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第六章
『開拓計画の収束』
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レオニード伯とどの程度の技術を出すかを簡単に決めた。
そこで人型である必要もないし、馬型どころか車輪や水車型でも良いという話をしたら驚いてくれたのは面白かった。もっともその概念は手放さない方が良いという忠告を受けたので、あくまで荷車を引く人造馬としてのゴーレムを普及させることにした。
古来、人は馬を農耕や運搬に軍事用として使って来た。
まずはそれらを通してゴーレム魔術師を育て、有名な魔法学院には及ばずとも、メジャーな四大系や付与系だけでもオロシャ大学の魔法科なり、その付属高校を作って育てていく事を陛下に奏上することに成った。
「ゴルビー男爵。こやつらが殊勝にも討伐前に降伏すると言うのでな。何かに使ってやれんか?」
「河賊ですか……。そうですね。討伐後なら首は無かったと思ますが」
「う、うむ。小賢しくも目端が利くようだ。無理に殺すこともあるまい」
その後もバルガス河流域の開拓は継いて行く。
その中で面白い様に出てきたのが、河賊と呼ばれる盗賊団の降伏だった。河川の蛇行を真っ直ぐにしたり、木々を切り倒して見晴らしを良くしていく。すると彼らが逃げ隠れる場所が無くなったり、襲撃に絶好の場所が存在しなくなるのだ。難所もゴーレムで浚渫すれば問題なく成る場所も増えていくので、彼らが道案内の代金としてせしめる通行税も獲れなくなってしまう。このまま同じ生活をしていつか討伐されるか、それとも故郷から逃げ出していくかの選択を迫られられた結果なのだろう。
ちなみに降伏の仲介を受けた男爵とか土地持ちの上級騎士だが……大抵は彼らの元締めとか、持ちつ持たれつでやってる人なんだろうなと思う。何しろバルガス伯やキーエル伯が戦いに赴く時、水軍を調達できると息まいていた奴も過去に居たそうだ。
「西に行かなくて良かったな。これから開拓が始まる向こうだと、根切にされるか最悪……農奴だぞ」
「へへ。そ、そうなんでやんすか? 生憎と出歩かないもんで」
「ヨセフ伯がやってる事を教えて欲しいと頭を下げたんだよ。あの人が」
「……伝え聞くに恐ろしい人みたいでやんすね」
ヨセフ・スティーリィン・ジュガス伯。その悪名は東にも轟いている。
西部のゲオルギア地方の名前を冠する伯爵は他に居るのに、彼が西方の盟主として知られるくらいだから推して知るべしである。自らの野心を隠そうともせず、己を制御できぬTOPが不甲斐ないのだと豪語する始末。彼が協力する代わりに、あれを寄こせを寄こせと言う交渉を今ごろは王都で繰り広げられている筈だ。
とはいえヨセフ伯についてはレオニード伯に投げたので、俺としては東部の開拓を無事に終わらせてそのレポートを送りつける以外にする事は無い。
「それで、あっしらは何をすれば良いんでしょう?」
「そうだな。河川に間を繋ぐ放水路を作る予定なんだが、ついでに大きな溜め池を何か所か作るとしようか。上流で伐り出した材木を下流に運んでくれ。お前さんらが過度に通行税を獲らなきゃ、材木商も家具屋も大工も儲けられるはずだ。一定期間が終わったら、それを正業にして良いぞ」
「へへ……合点承知でさあ」
バルガス河は治水の一環として放水路を通す。
ゆったりとした大河なので洪水はあまりないらしいが、それでも大雨のある時は危険な事に成るそうだ。なので各地を浚渫し、堤を作るのと並行して、放水路を通すことに成ったのだ。ただ、例によって利権でもめ始めたので、林業を中心に下流域での産業が儲けられるように手配したという訳である。
