながら見張りの兵と共に警戒するゴーレムでも作るべきなのだろうか?

(今は此処までだな。考えが煮詰まって来た。とりあえず暴走しない様に出来る可能性を見つけただけ良しとしておこう)
 対して時間はたっていない筈だが、呪文を使った事もあって疲労を感じる。
頭脳を巡らせたことによる疲労と合わせ、甘い物でも食べたい様な、さっさと眠ってしまいたいようなどちらとも言えない感覚だった。甘口のワインでもあったら飲み干して泥酔しかねない感じである。

適当にメモへと情報を知るし、目が覚めたら感違った……とかいうオチにはなるなよと思いつつ休むことにした。
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