86 / 167
第九章
『何の為の富国強兵か』
しおりを挟む 婚約したばかりの子供の頃から、殿下は私を気に入ってはいないようでした。
それでも私は、将来夫となり共に領地を支えていく方だからこそ、少しでも歩み寄りたい。
両親の様に誰が見ても仲良しな夫婦にはなれなくても、殿下が家族としての情が持ってくださるなら良いと考えて、少しでも殿下の好みになれるよう、親しみを持って貰えるよう努力してきました。
殿下に嫌われていても、私は恋していたからです。
殿下と初めての会ったのは、お茶会の席でした。
今思えばあれは私たちと殿下の顔合わせの為に設けられた場だったのでしょう。
私はその日、恋に落ちました。
一緒に茶会の席にいらっしゃった王妃様そっくりの美しいお顔、にこやかに話しかけて下さり手を繋いで王家のお庭を案内して下さった。
それだけで幼い私は、殿下に恋してしまいました。
ですからお父様に婚約の話を聞いた時は本当に嬉しくて、あんなに素敵な人と婚約出来る喜びに天にも昇る気持ちでした。
婚約は王家から持ちかけられたものと聞かされて、殿下も私を好きになって下さったのだと思っていました。
ですがそれは私の勘違いだと、婚約締結の日に気付かされました。
両陛下の間に座り、私を出迎えた殿下の目はとても冷たく。
初めて会った日に私に向けていた笑顔は、どこにもありませんでした。
殿下は婚約に納得されていなかったのです。
それはとても悲しい現実でした。
手を繋いで優しく私に声を掛けながらお庭を案内してくださった殿下は、そこにはいなかったのです。
ご機嫌が悪かったのよ。
殿下はあなたを気に入っていらっしゃると、王妃様が仰っていたもの。
大丈夫だ、少し照れていらっしゃるだけだよ。あの年頃の男の子にはよくあることだ。
両親に励まされ私は気を取り直し、殿下に接することにしました。
ですが私がいくら努力しても、殿下の態度が変わることはありませんでした。
学園に通いだしてからは、その態度は悪くなる一方で、自分の立場を理解していないその様子に馬鹿な人だと呆れました。
この婚約は王家から私の家ゾルティーア侯爵家からの希望ではなく、第三王子の行く末を心配した王妃様の要求によるものでした。
この国では公爵家を新たに興せるのは第二王子まで、それ以降は王妃様の実家の爵位以上の爵位では新しく家を興すことは出来ません。
年の離れた末っ子の第三王子を溺愛していた王妃様は、ご自分の実家の爵位が伯爵位であり、第三王子も伯爵位しか持てない事を嘆き、我が侯爵家に目をつけたのです。
ゾルティーア侯爵家は昔から大きな領地を治めておりとても裕福でしたが、三代前の陛下の弟である第五王子が当家に婿入りの際婚姻の祝いとして陛下から下賜された地の中に、大きな鉱山と大きな農村地帯があった為更に裕福になりました。
お父様の代になってもその裕福さは変わらぬどころか増すばかり。
領地収入が莫大だというのに代々質素倹約を尊ぶ家柄、領民達との関係も良好で、子供は私だけという好条件でしたから、王妃様が溺愛する息子の婿入り先に望むのも当然でした。
王家から籍を抜いても裕福な暮らしが約束され、当主となるのは妻である私。
この国では、婿入りしてもその家の当主にはなれませんし、領主として仕事をする権限もありません。
顔は良いものの、勉強嫌いで怠け者な片鱗が婚約当時にはすでにあった王子には、もってこいの良縁だと王妃様は考えていたのです。
「怠け者でも、せめて私をほんの少しでも好きになってくだされば良かったのに」
好きという気持ちはとっくに薄れても、少しでも関係を改善出来ればと努力し続けました。
そんな私を嘲笑うかの様に、殿下は頑なな態度を取り続けました。
殿下が毎日仕事を大量に私に押し付けて自分達は遊んでいるのを見ながら、私の気持ちはどんどん冷えていきました。
好きという気持ちは薄れ、殿下との仲が改善するという期待も砕け散り、婚約解消は望めないのだからという諦めだけの日々。
殿下とある令嬢の噂を聞いたのはそんな時でした、この期に及んで浮気かと頭痛がしましたが、すでに気持ちは冷めきっていましたし、結婚前の一時的な遊びならと見て見ぬふりしようと思いました。
「それがこんな結果になるとは、私の考えが甘かったのね」
期待なんかしていなかったし、諦めていたのに、なのにどうしてこんなに悲しいのでしょう。
私は体中の水分がすべて涙で流れ出てしまった様な気持ちで、涙を流し続けました。
それでも私は、将来夫となり共に領地を支えていく方だからこそ、少しでも歩み寄りたい。
