魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第六章

『そいつの正体』

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(今頃、リィウス様は……)
 娼館で淫猥で残酷な主や調教師たちによって、男に抱かれるべく手ほどきを受けているのかと想像すると、アンキセウスは己のうちに昂ぶるものを感じた。
 そして、出口をもとめるその昂ぶりを発散させるべく、ナルキッソスの左脚を引っぱりあげる。
「ああ……!」
 あられもなくナルキッソスは衣の裾を乱した。すでに準備ができているようだ。
(淫乱め)
 最初にこのことに気づいたのはいつだったか……。アンキセウスはどこか奇妙なものを彼に感じていた。
 歳の割に大人びたところがあったが、ふとした瞬間に、アンキセウスに色目を使ってくることがあったのだ。流し目を見せたり、しなをつくってみせることもあった。最初は、冗談かふざけているだけだと思っていたが、それがだんだん高じてきた。
 十歳になったころには、すでに幼娼婦の片鱗をナルキッソスは見せていた。両親と兄は気づいていなかったかもしれないが。いや、もしかしたら母親の方はうすうす気づいていたかもしれないが、彼女は病弱だったせいで、あまり口出ししなかった。もともと解放奴隷あがりなので、その出自に劣等感があったのか、万事に控えめだった。それはアンキセウスも同様だ。
 もったいない待遇を受け、奴隷の身分から解き放たれたとしても、それで本当の自由民になれるかといえば、話は微妙だ。奴隷ではないが、正当なローマ市民でもないという特殊な身分で、どちらにも入れず、どちらからも白い目で見られて生きるのが解放奴隷という立場の人間だ。幸か不幸かアンキセウスは有能なので、前の家令からはひどく妬まれた。ささやかないやがらせは日常茶飯事だ。下働きの奴隷からは、うまくったやった奴と妬まれ、やはり距離を置かれていた。
(結局、俺たちは同類ということか)
 この少年も、いくらプリスクス家の次男として優遇されたところで、元奴隷、奴隷の子という烙印は一生消せないのだ。もしかしたら、それが彼をいっそう歪めさせたのかもしれない。
 アンキセウスは、熱する身体をもてあましながら、それでいて冷めた頭の隅でそんなことを考えながら、ナルキッソスの太腿をつかみ、己の欲望を、若い、というよりまだ幼い身体に注ぎこんだ。
「うっ、ああっ、アンキセウス!」
 相手に名を呼ばれ、達する瞬間、アンキセウスは目を閉じた。閉じた瞼の裏にリィウスの露に濡れたような蒼玉の瞳が浮かんだ。

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