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第四章
『ゴーレムのロマンビルド』
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こちらの世界に渡るに対し、全ての経験をゴーレムに振り分けた。
そこに関する後悔だのなんだのはもはやどうでも良い。魔王は無事に倒したし、その過程で十分以上に活躍してくれたからだ。俺の生活が現在進行形で良くなっているのもゴーレムのお陰だし、これ以上とやかくいう事は無いよな。
だから重要なのは、現在のリソースとアイデアを全て費やし、どれだけ満足できるゴーレムが作れるかである。
『機能美は追及し尽くした』
『だから、これからの目標は、強さと新機能とロマンである』
『やりたいことを全部やる為、段階的に実装して行く』
俺は砂を箱に詰めた物に下書きをして、羊皮紙に清書した。
メモ帖なんて贅沢な物は上級貴族でもないと持っていない。成長の早い竹を砕いて紙にする事も出来るが、現状では竹炭が最優先なのでどうしようもない。ついでに言うと、メモだけなら砂に字を書くだけでも十分だからな。
その上で、部屋の隅で回転する風車ゴーレムを見つめた。
芯棒を軸に、そこで延々と回転するだけのゴーレムだ。要するに扇風機を再現したわけだが、回転するだけで事を為してくれる機能性の塊である。水車も組み合わせたら動くことが分かったのでゴーレムである必要もないが、まあそれを言い出したら密室で延々と作業する水車の方を例に出すだけである。
『まずは人間には無い機能や、人間には存在しない多重関節の概念』
『蛇腹剣に使った手法の応用で、前者は自動防御壁として実装』
『後者は竹細工により実験中。四肢以外の関節を増やすことで、高速化とエネルギーの省力化を実現する』
ゴーレムは別に人間以外の形をしていても良い。
それでも人間の形をしているのは、単純に『どう動くのか?』を丸っとコピーした方が早いからである。『人間と同じ動きをする』という概念一つプログラムするだけで、基本的に動いてくれるのだからやらない理由がない。水車や風車みたいな単純機構ならともかく、複雑な動きをさせる為には人間を真似た方が良いからだ。その上で、人間の形を踏襲しつつ、自動防御機構の導入を目指した。具体的に言うと、尻尾の形をした剣盾を作って置いて背中を守るって感じだな。
そして四肢以外の関節導入を行うに際し、ついでに多重関節も実験して置く。両方とも試験して置いて、無駄ならば次からは省けば良い。まずは試していないと実験すらできないからな。おそらくはパワー不足で弱いゴーレムになると思われるが、関節による省力化で少しはましになると思いたい。
『ロマン兵装の一つ、伸び縮みする貫手。小型のパイルバンカー』
『独特のH状関節により、その長さを調整。二か所ほど用意する』
『手首と肘に導入し、合計で1mほどの距離を刺突。H状なら伸びるだけではなく曲がるので、命中精度もやや向上した』
俺は竹で組まれた実験用の骨組みを見つめた。
そして腕の予備パーツに向けて呪文を唱えると、径のサイズが違う竹を二つ使った円筒状関節が伸びて回転する手首を稼働させる。その円筒の両端は横に組んだ竹を入れているので、ちゃんと組み直したら手首や腕を左右に振る事が出来る筈だ。
現時点で予備の腕なのは……単純に竹が縦の衝撃を受けると割れ易いのを忘れていた為だ。作業用ゴーレムの攻撃を防がせても割れないしなやかさを見せたのに、自分から貫手を使うと手首が割れてしまった。保存性を上げて居なかったこともあるが、質を向上させる能力でも、竹が本来不得意な事は向上し難いのである(横はむしろ強化できる)。
『足について砂のサンドスキーや雪のカンジキ以上に思いつかず』
『頭に関しても思いつかない為、後日にアイデアを思いつけば導入を目指す』
『現状の下半身は、尻尾をオートバランサーに使って三本目の足とするか、エネルギーロスを考慮してまったく導入しないかを分けて検討する。まずは試験用に盛り込んでいく』
基本的に足や頭に機能を付けようがなかった。