両親の様に誰が見ても仲良しな夫婦にはなれなくても、殿下が家族としての情が持ってくださるなら良いと考えて、少しでも殿下の好みになれるよう、親しみを持って貰えるよう努力してきました。
殿下に嫌われていても、私は恋していたからです。
殿下と初めての会ったのは、お茶会の席でした。
今思えばあれは私たちと殿下の顔合わせの為に設けられた場だったのでしょう。
私はその日、恋に落ちました。
一緒に茶会の席にいらっしゃった王妃様そっくりの美しいお顔、にこやかに話しかけて下さり手を繋いで王家のお庭を案内して下さった。
それだけで幼い私は、殿下に恋してしまいました。
ですからお父様に婚約の話を聞いた時は本当に嬉しくて、あんなに素敵な人と婚約出来る喜びに天にも昇る気持ちでした。
婚約は王家から持ちかけられたものと聞かされて、殿下も私を好きになって下さったのだと思っていました。
ですがそれは私の勘違いだと、婚約締結の日に気付かされました。
両陛下の間に座り、私を出迎えた殿下の目はとても冷たく。
初めて会った日に私に向けていた笑顔は、どこにもありませんでした。
殿下は婚約に納得されていなかったのです。
それはとても悲しい現実でした。
手を繋いで優しく私に声を掛けながらお庭を案内してくださった殿下は、そこにはいなかったのです。
ご機嫌が悪かったのよ。
殿下はあなたを気に入っていらっしゃると、王妃様が仰っていたもの。
大丈夫だ、少し照れていらっしゃるだけだよ。あの年頃の男の子にはよくあることだ。
両親に励まされ私は気を取り直し、殿下に接することにしました。
ですが私がいくら努力しても、殿下の態度が変わることはありませんでした。
学園に通いだしてからは、その態度は悪くなる一方で、自分の立場を理解していないその様子に馬鹿な人だと呆れました。
この婚約は王家から私の家ゾルティーア侯爵家からの希望ではなく、第三王子の行く末を心配した王妃様の要求によるものでした。
この国では公爵家を新たに興せるのは第二王子まで、それ以降は王妃様の実家の爵位以上の爵位では新しく家を興すことは出来ません。
年の離れた末っ子の第三王子を溺愛していた王妃様は、ご自分の実家の爵位が伯爵位であり、第三王子も伯爵位しか持てない事を嘆き、我が侯爵家に目をつけたのです。
ゾルティーア侯爵家は昔から大きな領地を治めておりとても裕福でしたが、三代前の陛下の弟である第五王子が当家に婿入りの際婚姻の祝いとして陛下から下賜された地の中に、大きな鉱山と大きな農村地帯があった為更に裕福になりました。
お父様の代になってもその裕福さは変わらぬどころか増すばかり。
領地収入が莫大だというのに代々質素倹約を尊ぶ家柄、領民達との関係も良好で、子供は私だけという好条件でしたから、王妃様が溺愛する息子の婿入り先に望むのも当然でした。
王家から籍を抜いても裕福な暮らしが約束され、当主となるのは妻である私。
この国では、婿入りしてもその家の当主にはなれませんし、領主として仕事をする権限もありません。
顔は良いものの、勉強嫌いで怠け者な片鱗が婚約当時にはすでにあった王子には、もってこいの良縁だと王妃様は考えていたのです。
「怠け者でも、せめて私をほんの少しでも好きになってくだされば良かったのに」
好きという気持ちはとっくに薄れても、少しでも関係を改善出来ればと努力し続けました。
そんな私を嘲笑うかの様に、殿下は頑なな態度を取り続けました。
殿下が毎日仕事を大量に私に押し付けて自分達は遊んでいるのを見ながら、私の気持ちはどんどん冷えていきました。
好きという気持ちは薄れ、殿下との仲が改善するという期待も砕け散り、婚約解消は望めないのだからという諦めだけの日々。
殿下とある令嬢の噂を聞いたのはそんな時でした、この期に及んで浮気かと頭痛がしましたが、すでに気持ちは冷めきっていましたし、結婚前の一時的な遊びならと見て見ぬふりしようと思いました。
「それがこんな結果になるとは、私の考えが甘かったのね」
期待なんかしていなかったし、諦めていたのに、なのにどうしてこんなに悲しいのでしょう。
私は体中の水分がすべて涙で流れ出てしまった様な気持ちで、涙を流し続けました。
10
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。


元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる