魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第四章

『予期せぬ出会い』

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 王都への移動はケンタウルス型ゴーレムを使った。
可及的速やかにと言うことだったのと、やはりサイズとオートパイロットと言うのは大きい。乗り心地は最悪だったが、次があるなら馬車にサスペンション……はないのでその機能を持たせた馬車型ゴーレムを引かせても良いかもしれない。

何が言いたいかと言うと、非常に目立つという事だ。
一応は座らせて天幕を使ってマント風に誤魔化した外套を掛けておいたが、それで違和感を隠せるはずもない。道中に戦力を持ち込む上級の許可証は貰って居たし、改めてお披露目の話もしたくらいだ。

「フン……誰か居るようだな」
「おや。これは勇者軍で何もしなかった方ではありませんか。魔将を討伐出来る才能もなく、諸将の功績を奪った無能者ですなあ」
 応接の間からの帰りに人だかりが出来ていた。
そこに居たのは熊の様な大男と、取り巻きの貴族の様だ。熊の周囲に狐や鼠が居る姿は実に牧歌的だと言っても良いかもしれない。それが曲がりなりにも地方貴族の一つが作る派閥の領袖であり、その取り巻きと成れば溜息の一つも吐きたくなっても仕方があるまい。

とはいえ、これを無視したら『あいつは睨まれてスゴスゴと逃げた』と蔑まれるし、マウント合戦だけならともかく、色々な回状が回って来る時も後回しされかねないので反撃に出る。

「失礼ながら、そこに居られる尊き御方はゲオルギア地方にその人ありと言われたヨセフ公とお見受けする。ご挨拶したいので、お取次ぎ願えないだろうか? ああ、申し訳ない。寡聞にして貴兄の名前は衆目が言う所の二十四将だの八方将で聞いたことが無い。田舎者の非礼と許されたい」
「貴様っ!?」
 この男は勇者軍に居たことがある貴族だ。
元は騎士階級で功績を上げて新貴族に任じられている。おそらくは騎士隊長くらいの扱いで、順当にワンランク昇格したのだろう。とはいえいきなり領地を渡されて経営が上手く行きはずもなく、ヨセフ伯の派閥入りすることで、援助でも儲けたのかもしれない。少なくとも泣きつけば行商人が回ってくるくらいの事はするだろう。

ちなみに、二十四将や八方将というのはサーガで歌われる勇者たちの事である。たった一人で一軍に匹敵する勇者や剣聖、そして賢者や聖女と入ったメンツ。それとは別にレオニード伯や西方にある王国や帝国、あるいは東にある夏王朝の将軍たち。そこに肩身が狭いながらも俺を含めて八方の将。そこから十六名の隊長格や有名人を加えて、二十四将とか謡われているそうな。もちろん、目の前のこいつはカウントされてはいない。

「レオニードの腰巾着が何の様だ」
「閣下! このような相手に直答を許すなど……」
「俺が良いと言った。それに煩わしいのはすかん」
「これは御厚情をありがとうございます。直答の許可、ありがたく」
 熊公がジロリと睨むと鼠も狐も黙った。
穏健派を装う狸でも隠れて居ないかな……と思うのは失礼だろうか? まあこの状態で見渡すのは失礼なので、素直に答礼をしておく。実際、地方派閥の領袖と隅っこに居るその他大勢の男爵では格に大きな差があるからな。真面目に話をしても良いだろう。

とはいえ今の状態で話すことなど一つしかない。

「此度の大事にヨセフ公ほどの方が立ち上がられると聞いて安堵しております。平和になる兆しとして、諸人も安堵いたしましょう」
「そう思うならば何故、儂の所に来なかった? さすれば既に話は終わって居った」
「閣下……」
 貴族らしくなったところを見せてオブラートに包んで話してみた。
内容としては『お前、ちゃんと働くんだよな?』と伝えたわけだ。こいつの派閥が反対しなければ、さっさと国軍を動かして終りだからだ。これに対しての返答は『お前がうちの派閥に参加してたら、こんな話は最初からなかった筈だな? そこんところどうだ?』と実に答え難い返答が投げ返された。実に苦い返答である。

しかし、こいつんところのゲオルギア地方も下調べはしたんだよな。木材も石材もタップリというか、素材多目な入植地でしかない。とはいえそんな事をストレートに伝えたらそれこそ決闘だろう。