ゴーレムは魔法知覚なので別に頭が回転する必要はない。武器を仕込む為のターレット構造にすることもできるが、そんな事をするくらいならば蛇腹剣である尻尾にエネルギーを回すべきだろう。足に多重関節を仕込む意味も見えないので、あえていうなら膝にH状関節にしておいて、それで足が速くなるかを試すくらいだった。
そう思っていたのだが、書いていた文章を一から見直して訂正した。
『上記の文章を訂正。逡巡に意味があるので文字は削らない』
『下半身を大型化させて、四つ足のケンタウルス型を目指す』
『四つ足による移動速度の上昇、高さを増すことで武術で重要な『上』を制する事も可能。胴体が長くなるため、後ろを守る尻尾の重要性が増す。四つ足なのでオートバランサーも不要。重要なのはエネルギーが保つかどうか?』
閃いたのはロボットのロマンの一つであるケンタウルス型である。
ロボットで三大ロマン形態と言えば、ケンタウルス型の様な四つ足、魔法の力で空飛ぶタイプ、そして変形合体であると言っても過言ではないだろう。もちろん下半身をチャリオット型にする手もあるのだが、それはロマンではない。やるなら別々のゴーレムにして、合体変形の一環とするべきだろう。
四つ足の重量級ゴーレムとするなら色々出来ることがある。
例えば蛇腹剣をオートバランサーにしようと思ったのは、装甲を付けたり盾を持たせるとトップヘビーに成る対策だった。これが途端に下半身の方が重くなるので、分厚い装甲を付けても問題なくなるのだ。ゴーレムはいまいち遅いので戦線を連れまわさないという欠点も埋められるだろう。新機能に関して尻尾と貫手だけに絞れば、四つ足の利点を試すだけなら十分に行けるはずだった。
「なら後は装甲をどうするか、か……金属製のゴーレムに成るぞ」
思わずペンを止めて口に出してしまった。
四つ足にすることで諸問題が解決するのだ。仮に高速機動だけで、長距離移動はさせない防御用ならば重装甲でも問題ないだろう。その上で、装甲を何にするかは別の問題が出て来るのだ。現在は竹のフレームにしているし、試験機までは魔物の肉とか羊の皮を装甲にして誤魔化すだろう。だが実際に戦うとなれば装甲の材質が問題になって来る。
ゴーレムの素材比重が変れば、ソレは金属ゴーレムと呼ぶに相応しいモノに成るのだから。そこには重要なポイントがあった。
「何か問題なんですか? 三大ゴーレムは全部金属ですよね? 前にも聞いたような気がしますけど」
「ああ、居たのか。すまん気が付くのが遅れた……没頭するのはいかんな」
そこで割り込んで来たのはセシリアの声だ。
酒とチーズと少量の塩を更に載せている。おそらくは差し入れついでに適当な話でもしようというのだろう。候補どまりだった時はそういうところまで気に掛けなかったが、正式な弟子であり妾に成ってからは、こういうタイミングで話し相手になってくれる。俺の為とも言えるし、彼女の知識の為でもある。師と女の弟子の間で良くある光景だ。
それはそれとして、考えに夢中になるのはいかんと言えるし、同時に趣味の話ができる時間は楽しいよな。
「金属ゴーレムには明確な長所と短所があるんだ」
「素材をどう集めるかとか、そもそも重くなり過ぎるとかな」
「それで『普通』に作ったんじゃあ、思う程に強くはならない」
「なら巨大な石を切り出した方が倒し難いゴーレムになる。岩と木は総じて素材を集め易く、修理も用意だしな。基本的にゴーレムは魔力の総量によるマジックアイテムだから、金属にする『だけ』では別に強くならない」
俺は酒を受け取りながら、塩を舐めてチビチビと吞んだ。
何処かの軍神様を思い出させる飲み方だが、ここは暑い地方なので塩分の補給みたいなものだ。セシリアの方はお湯を温めた白湯にチーズという組み合わせで話を聞いている。未成年が酒禁止なんて法はないし彼女はこちらの世界では成人に達している。それなのに酒を吞まないのは話を冷静に聞きたいからだろう。
さて、金属と岩・木であまり変わらないって話だったよな。
「単純に作っても差はない。それだと重さで戦う事に成る。重さは強さってのは武術の基本だが、それだってさっき行ったように巨大な石で良い。ここで重要なのは、ゴーレム創造魔法における呪文の性質だな。その中の一つに、材料の『質』を高めるというのがあるんだ」
「確か……地の魔力でしたっけ」
地水火風の四大魔力はそれぞれ本質と小さな概念を持つ。