もちろんそれで全員が黙ってくれるわけではないのだが、大きな流れを作ってしまえば後はバルガス家とキーエル家が利権調整をしてくれることに成っている。以前にクレメンス団長が『強く言ってやった方が相手の為にも成る』と言っていたが、その事を実感した気がするな。
「おっ。そんな溜め池を作るなら、アレを浮かべる場所も作っといてくれよ。ついでに有人での水中に潜る実験もしようぜ。お前の設計見てから楽しみで仕方ねえんだ」
「空気を清めるアイテムも作って無いのにか? 感覚共有で済ませとけ」
「それは覚えてないんだよ。つかゴーレムを使い魔にする気もなかったしな」
「空気を送る仕掛けを作るまで待てよ。潜ってる間に息が出来なくて死ぬぞ」
水辺を掘り下げ舟溜まりを作る話をしているとガブリールが顔を突っ込んで来た。
木で四角い囲いを作り、その周囲に浮きとなる樽や重しとなる岩を組み合わせ、簡単な潜水艦を設計してみたのだ。透明な硝子とか厚くすると作れないので、外を見るとかは無理なので、感覚共有の呪文を使うしかない。水を取り込んで沈み、水を吐き出して浮かび、緊急時には石を切り離して浮上する。そんな簡単な仕掛けの潜水艦だが、ガブリールにとっては新鮮だったのだろう。早く作ろうとせがんで仕方が無いくらいだ。
もっとも、彼が思う程に水棲の魔物を狩れてはいないので、魔物由来の素材で強化するというアイデアを実行できない以上は、そのまま塩漬けに成っている計画ではある。
「だがよう。この間、レオニード伯が何か言って来たんだろ? お前さんが自由に動ける間に、何かしとこうぜ。それとも約束を反故にすんのか?」
「仕方ないな。何処かで出来ないか調べてみる」
「そうこなくっちゃな!」
俺が多忙になる可能性と、先に頼んだ事を突かれると痛い。
塩を煮る鍋は順調に稼働しているそうで、現在は担当者の魔力でどこまで保つのかとか、セリシアやアンナが魔力を支払えば余熱で他の鍋の温度を上げられないかと研究しているそうだ。出来ればもう一台欲しいと言われているし、借りは借りなので何とかする必要がある。で無ければ今度にまたこいつの力を借りることは出来なくなるだろう。
まあ、水棲型ゴーレムはともかく、水辺の施設くらいなら良いかなと関係者を当ってみることにした。
「調べてみると、キーエル伯の取り分が少ないことに懸念があるようだ。向こうにちょっとした拠点を作るとして、その時で良いな?」
「おし! この際、ランクの低い魔物で良いから出て来ねえかなあ」
「魔物が出るのを期待すんなよ。水中型なんぞ数は作らねえぞ」
「そう言うなって。鍋だってもう一つ作ってやるんだからよう」
ほどなくして施設を作る候補地が見つかった。
バルガス伯爵家とキーエル伯爵家はバルガス側流域の大き目な諸侯だが、陸に風土の多いバルガス家と、水辺の多いキーエル家で少し利益配分のバランスが悪いそうなのだ。もう少し素直に治水に協力する家が多いと踏んでいたのだが、文句を言う家も多かったので、彼らを宥めて居たら何時の間にかキーエル伯爵家の方がマイナスを食っていたらしい。そこでテコ入れとして拠点を作ることにしたのだ。
最初はキーエル伯も申し訳なさそうな顔をしていたが、ガブリールの実験の事を話すと、笑って貸し借り無しだと言ってくれたわけだな。
「少し大げさだが、水中作業用のストーンゴーレムを実験するという態で、水中用の話を覆い隠す。前者はヴォジャノーイ、後者はルーサルカだ」
「確か水妖の名前だったか。そいつらが出てきたら是非とも素材にしたいね」
ここに水塞があったら便利だろうな……と場所に穴を掘る。
