魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第五章

『闖入者の功罪』

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 王都から魔術師がやって来た。
付与魔術の使い手であるガブリール・ボーゼス。マッドではないが、推測域の中でアタリを狙って大胆な実験を繰り返すため、学院では隅っこに追いやられていた男だ。おかげでゴーレム研究と言うマイナー分野の俺達とは何度か顔を合わせることもあった。

騎士団長や代官との打ち合わせ中なのに人物紹介を始めたのには意味がある。

「よう、ミカ! 活躍は聞いているぞ!」
「唐突なのは相変わらずだなジブ。待ち合わせの場所じゃないぞ」
「お前が何時まで経っても来ないから来てたったんだ感謝しろ」
「それは良いんだが、偉い人の前だから気を付けてくれ。……お前の才能を求められている場所でもあるしな。丁寧に話して損はないぞ」
 説明を先にしたのは、彼の性格には難があるからだ。
単刀直入な男なのに、そのままズバズバと自分が言いたいことを言うから、なかなかその場の人間にどんな人物なのかを説明できないからである。才能が無いわけではないのに、隅っこに追いやられるのを知人が誰も助けなかったあたり、彼の迷惑さは推して知るべし。

とはいえ俺が場の状況を説明すると、ようやく二人に気が付いた様だった。おそらく途中に居た人が説明したはずだが、聞いてないのだろう。

「おお! これは失礼しました。魔術師団のガブリールです」
「専門は付与魔術ですが、他に強化もやっとります」
「研究職ではありますが、この通りのガタイでしてなあ!」
「みなさんに近い所で研究して来いと王都を放り出されたわけですわ。ん……ああ。そうだ、付与と強化の他に、一応は錬金術もやりますな。魔物の素材で必要なので覚えました。嘘をつくつもりなど無いのですが、結果的に嘘に成ったのは申し訳ない。勘弁していただけるとありがたい。ガハハ! 」
 自己紹介のつもりなのだろうが、この有様である。
普通は身分が上の者から声をかけて促すのだが、そんなセオリーを無視して一方的に喋り捲る。しかも聞かれて居ないことばかり自分のペースで、言いたいように話し続けるのだ。もはや彼の言う事を半分以上垂れ流しているので、ミスった専門分野の紹介を後から訂正しても、その段階ではおそらく代官辺りは既に聞いてないだろう。

ただクレメンス騎士団長は何とか必要な事を抜き出して考え始めたようだ。あるいはこういう一方的に話始める男に耐性が高いのかもしれない。

「ガブリール殿は物造りの専門家という事かな? 単刀直入に聞くが、遠見や伝声のマジックアイテムは作れますかな? あれば魔物の警戒に非常に役に立つのだが」
「無理ですな! 覚えておらん呪文は共同でするしかないです。なら弟子を育てるか雇わないといかんですからのう! ただ、魔物の数を調べるだけならミハイルが代用できるでしょう」
「は?」
 クレメンス団長はガブリールに尋ね、奴は俺に振った。
話を聞かないガブリールに対し、必要な事を突きつけるのは良いやり方だと思う。だが、どうして俺に回って来るのかが分からない。団長の欲しい物も作れないというガブリールの言葉も正しくはある。だが、俺ならできるという無茶振りの意味が分からないのだ。

どうしてそんな事を思いついたのか、それに思いついたとして、どうして他人の秘儀を易々と語ってしまうのかが不思議である。

「ミカ。お前、ワシらが研究室に行ったときに来る前から理解しとったろう。アレをもう一度やれば良い」
「即席インターフォンか? できなくはないが『誰』や『数』レベルだぞ?」
「良く分らんが特定の相手に反応するのか? なら考慮したいと思うがね」
 言われてみると以前に作った覚えがある。
ゴーレムに見張りをさせておいて、その反応を出来るだけ遠くに飛ばすだけだ。別荘でも作って置いた仕掛けになると、棒を縦横に回転させて、その向きで大体の情報を伝える暗号には成る。ただ、発信する側も読み取り側も重要になるので、それほど複雑な信号は送れない。それに騎士団が要求する様な距離だと、幾つもリレーする必要があるので、近い位置にあるゴーレムと誤作動を起こしたり、発見されたら盗まれる可能性があるのだ。

その事をオブラートに包んで話すと、クレメンス団長は難しい顔で考え始めた。おそらくは門外漢の、それも秘密に当たる情報であることは何となく察せるのだろう。出なければガブリールはともかく、俺が嫌そうな顔をするはずがないしな。