例えば水の魔力はゴーレムの成立を本質とし、抵抗力や格であったり受動的な動きを示している。火だったら運動性であり能動的な動き全般であり、威力や速度を始めとして瞬間的に強化するのもそうだ。さて、長くなったが地の説明に移ろうか。地はゴーレムの本体を構成すモノで、保存性や堅さなどでタフネスさを示している。
積み重なる材料と言うイメージだが、この中に質の向上も存在していた。
ゴーレムが堅くなるのは質が高まる一環であり、大きさだけではなくボディにみっちりと魔力やら材料が詰まった存在に成るわけだな。
「そうだ。地の魔力が示す中に質の向上がある」
「だから四大全てを増やしても堅くなったし、土だけを特化しても同様だった」
「だが、材料を変えることで『質の向上』が示す存在が判明する様になって来た」
「そして質だけを高める呪文も研究テーマに成ったわけだな。呪文の詳細化は他の詳細化にも繋がり保存性特化とかも研究され始めたんだが、今は『質を高めると、鉄なら堅くなる』とだけ覚えておけば良い。これは鉄自身が持つ素材の性質と、誰もが抱く鉄へのイメージが重なるからだ」
1つの性質を抜き出した特化呪文を見つけると、他も連鎖する。
一番影響を与える水や火で見つからないあたり皮肉を感じるが、この質を高めるというのは思わぬ余禄を生み出し始めた。素材を強化して、その特性そのものを強化できることが判明したのだ。今までは土の魔力だけレシピを増やしても、タフになるだけだった。保存性も堅さも質も同時並行で上がるし中には瞬間強化用(硬化)の魔力すら含まれているのだから、大して強くならなくても仕方がない。
話が横道にずれて来たが続きと行こう。
「それで鉄の素材とイメージに特化したのが『無敵』のアダマンティンなんですね」
「俺がフォローしないと剣聖にぶった切られるレベルだったけどな」
ここで重要なのは、素材ごとに性質とイメージが異なる事だ。
一番最初に製造され、最も長持ちしたのはタフネスさゆえであり、呪文の改良によって強固さが増していたからだ。元の強度が高く成り、俺が瞬間強化と修理目的に地の呪文を使う事でアダマンティンは無敵と呼ばれる堅牢さを示した。白兵戦タイプの魔将の攻撃を喰らっても揺るがず、剣聖の訓練相手を務め、最後まで最前線で戦い続けたゴーレムになる。
まあ、それだけ素材の代金も掛かるし、無茶苦茶重くてバランス取りが難しいのが三大ゴーレムではある。
「ミスリリュウムは銀を元に速さと魔法抵抗に特化した個体。アカガネは銅を元にエネルギー収集と保存に特化した『賢者の杖』代わり。そんな風に材料次第で能力もバランスも変わるんだ。研究するにも現物がないと難しいし、単純に金属ゴーレムを作れるだけの予算もないってのが問題と言えば問題か」
「銀は当然ですけど……今ご時世ですと鉄も銅も高額ですしね」
そう、最も重要なのが今は復興期で材料も高騰している。
銅は銅貨のみならず、様々な生活用の金属に使われている。鉄は武器であり、開拓地に使われる農具にも重要だ。もし船やら建物が巨大化して行けば、もっと金属の需要は高まるだろう。貴金属に至っては言うまでもなく、黄金のゴーレムなど実験すらできなかった。
とはいえ、まったくアテがないわけでもないが。
「もしやるとしたら、今やってる研究が終わって王都のアダマンティンをバージョンUPするとしたら……だな。そこまでする必要があるかはしらんが、古いゴーレムを新しく作り直すってんなら許可が出るかもしれん。まあ、今は竹と羊の皮でちょっとした実験が精々なんだが」
「そういえば木や皮の質を高めたらどうなるんです?」
「やった事は無いが霊木や魔獣素材として、成長するんだろうよ」
こうして俺は研究テーマをまとめることにした。
まずは四つ足のケンタウルス型を作り、片方の腕には貫手を装備することまでは決めている。尻尾は蛇腹剣状にするかまでは決めていないが、ハルバードかランスでも主兵装にすれば格好良いかもしれない。
こちらの世界に渡るに対し、全ての経験をゴーレムに振り分けた。
そこに関する後悔だのなんだのはもはやどうでも良い。魔王は無事に倒したし、その過程で十分以上に活躍してくれたからだ。俺の生活が現在進行形で良くなっているのもゴーレムのお陰だし、これ以上とやかくいう事は無いよな。
だから重要なのは、現在のリソースとアイデアを全て費やし、どれだけ満足できるゴーレムが作れるかである。