他の場所は軽い浚渫で浅瀬の幅を広げたり深くするだけだが、ここはひたすらに深く掘っていく。その砂と岩は分割し、砂は流れるままに水塞の手間を封鎖する様に。一定以上の岩は陸上に持ち帰らせ、建築資材の一部にすることにしたわけだ。
オートの命令ばかりではなく、時折に感覚共有を使って水底を覗いておく。そこで不具合があれば確認したり、妙な所に渦が巻く場合は原因になりそうな物を除去して行った。
「……水の中から泡が出続けるってのは風情が無いな」
「探索用ならこんなもんだろ。これで潜れるってわけだ」
「戦闘の可能性がある場所だと、目立つだけだぞ?」
「今の内からそんなの怖がってどうすんだよ。ここは完成を祝って、次をもっと良くすりゃあ良いだけだぜ。第一、この仕掛けだけでも鉱山じゃよろこばれるだろうよ」
数日でマジックアイテムは作れないので代用品を用意した。
鍛冶で使うフイゴをゴーレムが壊れない程度に延々と吸気し続けるだけの代物だ。そこに節に穴を空けた竹の筒を繋げて、間をニカワなどで接合して延長する。耐久性が少し怪しいので、仕掛け自体を即席のゴーレムとして機能させることで、魔力が尽きるまでは保存できるようにした。エネルギー吸収を司る風も比重高めにしたので、保つのは保つだろう。
上方を多重に密封した大きな箱自体は用意しているので、これに重しと浮をつけて沈めたり浮いたりする仕掛けを組み合わせれば、少々怪しいが潜水艦の出来上がりである。
「ひとまずそうするよ。ルーサルカは人魚みたいにしたいんだがな……こいつはどっちかっていうと亀だな。仕掛けも含めると首長竜なのかもしれんが」
「そんなドラゴンが居るかは別にして、確かに長げえ首だぜ」
「しかし、今にして思えば死角にこだわらず船を逆さまにすれば良かったな」
「よせやい、せっかく作った船を沈めると聞いたら大工が卒倒するぜ」
そんな事を言いながら、少しずつ水中用ゴーレムの基本を整えた。
レオニード伯爵に冗談交じりに提案した、人が搭乗できるゴーレムがやがて完成しそうだ。今すぐは無理だが、錘や浮の操作に水や空気の取り入れ、それらをどうゴーレムに覚えさせたら効率よいかが問題になりそうだけどな。少なくともガワだけは整えることが出来るだろう。
水棲の魔物をバルガス同胞団が狩って、その素材をガブリールがマジックアイテムにすれば、ここでの実験は終わることになるだろう。
「ミハイル。落ち着いて聞いてくれ。概ねお前の提案は通った。陛下もその忠勤を快く思われておられたぞ。ここまでは良い事だ」
「何か問題が出たんですね?」
「ああ。これほど驚愕したのは久しぶりだ」
「何があったんでしょうか?」
水塞を作りながら水中型ゴーレムを仕上げる日々。
それはある種の必然の中で、それなりに自分が出来ることを追い求めて完成させた逸品だった。自分でもなかなかの出来だと思うし、ガブリールの奴に借りを返せたので満足していた。問題なのは、後に成って考察してみるとそんな事に力を費やすべきでは無かったのだろう。
確かにその時は知らなかった。だが、事前に調査しておけば良かったのだから。
「アダマンティンと勝負をさせろとヨセフ伯が言って来た。もちろん、自分のところで作ったゴーレムと、だ」
「はっ? それ、本当ですか?」
「私が嘘を吐く必要はないだろう」
「そうですね。非常に失礼をいたしました。お忘れください」
その言葉を聞いた時、失礼にも俺は問い返した。
それほどに驚く事であり、俺をリクルートしていたヨセフ伯が手元にゴーレムを用意するとは思いもしあかったのだ。だが、よく考えてみれば彼の勢力圏からは無数の資材が採れる。いや、資材くらいしか誇る物が無いのがゲオルギアだ。ならば俺以外のゴーレムを作れる魔術師に声をかけて、戦力を整えようとするのは当然ではないか。
