魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第四章

『完成と無双可能な強さには大きな壁がある』

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 新型ゴーレムの組み上げ自体は滞りなく終わった。
所詮は竹細工に皮を張り付けただけの代物だし、問題があればバラして組み直すくらいの予定でいるからだ。ただし、想定した動きをしない不具合や、思ったよりも性能が低いといった予測通りの事は当たり前のように起きる。

ここで俺は色々と領内を検分してるマーゴットを呼んで、ちょっとしたお願いを聞いてもらうことにした。

「義姉上。失礼いたします」
「ようこそ、マーゴット様」
 別荘はセシリアの縄張りなのでマーゴットが招かれる立場だ。
形式とはいえ妻同士の所産がある場合、こうした配慮は必要であるそうだ。他にも基本的に平等に扱うが、上下の区別をつける場合はその区分を越えてはいけないらしい。一応はマーゴットの方が上扱いなのに屋敷を与えられてはいないが、ゲルのような移動家屋を持っている上、オアシスを2つ分与えられるという換算なので問題ないらしい(ユーリ姫は空中庭園とか領地全般)。

マーゴットは部屋の中にある涼しくなる仕掛けに驚きつつも、一定以上の環境変化は加護が弾くそうなのであまり羨ましがっては居ないようだ。

「それで何をすれば良いのか? 誰でも出来る事ではあるまい」
「そう身構えられると困るな。秘密を守れる相手で、なおかつ馬術の名手を求めただけで、その結果が偶然マーゴットだっただけだからな」
 その時の表情は実に見ものだった。
自分でなくても良かったのか……という微量のガッカリ感と、段なの秘密を守れるのは当然ながら、馬術の名手と言う遊牧民らしさをくすぐる言葉が入って居たからだろう。やや優越感がまさりながらも、顔を赤くして目線が逃げる辺りが実に可愛らしい。なんというか、こういう所を見るとお姫様やお嬢様っぽい世間慣れしてない部分と、遊牧民としての教示が透けて見える。お転婆なお嬢さんとか女騎士みたいな扱いだけではなく、独自のプライドを満足させていけばよいのかな?

まあ、そういうのはジックリ堪能するとして、今はゴーレムの方を先に片付けてしまうとしよう。

「まずは確認だ。ケンタウルスの動きを観察したいがそんなのは不可能だ。だからこの装飾を付けて真似してもらう訳だが、それが失礼になるなら先に言ってくれ。諦めて他の奴を探して来る」
「問題ない。味方になった部族の伝承がある」
 問題だったのは四つ足ゴーレムがまともに動かなかったことだ。
自分でもう間を操ったり、他の者の動きを参考にしたが駄目だった。じゃあ馬と人間の動きを別々にしてみたが、これはこれで上手く行かない。つまり、俺にとって自分やその辺の騎手程度の動きはケンタウルス並ではないと認識しているのだ。当然ながら別々に組み合わせると、やはりタイミングなどが別々の組み合わせなので上手く行くはずが無かった。

そこで羽飾りの様な装束と、馬の方にも鬣を増やすような飾りをつけることで外見の一体感を装い、地球でケンタウルウスと誤解された遊牧民の巧みな馬術を参考にするわけだな。こちらは知識もあって、遊牧民なら問題ないという認識フィルターを期待している(これで駄目なら幻覚呪文で何とか編集する)。

「いいね、実に良い。まずは手綱を出来るだけ使わずに軽く動いて欲しい。無理は要らないから、本当に余裕で出来る範囲で構わない」
「何を言ってるんだ? このくらいなら出来て当然だろう」
 傍目に見てサムライの陣羽織を着たような姿。
それでいて片手は投げることも可能な短槍を持ち、もう片方の手で馬の鬣を撫でている。手綱など使わない見事な動きで、これを農民上がりの兵士にやらせようとか無理なのは初見で判った。流石に走りなどはしないが、軽く歩いたり、その場でターンしたり、一番すごいのは足をまげて座ったり立ち上がる動作を手放しで出来た事だった。

