魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第八章

『禍福は予期せずにやって来る』

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 マジックアイテム化は国土開発よりも短いが、それでも時間が掛かる。
しかも献上用だけではなく、自分たち用も作って居たら当然だ。いつもならば自分たち用で実験してから献上用なのだが、今回は快適過ぎて献上後もまた再請求おかわりされると判っているので、気兼ねなく古い方を送ることにした。

その間何も無ければ良かったのだが、地味に大事件が起きていた。矛盾する言葉だが、ゴルビーに直接の影響はないのだ。

「島みたいな魚が北上してるって?」
「はい。それで向こうにゴーレムを作りに来ると危ないって伝言に来ました。後は水棲種族からの要請と言うか、ボクからもお願いですね」
 やって来たのは冒険者チームの魔術師、ホーセンスだ。
彼は飛行の呪文が使えるので、中継基地を経由して使者として訪れたらしい。伝言の呪文も使えるので、何気に有用な男である。もっとも、彼は研究者になりたいのであって冒険者になりたいわけではないから、冒険者として有能でも意味はないのだろう(遺跡探検したいのは研究用と発言力用)。

とりあえずこの時点で水棲種族の要請はともかく、自分のお願いを交えると言う辺り、ちゃっかりとしていると言えるだろう。

「要請の方から聞こうか。子供の使いじゃないから、形式と本音込みでな」
「預かっているモノを全て迎撃に利用しても良いか? と言伝を頼まれてます。陸の上からボクらが可能な範囲で迎撃するほか、ゴーレムや船にマジックアイテムとか使えそうなモノは使っても良いかという確認ですね。灯台の様の明かりも囮として使う気なんでしょう」
 ホーセンスの説明は、なるほどと思わせる内容だった。
だが、俺はそこに少し危ういものを感じる。何というか、水棲種族の言葉にはかなり寓意が込められているからだ。要するに『全て利用して良いか?』と言う言葉であり、それ以上でもそれ以下でもない。どこにもホーセンスが言うように、可能な範囲で迎撃なんて言葉は入って居ないのだ。もちろん、相手が魚であり人間は海の中で素早く動けないのだから当然だが。

しかし、そこに呪文という存在があるのだから、少なくとも魔術師である彼だけはこの危うさに気がつかねばならないのだろう。

「ホセ。指導者の言葉を鵜呑みにしたら駄目だぞ。銛に水中で素早く動ける呪文を使ってみるとか言ってたろう。どうして水棲種族が水中呼吸の呪文を使えないなんて想像した? 連中の換算にお前たちも当然の用に入っていると思うぞ」
「え? あ……そういえば!?」
 ホーセンスの楽観視はどこか対岸の火事めいていた。
浅瀬しかないゴルビーで俺やセシリアがそう思うだけならともかく、現場で迎撃に当るつもりだったこいつが想像できていないのはおかしいだろう。つまり、こいつは様々な呪文が存在し、自分や他人が最大限使って縦横無尽に戦うなんて事が想像の範疇に無いのだ。気が付いていないのだから、まだまだ未熟だということだ。

俺が言ったことがようやく頭に入って来たのか、段々と表情が青くなっていく。間違いなく、島の様な魚と『水中で』戦う事なんか想像していなかったに違いない。

「ボクたち水中で戦った経験何て無いですよ? ほ、本当に?」
「連中は自分たちの命も矢弾としてか考えてないみたいだからな。だいたい、勇者軍でもそう言う事はよくあったさ。奴隷どころか市民出身の兵士も足止め役、ゴーレムに至っては最初から戦力扱い。こっちは穴掘りやら荷物持ちで壁を作るって約束で貸したのにな。指揮官であり騎士一同、戻るつもりはなかったと言われたら、『まあそうだろうよ』としか言えんさ」
 二元の場合は命懸けて戦う者も、自分だけは助かる気の者も両方いた。
水棲種族はたくさん生まれてたくさん死ぬのが当然という価値観とか言っていたので、その巨大魚の被害を考えれば、当然のように自分の命も賭けるだろう。いわんやレンタルできる程度の戦力でも、有用なら平然と使い潰すだろう。実際、その辺の大貴族であれば貸し出した戦力が全滅しても、それ以上の代価があれば納得するだろう。

翻って俺はというと、そこまで非常に成れないし……ホーセンスが使える飛行の呪文が魅力的だった。余裕が出来たらマジックアイテム化に突き合わせたいものである。場合によっては、ゴーレムに組み込み事も含めて。