『機能美は追及し尽くした』
『だから、これからの目標は、強さと新機能とロマンである』
『やりたいことを全部やる為、段階的に実装して行く』
俺は砂を箱に詰めた物に下書きをして、羊皮紙に清書した。
メモ帖なんて贅沢な物は上級貴族でもないと持っていない。成長の早い竹を砕いて紙にする事も出来るが、現状では竹炭が最優先なのでどうしようもない。ついでに言うと、メモだけなら砂に字を書くだけでも十分だからな。
その上で、部屋の隅で回転する風車ゴーレムを見つめた。
芯棒を軸に、そこで延々と回転するだけのゴーレムだ。要するに扇風機を再現したわけだが、回転するだけで事を為してくれる機能性の塊である。水車も組み合わせたら動くことが分かったのでゴーレムである必要もないが、まあそれを言い出したら密室で延々と作業する水車の方を例に出すだけである。
『まずは人間には無い機能や、人間には存在しない多重関節の概念』
『蛇腹剣に使った手法の応用で、前者は自動防御壁として実装』
『後者は竹細工により実験中。四肢以外の関節を増やすことで、高速化とエネルギーの省力化を実現する』
ゴーレムは別に人間以外の形をしていても良い。
それでも人間の形をしているのは、単純に『どう動くのか?』を丸っとコピーした方が早いからである。『人間と同じ動きをする』という概念一つプログラムするだけで、基本的に動いてくれるのだからやらない理由がない。水車や風車みたいな単純機構ならともかく、複雑な動きをさせる為には人間を真似た方が良いからだ。その上で、人間の形を踏襲しつつ、自動防御機構の導入を目指した。具体的に言うと、尻尾の形をした剣盾を作って置いて背中を守るって感じだな。
そして四肢以外の関節導入を行うに際し、ついでに多重関節も実験して置く。両方とも試験して置いて、無駄ならば次からは省けば良い。まずは試していないと実験すらできないからな。おそらくはパワー不足で弱いゴーレムになると思われるが、関節による省力化で少しはましになると思いたい。
『ロマン兵装の一つ、伸び縮みする貫手。小型のパイルバンカー』
『独特のH状関節により、その長さを調整。二か所ほど用意する』
『手首と肘に導入し、合計で1mほどの距離を刺突。H状なら伸びるだけではなく曲がるので、命中精度もやや向上した』
俺は竹で組まれた実験用の骨組みを見つめた。
そして腕の予備パーツに向けて呪文を唱えると、径のサイズが違う竹を二つ使った円筒状関節が伸びて回転する手首を稼働させる。その円筒の両端は横に組んだ竹を入れているので、ちゃんと組み直したら手首や腕を左右に振る事が出来る筈だ。
現時点で予備の腕なのは……単純に竹が縦の衝撃を受けると割れ易いのを忘れていた為だ。作業用ゴーレムの攻撃を防がせても割れないしなやかさを見せたのに、自分から貫手を使うと手首が割れてしまった。保存性を上げて居なかったこともあるが、質を向上させる能力でも、竹が本来不得意な事は向上し難いのである(横はむしろ強化できる)。
『足について砂のサンドスキーや雪のカンジキ以上に思いつかず』
『頭に関しても思いつかない為、後日にアイデアを思いつけば導入を目指す』
『現状の下半身は、尻尾をオートバランサーに使って三本目の足とするか、エネルギーロスを考慮してまったく導入しないかを分けて検討する。まずは試験用に盛り込んでいく』
基本的に足や頭に機能を付けようがなかった。
ゴーレムは魔法知覚なので別に頭が回転する必要はない。武器を仕込む為のターレット構造にすることもできるが、そんな事をするくらいならば蛇腹剣である尻尾にエネルギーを回すべきだろう。足に多重関節を仕込む意味も見えないので、あえていうなら膝にH状関節にしておいて、それで足が速くなるかを試すくらいだった。
そう思っていたのだが、書いていた文章を一から見直して訂正した。
『上記の文章を訂正。逡巡に意味があるので文字は削らない』
『下半身を大型化させて、四つ足のケンタウルス型を目指す』
『四つ足による移動速度の上昇、高さを増すことで武術で重要な『上』を制する事も可能。胴体が長くなるため、後ろを守る尻尾の重要性が増す。四つ足なのでオートバランサーも不要。重要なのはエネルギーが保つかどうか?』