ジュガス2。ヨセフ伯の家名を取って、銘付けられたゴーレムが新たに現れた敵の名前である。
レオニード伯とどの程度の技術を出すかを簡単に決めた。
そこで人型である必要もないし、馬型どころか車輪や水車型でも良いという話をしたら驚いてくれたのは面白かった。もっともその概念は手放さない方が良いという忠告を受けたので、あくまで荷車を引く人造馬としてのゴーレムを普及させることにした。
古来、人は馬を農耕や運搬に軍事用として使って来た。
まずはそれらを通してゴーレム魔術師を育て、有名な魔法学院には及ばずとも、メジャーな四大系や付与系だけでもオロシャ大学の魔法科なり、その付属高校を作って育てていく事を陛下に奏上することに成った。
「ゴルビー男爵。こやつらが殊勝にも討伐前に降伏すると言うのでな。何かに使ってやれんか?」
「河賊ですか……。そうですね。討伐後なら首は無かったと思ますが」
「う、うむ。小賢しくも目端が利くようだ。無理に殺すこともあるまい」
その後もバルガス河流域の開拓は継いて行く。
その中で面白い様に出てきたのが、河賊と呼ばれる盗賊団の降伏だった。河川の蛇行を真っ直ぐにしたり、木々を切り倒して見晴らしを良くしていく。すると彼らが逃げ隠れる場所が無くなったり、襲撃に絶好の場所が存在しなくなるのだ。難所もゴーレムで浚渫すれば問題なく成る場所も増えていくので、彼らが道案内の代金としてせしめる通行税も獲れなくなってしまう。このまま同じ生活をしていつか討伐されるか、それとも故郷から逃げ出していくかの選択を迫られられた結果なのだろう。
ちなみに降伏の仲介を受けた男爵とか土地持ちの上級騎士だが……大抵は彼らの元締めとか、持ちつ持たれつでやってる人なんだろうなと思う。何しろバルガス伯やキーエル伯が戦いに赴く時、水軍を調達できると息まいていた奴も過去に居たそうだ。
「西に行かなくて良かったな。これから開拓が始まる向こうだと、根切にされるか最悪……農奴だぞ」
「へへ。そ、そうなんでやんすか? 生憎と出歩かないもんで」
「ヨセフ伯がやってる事を教えて欲しいと頭を下げたんだよ。あの人が」
「……伝え聞くに恐ろしい人みたいでやんすね」
ヨセフ・スティーリィン・ジュガス伯。その悪名は東にも轟いている。
西部のゲオルギア地方の名前を冠する伯爵は他に居るのに、彼が西方の盟主として知られるくらいだから推して知るべしである。自らの野心を隠そうともせず、己を制御できぬTOPが不甲斐ないのだと豪語する始末。彼が協力する代わりに、あれを寄こせを寄こせと言う交渉を今ごろは王都で繰り広げられている筈だ。
とはいえヨセフ伯についてはレオニード伯に投げたので、俺としては東部の開拓を無事に終わらせてそのレポートを送りつける以外にする事は無い。
「それで、あっしらは何をすれば良いんでしょう?」
「そうだな。河川に間を繋ぐ放水路を作る予定なんだが、ついでに大きな溜め池を何か所か作るとしようか。上流で伐り出した材木を下流に運んでくれ。お前さんらが過度に通行税を獲らなきゃ、材木商も家具屋も大工も儲けられるはずだ。一定期間が終わったら、それを正業にして良いぞ」
「へへ……合点承知でさあ」
バルガス河は治水の一環として放水路を通す。
ゆったりとした大河なので洪水はあまりないらしいが、それでも大雨のある時は危険な事に成るそうだ。なので各地を浚渫し、堤を作るのと並行して、放水路を通すことに成ったのだ。ただ、例によって利権でもめ始めたので、林業を中心に下流域での産業が儲けられるように手配したという訳である。
もちろんそれで全員が黙ってくれるわけではないのだが、大きな流れを作ってしまえば後はバルガス家とキーエル家が利権調整をしてくれることに成っている。以前にクレメンス団長が『強く言ってやった方が相手の為にも成る』と言っていたが、その事を実感した気がするな。
