魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第二章

『ゴーレムを部品として見た可能性』

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 別荘予定の村で俺はフラストレーションを持て余していた。
別に女の子が水着を着ていないからだとか、欲望のままに押し倒したくなったわけではない。積極的にすることが無いのだ。なら領都に戻って仕事しろと言われそうだが、現代人の俺にとって書類整理は難しくもないんとも無い上、アレクセイもいるからとっくに状況の進行待ちである。建築関係も水の件が終わるまでは、今までの場所を深く掘ったり、高く積んだりを繰り返すだけでしかなかった。

全ては領主間の取引がまとまるまで動けない訳だが、手紙でやり取りする上で、それぞれの思惑もあるので即座に動いたりはしないのだ。

「先生。あの水車ってゴーレムですよね?」
「……自力で気が付いたなら良いか。お前は付与門派に進む気みたいだしな」
 そんな中で好奇心の強いセシリアが次の段階に進んだ。
俺は暇だったこともあり、問題のない範疇で説明を行う事にする。そういえば研究を盗まれた時も焦って色々と推し進めようとしたあたりの筈だから、少し落ち着くのも必要なのかもしれない。というか現代人の思い描くペースってのが、早過ぎるのかもな。

それはともかく、砂浜へ三角の配置で石を置いた。
最初に大きな石。続いて中くらいの石をその下に。その下に四つ。

「全てのゴーレムは『原初のゴーレム』を元にしている」
「これは『奇蹟』で生み出された存在であり再現は不能だ」
「ソレ一つで全てを内包し、存在し続け再生もする強大なゴーレム」
「その力を参考にして魔法で生み出されたのが、付与門派によるゴーレム作成の呪文とゴーレム操作の呪文。しかし、再現どころか何もかも足りない、中途半端に強くも無い個体が出来上がるだけだった。そこから何を調整し何を重視するかを分け、生み出されたのがゴーレム創造魔法であり、派生する地・水・火・風の四概念に分化した呪文だ。ゴーレム魔術が出来るとしたら、それぞれの属性毎になるだろうな」
 次に土・砂・砂利などに水を混ぜて、泥だんごをこねた。
そして泥だんごでちょっとした人形を作り、これがゴーレムなのだと適当に説明する。重要なのは説明しながら一気に行う事で、ツッコミはさせないし細かい疑問は置き去りにしておく。『他にどんな奇蹟があったのか』なんて途中で質問されても困るからな。

ちなみに、このゴーレムが人間の形をしているというのは、あるいみ判り易い説明であると同時に『ミスディレクション』でもある。

「さて、原初のゴーレムはこんな感じに適当な材料で生み出された。『何時までも守ってくれる存在が欲しい』という願いに対し、誰もが抱いた夢は守護神として強い人間の姿を創造するからだ。そこから派生して行った魔法でも、世界の原理を解析して説明して押し付けただけで、やってることは大して変わっていない。ゴーレム魔法に分化した段階で、『ゴーレムにする』という規定と『こんなことをする』という目的が分離したんだ。お前がさっき抱いた疑問は、ここからになる」
「組み上がって行くけど……でも動かないですね」
 このサイズなら簡単なので呪文を唱えれば成形される。
だが、それだけで動く事は無い。何故ならばゴーレム作成の呪文でもそれを操作する呪文でもないからだ。あくまでゴーレム魔法の『ゴーレムとして扱う』という意味を込めた呪文を使用したに過ぎない。動かすにも何かの機能を持たせるのにも再生能力を与えるのにも、それぞれ別の呪文が必要なのだ。