閃いたのはロボットのロマンの一つであるケンタウルス型である。
ロボットで三大ロマン形態と言えば、ケンタウルス型の様な四つ足、魔法の力で空飛ぶタイプ、そして変形合体であると言っても過言ではないだろう。もちろん下半身をチャリオット型にする手もあるのだが、それはロマンではない。やるなら別々のゴーレムにして、合体変形の一環とするべきだろう。
四つ足の重量級ゴーレムとするなら色々出来ることがある。
例えば蛇腹剣をオートバランサーにしようと思ったのは、装甲を付けたり盾を持たせるとトップヘビーに成る対策だった。これが途端に下半身の方が重くなるので、分厚い装甲を付けても問題なくなるのだ。ゴーレムはいまいち遅いので戦線を連れまわさないという欠点も埋められるだろう。新機能に関して尻尾と貫手だけに絞れば、四つ足の利点を試すだけなら十分に行けるはずだった。
「なら後は装甲をどうするか、か……金属製のゴーレムに成るぞ」
思わずペンを止めて口に出してしまった。
四つ足にすることで諸問題が解決するのだ。仮に高速機動だけで、長距離移動はさせない防御用ならば重装甲でも問題ないだろう。その上で、装甲を何にするかは別の問題が出て来るのだ。現在は竹のフレームにしているし、試験機までは魔物の肉とか羊の皮を装甲にして誤魔化すだろう。だが実際に戦うとなれば装甲の材質が問題になって来る。
ゴーレムの素材比重が変れば、ソレは金属ゴーレムと呼ぶに相応しいモノに成るのだから。そこには重要なポイントがあった。
「何か問題なんですか? 三大ゴーレムは全部金属ですよね? 前にも聞いたような気がしますけど」
「ああ、居たのか。すまん気が付くのが遅れた……没頭するのはいかんな」
そこで割り込んで来たのはセシリアの声だ。
酒とチーズと少量の塩を更に載せている。おそらくは差し入れついでに適当な話でもしようというのだろう。候補どまりだった時はそういうところまで気に掛けなかったが、正式な弟子であり妾に成ってからは、こういうタイミングで話し相手になってくれる。俺の為とも言えるし、彼女の知識の為でもある。師と女の弟子の間で良くある光景だ。
それはそれとして、考えに夢中になるのはいかんと言えるし、同時に趣味の話ができる時間は楽しいよな。
「金属ゴーレムには明確な長所と短所があるんだ」
「素材をどう集めるかとか、そもそも重くなり過ぎるとかな」
「それで『普通』に作ったんじゃあ、思う程に強くはならない」
「なら巨大な石を切り出した方が倒し難いゴーレムになる。岩と木は総じて素材を集め易く、修理も用意だしな。基本的にゴーレムは魔力の総量によるマジックアイテムだから、金属にする『だけ』では別に強くならない」
俺は酒を受け取りながら、塩を舐めてチビチビと吞んだ。
何処かの軍神様を思い出させる飲み方だが、ここは暑い地方なので塩分の補給みたいなものだ。セシリアの方はお湯を温めた白湯にチーズという組み合わせで話を聞いている。未成年が酒禁止なんて法はないし彼女はこちらの世界では成人に達している。それなのに酒を吞まないのは話を冷静に聞きたいからだろう。
さて、金属と岩・木であまり変わらないって話だったよな。
「単純に作っても差はない。それだと重さで戦う事に成る。重さは強さってのは武術の基本だが、それだってさっき行ったように巨大な石で良い。ここで重要なのは、ゴーレム創造魔法における呪文の性質だな。その中の一つに、材料の『質』を高めるというのがあるんだ」
「確か……地の魔力でしたっけ」
地水火風の四大魔力はそれぞれ本質と小さな概念を持つ。
例えば水の魔力はゴーレムの成立を本質とし、抵抗力や格であったり受動的な動きを示している。火だったら運動性であり能動的な動き全般であり、威力や速度を始めとして瞬間的に強化するのもそうだ。さて、長くなったが地の説明に移ろうか。地はゴーレムの本体を構成すモノで、保存性や堅さなどでタフネスさを示している。
積み重なる材料と言うイメージだが、この中に質の向上も存在していた。
ゴーレムが堅くなるのは質が高まる一環であり、大きさだけではなくボディにみっちりと魔力やら材料が詰まった存在に成るわけだな。
「そうだ。地の魔力が示す中に質の向上がある」
「だから四大全てを増やしても堅くなったし、土だけを特化しても同様だった」