その姿に褒め言葉から入ると、マーゴットも恥ずかしさが隠せないでいる。

「初見でこれとは驚きだな。これなら行けるか?」
「多分なんとかなるんじゃないですか? 絵としては随分自然な形で描けましたけど」
 その間、俺とセシリアでスケッチとしている。
簡単なラフ画を板へと炭で描き、ところどころ怪しい部分は炭で塗り潰す形で絵づらを整えた。初歩の幻覚だが俺も覚えており、プロジェクター代わりに勇者軍の全員に説明するために使った事があった。この形を経由して何度も眺めれば、ケンタウルスの動きを想像することは可能だろう。

果たしてその結果は、一応の成功を見せるのだ。

「凄い凄い。本当にケンタウルスに見えます!」
「怪しい所があるけど及第点だと思う。悩む事は無いと思うが?」
「いや、まあ。想定通りの動きではあるんだ。問題は……重装甲を付けた時のイメージのまんまだな。この重量ならもっと軽快じゃないとならん。早くもパワー不足かな」
 早速呪文を掛け直したが、イメージ通りの動きは出来たと思う。
パカパカと走ったり、獲物を抱えて飛び込んだりもちゃんと出来た。だが、色々と足りないものがある。一つ目は力強さ、二つ目は移動におけるスピード感。最後に、その二つに目を瞑った場合の継戦能力だ。足を止めてパワフルに戦うというほその威力が出せず、爽快感溢れる速度で移動出来ておらず、ではとりあえず戦い続けられれば良いのかと言うと、タフネスでも何でもないので殴り合うと何処かで打ち負けてしまうのだ。

その辺りを証明するために、作業用のウッドゴーレムに盾を持たせ、試験機にはハルバードとランスを切り替えて戦わせてみることにした。

「判り易くするのに武器を持たせてみるぞ。まずはハルバード、次にランスを試してみる。ようく見ててくれ」
「ふむ。こんな物ではないのか? 雄々しく感じるが?」
「いえ。盾を見てください。動きの割りに傷付いてません」
 新型ゴーレムが斧槍を振るうが微妙な攻撃だった。
重厚感あふれる動きで一閃するが、盾を割るどころか、大きく傷つけても居ないしウッドゴーレムの方も消耗した感じはない。つまり高腕の完成度が上がり、高さを持って攻撃したから凄そうに見えるだけ、要するにパワーが足りてないのだ。

では速度が良いかと言うとそうでもない。

「今度はランスだが、こっちもだいたい同じの筈だ」
「……? 素人目には良い感じに見えますけれど」
「……これなら私にも判るよ。こんな速度で喰らうはずがないし、もう一人居るなら挟み撃ちに出来るな。言われてみれば見た目ほど強くもない……のかな?」
 ドスドスっと動いてランスを突くが威力がない。
ランスは走りながら位置調整できる利点はあるが、相手に速度があったらどうしようもない。作業用のウッドゴーレムや重いストーンゴーレムならまだしも、それ以上の相手になったらまともに戦うのはかなり難しいだろう。何が問題かと言ってゴーレムがスピード特化の特攻機を簡単に用意できる上に、優秀な加護を持つ戦士はもっと強いのだ。まず現状では勝てないだろう。

現状では普通のゴーレムより速いが、あまり戦闘力は変わらない。高さが上であることや関節の分だけ強いという程度だろうか? ハッキリ言って手間暇をかけたほどに強くないのだ。

「ただ判った事がある。動きに関してはまったく問題が無い。後は残りの問題をどうするかだ。マーゴットのお陰で助かったよ」
「そうですね。不格好な動きでしたもの」
「それは良か……待って! まさかこのまま帰れとは言わないよな!?」
 考えを切り分ける為、一区切りしようとした。
マーゴットの役目は無事終了、後で御褒美を考えるだけ……と言う段で終わるのを断固拒否される。まあ、自分が関わって、かつ興味があるとなったら中途半端はかえって徒労感が増すよな。俺は溜息を吐いてマーゴットの同席も許可する。ここまで来たら秘密も何も無いもんだ。どうせ遊牧民相手には使わないし問題ないだろう。