「な……なんとかなりませんか? その、ボクたち……」
「俺がどう答えるかは別にして、『自分達だけなら協力します』とでも言ったのか? コネを作るなとは言わんかったから、気持ちは判るけどな。迂闊だったぞ、それは」
 陸から矢であったり呪文で援護攻撃するというのが想定だったのだろう。
だが、銛を撃てるアーバレストを海中に持ち込んで、動き易くなる呪文を銛に掛けたことがあったのだ。それを考えれば少々迂闊だったろう。水棲種族からすれば、行動速度を高める呪文さえ使えば、陸上と同じくらいには戦えるはずなのだ。最終防衛戦で戦い戦力として想定くらいするだろう。そこまでやってくれるならこそコネを結んで独自に依頼を出したり、水棲種族が彼らの御願いを聞いて島の探索などに協力してくれるのだから。

思いっ切り自業自得なので見捨てても良いのだが、彼らが死ぬと後ちょっとの海洋探索が困る。それにこいつが飛行の呪文が使えるのだから、捨てるには恩を売る機会を惜しいだろう。

「雇っているだけだし向こうへコネ繋ぎした奴らを庇う程じゃないが、見捨てるのもひけるしな。それに遺跡があるなら探索チームを任せても良いと言ったわけだし、士官する未来があり得たかもしれん。今後も雇われる気があるならだが、少し考えてみるか」
「そ、そう! それなんです! 飛んで戻る時にですね! 見つけて……」
 適当に理由を付けて、突き放してみたり庇うフリをしてみたり。
実際、そこまで恩を売るような状況でもない。水中戦力として投入するかもしれないというのは、あくまで俺の推測だ。あるいは考えて居なかったのはこいつだけで、他の連中は水棲種族や背後組織(俺も含む)に恩を売る為には仕方ないと覚悟しているかもしれない。

だから考え方をフラットにして、今度に雇われる気があるなら助け舟を出すという態にした。ホーセンスはこの提案に飛びついたのか、あるいは本当に遺跡を見つけたのかしがみ付いてきた様に見える。

「次の任務を決めているから、お前たちは援護の範囲なら許可すると伝えてくれ。代わりにゴーレムを囮として使い潰し、呑み込ませてから体の内側から攻撃するような命令をしても構わないと言うんだ。それと攻撃呪文は使えるな?」
「はい。エアカッターと電撃が一応」
 水棲種族が既に作戦に組み入れていても困るので、筋道を通す。
直接の雇い主は俺であり、仮に彼らが協力すると言ったとしても優先権は俺にある。その上で、『ゴルビー男爵が許可を出さなくても防衛に協力する』という言質を取るには、あくまで俺が『協力してはならない』と言った場合なのだ。『陸上からの援護ならば構わない』という許可を出し、冒険者たちがそれを否定する余地を無くせば、水棲種族もその範囲で作戦を組み直すだろう。

あくまで冒険者たちも追加戦力であり、俺達との関係を崩してまで、本当に役立つかも判らないのに無理はしないだろう(そうすれば勝てると判っているならはなしは別だが)。

「なら丁度良い。お前さんの予定の中に、此処で雷撃の呪文をマジックアイテム化するという話を入れておく。魔力を注ぎ込むと何度でも呪文が使えるタイプと、一度きりだが最大級の雷をばらまくタイプ。どっちかを作って提供するつもりだとも伝えてくれ。ここにはマジックアイテムを作れる魔術師が居るからな」
「あ……そうですね。その場合、ボク一人より、アイテムの方がいいのか」
 話の流れは強引に整えたが、相手の心情も利用する方が良いだろう。
そこで攻撃用のマジックアイテムを作って渡す約束をしておくのだ。もし、雷撃の呪文が大きな魚の魔物に通じるならば、水の中で戦った経験が無いホーセンスよりも、水棲種族の勇士が担当した方が絶対に良い。仮にゴーレムに組み込んだら全力稼働を続ける問題を流用すれば、同じ場所で何度でも使うなり、呑み込ませてから体の中で放たせるとか色々考えられるからな。もちろん命令として『キーワードを聞いたら封じていた呪文を解き放つ』という変形パターンを組み込まなければならないだろうが。

いずれにせよ先約があると言った上で、もっと良い提案をしてくれるならばその方が絶対に良い。それこそマジックアイテムは時間を掛ければ幾つでも生み出せるので、なんだったら『一年後に複数揃えて討伐戦を行う』という、更に勝率が上がる方法もあり得るだろう。

「繰り返すが、向こうに送ってるゴーレムやらマジックアイテムは好きに使い潰して良いと伝えるのを忘れるなよ。アイテムと合わせて二つの理屈があれば、前に話した感覚からして絶対に強硬はしない筈だ」
「判りました! ところで、予定は何にします? 聞かれると思いますが」
「飛行呪文にしておけ。アイテムにしてもゴーレムにしても面白そうだろ。ああ、そうだな。お前さんがさっき言ってた遺跡の話もあるか。見つけたらプロジェクト・リーダーに据えると言ったのは本当だからな」
 こうして予期せぬ巨大魚の話を契機に、新しい魔術師と計画を手に入れたのだった。
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