「だが、材料を変えることで『質の向上』が示す存在が判明する様になって来た」
「そして質だけを高める呪文も研究テーマに成ったわけだな。呪文の詳細化は他の詳細化にも繋がり保存性特化とかも研究され始めたんだが、今は『質を高めると、鉄なら堅くなる』とだけ覚えておけば良い。これは鉄自身が持つ素材の性質と、誰もが抱く鉄へのイメージが重なるからだ」
1つの性質を抜き出した特化呪文を見つけると、他も連鎖する。
一番影響を与える水や火で見つからないあたり皮肉を感じるが、この質を高めるというのは思わぬ余禄を生み出し始めた。素材を強化して、その特性そのものを強化できることが判明したのだ。今までは土の魔力だけレシピを増やしても、タフになるだけだった。保存性も堅さも質も同時並行で上がるし中には瞬間強化用(硬化)の魔力すら含まれているのだから、大して強くならなくても仕方がない。
話が横道にずれて来たが続きと行こう。
「それで鉄の素材とイメージに特化したのが『無敵』のアダマンティンなんですね」
「俺がフォローしないと剣聖にぶった切られるレベルだったけどな」
ここで重要なのは、素材ごとに性質とイメージが異なる事だ。
一番最初に製造され、最も長持ちしたのはタフネスさゆえであり、呪文の改良によって強固さが増していたからだ。元の強度が高く成り、俺が瞬間強化と修理目的に地の呪文を使う事でアダマンティンは無敵と呼ばれる堅牢さを示した。白兵戦タイプの魔将の攻撃を喰らっても揺るがず、剣聖の訓練相手を務め、最後まで最前線で戦い続けたゴーレムになる。
まあ、それだけ素材の代金も掛かるし、無茶苦茶重くてバランス取りが難しいのが三大ゴーレムではある。
「ミスリリュウムは銀を元に速さと魔法抵抗に特化した個体。アカガネは銅を元にエネルギー収集と保存に特化した『賢者の杖』代わり。そんな風に材料次第で能力もバランスも変わるんだ。研究するにも現物がないと難しいし、単純に金属ゴーレムを作れるだけの予算もないってのが問題と言えば問題か」
「銀は当然ですけど……今ご時世ですと鉄も銅も高額ですしね」
そう、最も重要なのが今は復興期で材料も高騰している。
銅は銅貨のみならず、様々な生活用の金属に使われている。鉄は武器であり、開拓地に使われる農具にも重要だ。もし船やら建物が巨大化して行けば、もっと金属の需要は高まるだろう。貴金属に至っては言うまでもなく、黄金のゴーレムなど実験すらできなかった。
とはいえ、まったくアテがないわけでもないが。
「もしやるとしたら、今やってる研究が終わって王都のアダマンティンをバージョンUPするとしたら……だな。そこまでする必要があるかはしらんが、古いゴーレムを新しく作り直すってんなら許可が出るかもしれん。まあ、今は竹と羊の皮でちょっとした実験が精々なんだが」
「そういえば木や皮の質を高めたらどうなるんです?」
「やった事は無いが霊木や魔獣素材として、成長するんだろうよ」
こうして俺は研究テーマをまとめることにした。
まずは四つ足のケンタウルス型を作り、片方の腕には貫手を装備することまでは決めている。尻尾は蛇腹剣状にするかまでは決めていないが、ハルバードかランスでも主兵装にすれば格好良いかもしれない。
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※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」
数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。
ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。
「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」
「あ、そういうのいいんで」
「えっ!?」
異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ――
――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。
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