とりあえず動きに関してはクリア。
ここからはいかに性能を向上させるかの問題だけだな。まあ平和だから問題ないと言えば急ぐこともないんだが……。

「判った判った。仲間外れにはしないって。ともあれ後は一つずつ考察して、検証しては糺していくトライ&エラーなんだ。その後で改めて、『根本的に間違いじゃないか?』を探るから苦痛なだけだぞ」
「わ、私はこういう事は初めてなので問題ないです」
「っ! 義姉上には負けないからな!!」
 一応確認してみるが駄目だった。
セシリアは興味津々で嫌がるとしても次回以降だろう。そのセシリアにマーゴットは対抗意識を燃やしており、女の寵愛争いにしては平和だと言えるかもしれない。だからといって、それが研究の足しになるわけでもないのだが。

俺は溜息を改めて吐き、銀貨を十枚ほどに両替用の銅貨を幾らか用意する。そして最後に四つの円を描いた。

「地水火風の四大魔力があって、今はどちらかというと平均的に俺の魔力を割り振ってる。それぞれに意味があって重要なんだが、あえてこのバランスを崩して力強いだけにしたのが、あの作業ゴーレムだ。同じ配分にしたら、おそらく四つ足だから速い程度になるだろう」
「これは試す価値はないよな?」
「考えが正しいか確かめるくらいですね」
 バランスを崩して能力値を変更する。
十枚の銀貨はその配分を簡略的に示し、銅貨は詳細を割り振れる土の魔力を細分化する時用である。基本的にはこの十枚を割り振って行くわけだが、「1 + 2 + 3 + 4=10」または「2 + 2 + 3 + 3=10」として、最初に水を3にした。これは単純に水の魔力でゴーレム化するというルールからである。

残念なことに、存在の為の魔力と抵抗力を上げるための魔力が同じ部分にある。これが細分化出来ていない為、存在させるための呪文が他を弾いてしまうのだ。越えるとしても最後に一回だけ、ドーンと盛る事に成ってしまう。でないとゴーレムとして動かなくなるからな一度ゴーレム化の呪文が上書きされてしまうので)。

「この銀貨十枚が俺の魔力で、割り振り方を変えるだけなら何パターンかあるが、水の魔力は二番目に高く成る必要がある。だから試す例は少ない。幸か不幸か分からないけどな」
「悩ましいですねぇ」
「ふむ……」
 結局のところ、タフネスか継続性を上げるしかない。
代わりにどちらかが最低値になるか、パワーを『割りと高い』レベルに下げるしかなかった。とはいえ風の魔力がエネルギー収集と命令距離を兼ね、地の魔力が保存性や質を兼ねているのでどちらも最低値にしにくいところだ。あえていうならば下げるとしたら風だろう。

おそらくはその事に気が付いた者がもう一人居る。

「いっそ僅かな間だけ、脆くても良いから動くようにしたらどうだ?」
「試すだけならそれが楽だね。暇を見つけて逆を試しても良いけど」
「ああ、なるほど。動きを見るだけなら戦闘をする必要もないし、直ぐに止まっても良いという事ですね」
 マーゴットはあまり不満が無いので、さっさと実験を見たいのだろう。
俺やセイシリアの様に考察して動けなくなるようなことが無い。他人行儀と言えばそれまでだが、アイデアにこれといった決定打が無いのも大きかった。一応搭載している尻尾のオートガードも停止して、一つずつ試すのも良いかもしれない。

重要なのはストーンゴーレムに殴り勝ち、速度重視のウッドゴーレムにスピードで負けなければ良いのだ。そのためには間合いを制する程度のスピードが出せるかどうかが重要であり、テストで打撃練習などする必要もないし、延々と走らせる必要もないのだから。

「いちおう軽量級なら何とかなったな」
「増やすなら役に立つと思いますが……無理ですよね?」
「まあ良いではないか。私は面白い物が見れて満足した!」
 この後で色々試したので、結果だけを報告しておこう。
最終的に、俺が傍で命令するか、タフネスでも何でもない状態ならそこそこに動けるようにはなった。ただ、俺が傍に居るならば瞬間強化やらエネルギー補充を術者本人がやれば済む話だ。ならば軽量級の特攻機になるわけだが、現時点で作成者が領主である俺だけなことを考えると微妙な塩梅である。

まあ、今はマーゴットが言う夜にひとまずの完成を祝っておこう。夢のケンタウルス型ゴーレムに辿り着いたのだから。
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