これだけ分化されてしまうと、もはや1つの呪文では元の形が見えない。だが、ここまで分化したからこそ特化できているし、その後の研究にも繋がるわけだ。

「先人は水の魔力に『これこそがゴーレムだ』という意味を規定した」
「だから今の呪文ではゴーレムとして認められただけに過ぎない」
「動くと熱量が発生するし激しいイメージから火が運動性となった」
「風でも良い筈だがそうなると火が余るし、風には伝声の呪文がある様に伝達というイメージもあったからこちらは命令系統になった訳だな。最後の地は硬さや保存性になる。後はどれだけ地・水・火・風のバランスを保つか、一点集中させて崩していくかでそれぞれの能力が判って行ったわけだ」
 続いて火のゴーレム呪文を使うと動き出した。
その動き自体は力強いのだが、最初に与えた命令そのままの動きを行うので単調すぎるのが欠点だ。次にコマンドゴーレム由来である風の呪文を命令を与えると、真っ直ぐにしか進まなかったゴーレムが右左に動いて行く。最後にプロテクション由来である土の呪文を唱えるとちょっとやそっとでは壊れないし、崩れても元の形に戻ることになるわけだ。

セシリアはその様子をいつまでも興味深げに見ているので、悪いが水を差す事にした。そういえば誘導することを『水を向ける』とも言うな。

「ここで質問だ。水車をもう一つ用意するには何の呪文を使えば良い? 一つでも良いが複数の使い道を考えても良いぞ。注げる魔力が最大で何処までいけるは考えなくても良いものとする」
「まず水ですよね。次に火。今の所は他は不要だけど……」
 はっとした表情で考え始めるセシリア。
それでも思い出しながら話せるのは、自分が興味を持ってずっと想像していた事、そしてゴーレム水車は単純な能力だけで構成されているからだ。もちろんそのままでは時間が経過したら元の何でもない存在に戻ってしまうので、他の呪文が必要になるわけだが。

そして今解説した内容だけでは全てを解明したことにならないし、今後の発展にはもっと詳細を探らなければならないのである。

「沢山の水魔力で大きな水車、同じく火で激しく回る水車。地は薄くても壊れない為として、遠くから動かすのに風……でもそんな必要ある? 秘密にするために止めるくらい……かと思います」
「五十点、だが惜しいな。ゴーレムだと思わなければもっと行けたろう」
 セシリアは地面に大きな歯車を描き、矢印を二つ描いた。
説明したことを強化してサイズの拡大や運動力の強化まで思いつけたのは合格点だ。だが、その先がやや薄く、発展形の余地を残したまま考察を止めたのがもったいない。そのタイミングがさらに発展させるスタート地点なのに、そこを袋小路だと止めてしまったのが問題だろう。

ここで思わせぶりにして媚びを売らせる手もあるが、黙っている事にフラストレーションを感じたので、この際気にしないことにする。

「無限に動き続ける仕掛けを考案したと思えば良い」
「薄くて壊れないが行けるなら、堅ければ水以外も動かせる」
「その場にある砂を掻き出すとか、鉱山の石も行けるよな?」
「水車のままだとしても、水路に複数設置すれば陸の中に強い波を作れるだろう。運河の中なら波に乗って移動し易くなるし、複数の水車があるなら、一部だけ止めたい時もあるよな。そしてこれらの考えを追及して一つの技術として消化させたのが……他では喋るなよ? 興が乗ったから喋ってしまうが、学院でも披露していない『自ら動く船』になる」
 セシリアが描いた水車の隣に簡単に船を描いてみた。
転生前で言う外輪船で、自ら回転して本体である船を進ませるという物だ。調子こいて秘密のアイデアを喋っているわけだが、何のことか気が付いたセシリアは口元を両手で覆っている。思わず喋ってしまわないか、他に誰かが効いていないかキョロキョロし始めたくらいだ。その仕草を見て可愛いなと思える辺りはやはり年齢差なのだろう。なんというか三十前になるとJKくらいの年齢の子とは意識の差が出来るよな。