「おっ。そんな溜め池を作るなら、アレを浮かべる場所も作っといてくれよ。ついでに有人での水中に潜る実験もしようぜ。お前の設計見てから楽しみで仕方ねえんだ」
「空気を清めるアイテムも作って無いのにか? 感覚共有で済ませとけ」
「それは覚えてないんだよ。つかゴーレムを使い魔にする気もなかったしな」
「空気を送る仕掛けを作るまで待てよ。潜ってる間に息が出来なくて死ぬぞ」
水辺を掘り下げ舟溜まりを作る話をしているとガブリールが顔を突っ込んで来た。
木で四角い囲いを作り、その周囲に浮きとなる樽や重しとなる岩を組み合わせ、簡単な潜水艦を設計してみたのだ。透明な硝子とか厚くすると作れないので、外を見るとかは無理なので、感覚共有の呪文を使うしかない。水を取り込んで沈み、水を吐き出して浮かび、緊急時には石を切り離して浮上する。そんな簡単な仕掛けの潜水艦だが、ガブリールにとっては新鮮だったのだろう。早く作ろうとせがんで仕方が無いくらいだ。
もっとも、彼が思う程に水棲の魔物を狩れてはいないので、魔物由来の素材で強化するというアイデアを実行できない以上は、そのまま塩漬けに成っている計画ではある。
「だがよう。この間、レオニード伯が何か言って来たんだろ? お前さんが自由に動ける間に、何かしとこうぜ。それとも約束を反故にすんのか?」
「仕方ないな。何処かで出来ないか調べてみる」
「そうこなくっちゃな!」
俺が多忙になる可能性と、先に頼んだ事を突かれると痛い。
塩を煮る鍋は順調に稼働しているそうで、現在は担当者の魔力でどこまで保つのかとか、セリシアやアンナが魔力を支払えば余熱で他の鍋の温度を上げられないかと研究しているそうだ。出来ればもう一台欲しいと言われているし、借りは借りなので何とかする必要がある。で無ければ今度にまたこいつの力を借りることは出来なくなるだろう。
まあ、水棲型ゴーレムはともかく、水辺の施設くらいなら良いかなと関係者を当ってみることにした。
「調べてみると、キーエル伯の取り分が少ないことに懸念があるようだ。向こうにちょっとした拠点を作るとして、その時で良いな?」
「おし! この際、ランクの低い魔物で良いから出て来ねえかなあ」
「魔物が出るのを期待すんなよ。水中型なんぞ数は作らねえぞ」
「そう言うなって。鍋だってもう一つ作ってやるんだからよう」
ほどなくして施設を作る候補地が見つかった。
バルガス伯爵家とキーエル伯爵家はバルガス側流域の大き目な諸侯だが、陸に風土の多いバルガス家と、水辺の多いキーエル家で少し利益配分のバランスが悪いそうなのだ。もう少し素直に治水に協力する家が多いと踏んでいたのだが、文句を言う家も多かったので、彼らを宥めて居たら何時の間にかキーエル伯爵家の方がマイナスを食っていたらしい。そこでテコ入れとして拠点を作ることにしたのだ。
最初はキーエル伯も申し訳なさそうな顔をしていたが、ガブリールの実験の事を話すと、笑って貸し借り無しだと言ってくれたわけだな。
「少し大げさだが、水中作業用のストーンゴーレムを実験するという態で、水中用の話を覆い隠す。前者はヴォジャノーイ、後者はルーサルカだ」
「確か水妖の名前だったか。そいつらが出てきたら是非とも素材にしたいね」
ここに水塞があったら便利だろうな……と場所に穴を掘る。
他の場所は軽い浚渫で浅瀬の幅を広げたり深くするだけだが、ここはひたすらに深く掘っていく。その砂と岩は分割し、砂は流れるままに水塞の手間を封鎖する様に。一定以上の岩は陸上に持ち帰らせ、建築資材の一部にすることにしたわけだ。