「ゴルビー男爵に尋ねるが、『大物が居た』と『対応外』くらいは可能かね?」
「俺が設定していたのは『親しい人』か『それ以外』と、『人数が多いか』どうか。ですので可能です。それ以上は複雑になり過ぎますし、複数の場所からの情報が混線すると思われます。専用の物を儲けるなら何とか対応できるかもしれませんが、その場合は発信者も受け取りも専門家が必要になるので現実的ではないでしょう」
 基本的にゴーレムは単純な命令でしか動かない。
登録した者を見たらAという反応を示すか、Bという反応を示すか、合わせ技のCなのか? これを判別するゴーレムを最初は複数で担当させ、徐々に数を減らして機能するかを確認したのだ。そこまで言ったうえで、人数に対応する者を用意して、同様に減らしていった。最初は相棒・友人・知人(門派中心)・それ以外だったのだが、最終的に親しい人かどうかだけになり、人数規模も多いかどうかだけで判断する様になった。

俺の話を聞きながら、クレメンス団長は羊皮紙に直接書き込んでいく。

「国境添いに見張り用を作り、よく見かけられる場所にも配置。そこから団の拠点に情報を送る……そうすれば今の人数でも問題なく守り切れるようになるだろう」
「出来ればこの町にも専用で一つ欲しいですな。騎士団宛で構いません」
「設置型なら相応の予算になりますね。早馬型なら安価ですが……」
「却下だ。町はともかく早馬は間違いなく破壊される」
 ゴーレム創造魔法で言うと、風の魔力に特化する感じかな。
あれは内部や外側に関わらず、管理された遠くの体に反応を送る能力だ。エネルギーとして魔力を集める機能でもあるので、今回の用途には合致している。動作は情報数でどういう反応を起こすかどうかに関わって来るので、それほど火の魔力は減らせない。地が低いと壊され易くなるので、これも零にはできないのが残念ではある。

配分する魔力は水≧風>>火≧地で、細かいレシピは実際に作って見ないと判らないな。

「では最初の段階では『一定数以上の魔物が来たか』どうかだけを初見で確認し、物見の塔か詰め所に居る者が緊急の巡検を行うのはどうでしょう? そこで団の拠点に送る情報を精査する。その上で先ほどの援軍が必要かどうかの情報を送る事が出来れば幸いですね。試してみないと判りませんが、複雑になるとコストが嵩むのと、混線し易くなりますので」
「初動での情報を絞るのか? 行けるだろうが確かに試してみんことにはな」
「町としては自警団では不可能な規模、騎士中隊では無理くらいですか」
「そんなところでしたら何とかなりますかね。でも、予算は覚悟してください」
 こういっては何だが、俺以外にゴーレムを作れないのが問題だった。
弟子たちは今のところ、ゴーレム創造魔法には興味が無い。覚えた呪文を元にマジックアイテムを作れるが、流石にゴーレムを作る装置なんか含意が多過ぎて無理だからな。修理だけ、エネルギー補充だけならいけそうではあるのだが、今の所その呪文を開発する必要があった。もちろんそんなものを研究するのは俺だけだ。

結局、領主である俺がいちいち関わって、相手の意見を調整しながら作成するという工程に無理があるんだよな。仮に材料を提供してもらったとしても、ある程度の値付けをしないと無茶振りが絶対に来るから安易に割引きが出来ないというのもある(素材の分だけ値下げは出来るが)。

「ともあれ詳細は今後に行っていきましょう。クレメンス団長にお聞きしたい。同じような仕掛けを南部のポーセス添いにも用意し、メリハリをつけた防御網も作ります。途中にある各地の領境を空堀りと柵で守れば、この国はなんとかなりますか?」
「王都から東では可能だろうな。西についてはヨセフ次第だよ」
 先ほどまで改良案を議論するだけだったが、一気に進んだ。
ブリールが余計な情報を漏らしたせいだが、秘儀と言える部分は話してないので咎め難い。精々が酒の席で愚痴を言うくらいだろうか? とおまれクレメンス団長の視点からも、太鼓判がもらえたのはありがたい。仮にヨセフ伯の影響力が及ぶ西部では出来なくとも、東部で実績を作れば一部の貴族や王領代官が協力を申し出てくれるだろう。

そうなれば徐々に平和になって行くし、少なくともこの国が亡びるかもしれない……なんて状況は脱出できるだろう。

「では冒険者ギルドの設立を行って、平和裏に人を送れるようにするしかないですね。陛下のお声掛かりなら、馬鹿みたいな税を掛けるとかも出来ないでしょうし、徐々に何とかするしかありません」
「おっ。漸くその話になったな。魔物の素材は扱わせてくれるんだろう?」
「そのつもりだ。魔物の素材に関しては学院でも日の目を見なかったと思うがな」
「それなんだがな。お前の新型が地の比重上げたら上手く行ったんだろ。あれで少し思い立ってな」
 俺が話をまとめると、資料を読んでいたガブリールが口を出して来た。
防衛会議の終了を宣言する前に興味のある話を始める辺り、こいつの性格は治りそうにない。俺は団長と代官殿に会釈して、簡単に閉会の宣言として、この馬鹿と詳しい話をする事にした。

いずれにせよ、伝声ならぬ伝達用ゴーレムを作って試す以外は、東部国境での案件は終了したのである。
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