「過ぎた力は疑われるのが世の常です。ソレをやっては自分だけではなく、閣下が覇業を腹に含んでいると誤解されましょう」
「それは世が間違っているからだ。漢に逸物あるのは当然の事」
「閣下……」
 今度は別の意味で答え難い問題である。
資材が山ほどある地方に俺が行ったら、明らかに『そんなにゴーレム作りたいなんて謀反企んでるよね?』と疑われることが必至である。しかし、このおっさんは『謀反が成功するなら試して当然じゃね? むしろ男ならやるだろ』と開き直っているのだ。もちろんこのおっさんなりにオブラートに包んで、どうとでも言い訳できるようには言っている。だが、こういう面で派閥の領袖として威圧の掛け方は得意なのだろう。

しかし、間違いなくこのおっさんの所に行ってたら、大々的にゴーレムを生産して反乱起こすか、さもなければ暗殺が飛んで来るかの競争だよな。行かなくて良かった。

「それで、新しい玩具は使えるのか?」
「今までのゴーレムを過去の物にする程度には。勇者や剣聖なら気にもしませんでしょうけれど」
「なんだ。役に立たぬではないか!」
「……」
 話が唐突に変わったので戦闘面で答えておいた。
どうも兵器として気に成っているようで、せっかくの機会に聞いておこうというのだろう。その証拠に取り巻きが反応しても無視して何事かを計算している。真面目な話、レベリングの終わってるあの連中には何を出しても勝てねえんだよな。少なくともい、今の所は……だが。

ただ、賢者や聖女ならタイミング次第でヤれる。
何故かというと、これまでのゴーレムと比べて移動速度が段違いだからだ。走行速度を落とさずにスピード特化にレシピを組んでおけば、呪文詠唱が終わる前に攻撃態勢に入れるのだ。少なくとも相打ちには持ち込めるし、生産物でしかないゴーレムなら最悪ミサイルの代わりに無数に突っ込ませられるからな。勇者たちは防御力も堅いので、奇襲とかマジ無理ですが。

「……行くぞ」
「は、はい!」
 何というか言いたいことを言って一方的に去って行った。
どうやら新型ゴーレムの話を聞いて、ついでに俺がどうしてオッサンの派閥に参加しなかったのかを聞きに来たらしい。こう言っては何だがゴーレムが好き放題に作れる以外に魅力がないので行かなかったし、ああいう性格の盟主とは知らならかったが剛腕とは聞いていた。疑われる要素しかなかったので、最初からリストには入れてなかったんだけどな。

それはそれとして圧迫面接は無事に終わった。
溜息を吐き過ぎて幸せが逃げて行っても困るので、ゴーレムを止めている王宮外縁部の演習場に向かったのだが……そこにはまたもや人だかりが出来ていた。しかも二つのグループである。

「おお。ゴルビー男爵! オロシャは平和を取り戻せるのですよね?」
「英雄である貴方ならば出来る。そうだと言ってください!」
「西国との取引に際し、男爵の領地を経由させていただけませんか!?」
(新聞記者でもあるまいし、ほとんどは商人たち……かな? 大貴族の所で働いている使用人って可能性もあるだろうが……。あっちはシンプルに子供たちかな? 向こうは何となく憧れてるだけで済むだろうけど……こっちはこっちで面倒だな)
 圧迫面接を仕掛けて来るヨセフ伯の後だからか、面倒さが出てしまう。
本来であれば自分から商人の元へ押しかけていくつもりだったのだが、我ながら勝手な物である。やはり気力は有限と言うか、予定外の事で消費したらなかなか戻らない物なのだろう。後は単純に『それはこれからやる予定だよ!』ということを先に言われたら腹が立ったり、徒労感が強くなるようなものかもしれない。