オートの命令ばかりではなく、時折に感覚共有を使って水底を覗いておく。そこで不具合があれば確認したり、妙な所に渦が巻く場合は原因になりそうな物を除去して行った。
「……水の中から泡が出続けるってのは風情が無いな」
「探索用ならこんなもんだろ。これで潜れるってわけだ」
「戦闘の可能性がある場所だと、目立つだけだぞ?」
「今の内からそんなの怖がってどうすんだよ。ここは完成を祝って、次をもっと良くすりゃあ良いだけだぜ。第一、この仕掛けだけでも鉱山じゃよろこばれるだろうよ」
数日でマジックアイテムは作れないので代用品を用意した。
鍛冶で使うフイゴをゴーレムが壊れない程度に延々と吸気し続けるだけの代物だ。そこに節に穴を空けた竹の筒を繋げて、間をニカワなどで接合して延長する。耐久性が少し怪しいので、仕掛け自体を即席のゴーレムとして機能させることで、魔力が尽きるまでは保存できるようにした。エネルギー吸収を司る風も比重高めにしたので、保つのは保つだろう。
上方を多重に密封した大きな箱自体は用意しているので、これに重しと浮をつけて沈めたり浮いたりする仕掛けを組み合わせれば、少々怪しいが潜水艦の出来上がりである。
「ひとまずそうするよ。ルーサルカは人魚みたいにしたいんだがな……こいつはどっちかっていうと亀だな。仕掛けも含めると首長竜なのかもしれんが」
「そんなドラゴンが居るかは別にして、確かに長げえ首だぜ」
「しかし、今にして思えば死角にこだわらず船を逆さまにすれば良かったな」
「よせやい、せっかく作った船を沈めると聞いたら大工が卒倒するぜ」
そんな事を言いながら、少しずつ水中用ゴーレムの基本を整えた。
レオニード伯爵に冗談交じりに提案した、人が搭乗できるゴーレムがやがて完成しそうだ。今すぐは無理だが、錘や浮の操作に水や空気の取り入れ、それらをどうゴーレムに覚えさせたら効率よいかが問題になりそうだけどな。少なくともガワだけは整えることが出来るだろう。
水棲の魔物をバルガス同胞団が狩って、その素材をガブリールがマジックアイテムにすれば、ここでの実験は終わることになるだろう。
「ミハイル。落ち着いて聞いてくれ。概ねお前の提案は通った。陛下もその忠勤を快く思われておられたぞ。ここまでは良い事だ」
「何か問題が出たんですね?」
「ああ。これほど驚愕したのは久しぶりだ」
「何があったんでしょうか?」
水塞を作りながら水中型ゴーレムを仕上げる日々。
それはある種の必然の中で、それなりに自分が出来ることを追い求めて完成させた逸品だった。自分でもなかなかの出来だと思うし、ガブリールの奴に借りを返せたので満足していた。問題なのは、後に成って考察してみるとそんな事に力を費やすべきでは無かったのだろう。
確かにその時は知らなかった。だが、事前に調査しておけば良かったのだから。
「アダマンティンと勝負をさせろとヨセフ伯が言って来た。もちろん、自分のところで作ったゴーレムと、だ」
「はっ? それ、本当ですか?」
「私が嘘を吐く必要はないだろう」
「そうですね。非常に失礼をいたしました。お忘れください」
その言葉を聞いた時、失礼にも俺は問い返した。
それほどに驚く事であり、俺をリクルートしていたヨセフ伯が手元にゴーレムを用意するとは思いもしあかったのだ。だが、よく考えてみれば彼の勢力圏からは無数の資材が採れる。いや、資材くらいしか誇る物が無いのがゲオルギアだ。ならば俺以外のゴーレムを作れる魔術師に声をかけて、戦力を整えようとするのは当然ではないか。
ジュガス2。ヨセフ伯の家名を取って、銘付けられたゴーレムが新たに現れた敵の名前である。
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