ともあれ、現段階で断言できることはないし、さも自分の功績の様に言う事など許されているとは思えない。

「一男爵が政府の決定を伝えるなど出来ないよ。それが秩序という物だ。それに重要なのは平和にする事ではなく、皆の生活に平穏が戻る事だろう? 全てを焼き払えば直ぐにでも平和になるさ。しかし、それでは意味が無いからこそ、皆で頭を悩ませているんだ」
「おお! 魔物の駆逐など容易いと!」
「流石は大戦の英雄! 勇者軍の舵取りですな!」
 こう言っては何だが、人は見たい物を見るという。
俺は勝だけなら直ぐだが、追い出すだけ、倒すだけでは意味が無いとだけ言った。だが、彼らは平和など約束された物であり、それ以上の繁栄を享受するために政府が行動していると受け取ったようだ。いささか早とちり過ぎて怖いが、とはいえ否定する材料も無ければ、彼らがそれを信じるとも思えない。

暫くして『君にはスポークスマンの素質があるようだな。知らなかったよ』と嫌味を言われそうで怖い。

「それと軽々しく、いつもと違うコースを選ぶのはお勧めしないな。君には君が懇意にしている者も居るだろうし、こちらにも同様だ。もちろん双方の間を取り持つのは出来るけどね。ただ、そこまで努力するくらいならば……信頼出来る傭兵団でも見つけて、みんなで懇意にする方が良いと思うがね」
「それはそうですな。まあ平和になるなら無用ですか」
 既存の関係を無視したらいかんよと伝えたら承諾された。
慌てていただけで問題ないと判ったから落ち着いたのだろう。もちろん全部演技で、貴族が何らかの友好的な対策を持っているか確認しに来ただけの可能性もある。ただ、そういうことを考えられるような奴なら、既得権益を侵すようなことは言わないし、そもそも自分が使えるコネを使って話を聞き出しているだろう。保険として俺に声を掛けたなら迂闊過ぎである。

そんなやり取りをしていると、一人また一人と去って行く。中には諸外国から産物を手に入れて居たり、穀物の種を手に入れることが出来そうな者も居たので、いずれ合おうと伝えてひとまずのお別れである。

「よう、坊主ども。ゴーレムは好きか?」
「すきー!」
「そこまでじゃないけど、コレは好き」
「……」
 残っているのは子供たちだけだ。
俺が声を掛けると素直な奴に者に構えた奴、そしてずっとケンタウルスゴーレムを見つめたまま居る子が居た。同じ反応を返す子供にもそれぞれ個性があり、話を聞けば遠目に見て追い掛けて来た奴も居るし、王宮の近くに住むことを許されている貴族や騎士の子供も居る。みんな格好良い存在や強い存在に憧れているのだろう。

その中でも一風変わっているのは、じっとゴーレムを見つめたままのグループの一人だ。貴族の子供は同じ反応の奴でもこちらと話す方針に変えたのに、そいつだけはじっと見つめたままである。よほど好きなのか、さもなければ『他人に合わせる必要が無い』子かもしれない。

「どうした? そんなに気に入ったのか?」
「うん! 欲しい! ボク、これ欲しい!」
 俺の言葉にそいつはキラキラした目で答えた。
どんなゴーレムなのかを聞くとか、触らせてくれとかを通り越していきなりの要求である。純真な思いで言ったのか、それとも実は王子様か判らないので、俺はオブラートに包んで無理だと伝えることにする。

だってゴーレムはさ、戦略兵器なんよ。しょうがないんよ。
着ている服も汚れているが貴族の物だし、遊び回ってるだけなら親のコネで発注する事も出来るかもしれない。もし王子様なら順番待ちの結果で可能だろう。それでも、それは王様の決定の後に成る。

「無理だな。俺の領地を守る為の物だし、陛下に献上するとしたらもっと凄くなってからだ。あとは俺のところの騎士でも目指すか、そうだな。嫁に来るかもしれないユ-リ姫にでも許可を得てくれ」
「ホント! じゃあ問題ないよね! やったー!」
「は? 話を聞いていたのか?」
「うん! だってボクがユーリだもん!」
 その答えに俺は驚くの越えて呆然とした。
まさかヤンチャなガキだと思った奴が婚約者候補のユーリ姫だとは思わんよ。そりゃ妾の子供で、俺に嫁ぐ時に便宜的に姫扱いされるような子なので、ロクな扱いを受けてないとは思ったが……金髪碧眼とはいえ刈り上げた後ろ髪。そしてやや汚れて動き易いスタイル。この外見、殆ど男の子じゃん。

これが俺とユーリ姫との最初の出逢いだった。
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