最初は黙っていようと蒼を赤らめて口元を覆っていたセシリアだが、やがて意を決して話を再開する。

「す、凄いじゃないですか先生。なんで今すぐ船を作らないんですか?」
「何に使うんだ? 魔族の島に攻め入るのか? それを除けば緊急性の用事が無いんだよ。国家を動かす気が無いなら、この位の秘密は作ったら即漏れると思え。やるなら隠す方法を思いつくか、さも無きゃ『その次』を思いついて、隠すのが惜しくなってからだ。切り札は何枚も持っておいて、必要な時に切るためにあるんだからな」
 正直な話、自動で動く船に需要が無い。
帆船の代わりにゴーレム動力を載せるとして、外洋に出て行ってまで手に入れたい物が無い。近場の島にカカオも砂糖も無ければ話は別だが、輸入品で砂糖くらいは見たことがあるのでその必要も無いだろう。現在進行形でうちの領地には順調に金が入ってきており、水さえ供給されれば食糧問題は徐々に解決していくはずだ。それこそ魔王軍の残党を殲滅するとか、戦争目的でも無ければ不要である。あるいはこの国が内紛になって海辺の領主を自分の陣営に引き抜くとか、そういう状況でなければ不要だと言えた。

要するに、リスクも無しにそこまでのリソースを注ぐほどの必要性がないのである。

「そう言う感じで『遠くのナニカ』に指示を出すと考えれば使いようがある。例えば水車じゃなくて風車を別荘やら本館には付ける予定だな。きっと涼しくなるぞ」
「あ……昨日言ってた……はい、黙ってます」
 驚いたまま興奮しているセシリアはやはりアンナの姉だった。
普段は見せない愛嬌が出てくる感じだろうか? いつもこの調子なら即決まり……と思うが、やはりこういうのはギャップがあるからこそだろうか?

そんな冗談を踏まえつつ元の流れに戻すことにした。

「そういう訳で、アイデアというのは考え方次第だ。余計な物を覚える必要があるかはともかく、覚えてしまう過程は大切にするんだ。どうせ覚えなきゃ次には進めないし、覚えた以上は使い方を工夫しないともったいない。お前さんは付与門派に進んでマジックアイテムを作るんだろう? 無駄にはならんさ」
「はい……間にある呪文も覚えるようにしますね」
 俺も通った道だが、魔術スキルを覚えるのに過程がある。
一度に奥義だけを覚えて成長できるはずもなく、初歩の呪文を覚えて間にある程よい難易度の呪文を覚えて、そのさらに上を覚えてからようやく有用性が高い呪文が出てくる訳だ。俺の場合は『ゴーレム素材は何でも良い』と思えていたから土でも砂でもゴーレムに出来たが、普通のゴーレム魔法の使い手は人形を作って付与し解呪の為にバラしてもう一度とかやってるらしい。セシリアも間にある幾つかの呪文を飛ばせないのかとか、そういう悩みはあったようだな。

学院の時はこういう感じの流れの後、強引に色々と作ろうとして失敗したんだよな。『その次』についても考えてなかったし、パクられるのは仕方ないとしても『あれは自分のアイデアです!』と主張も出来なかったから、名誉ある称号は取れてない。

(船は思いついた時にアイデアを進めるとして、今は戦闘用の方かな?)
(オーガの死体をフレッシュゴーレムにした時にあった手応え……)
(あの死体には限界があったから、筋肉だけ残して保存しておいたが)
(同じように何らかの魔獣を駆って、装甲にするとか、内臓だけ素材に剥ぎ取ってフランケンシュタイン化したら凄いのが出来ないか? そしてその新個体で次の強い魔獣を狩り、より軽くより比重が高い素材を集める。そうすればドラゴンを凌駕するゴーレムが作れるはずだ。そうすれば空飛ぶゴーレムだって行ける筈)
 そこまでする必要があるかは別にして、アイデアは他にもあった。
ゴーレム魔法の地呪文では保存性を高められるため、死体を使ったフレッシュゴーレムが作れるという事になる。そして異なるパーツを使ったフランケンシュタインというアイデアを経由すれば、魔獣の体を複合化させたキメラ的なフレッシュゴーレムが作れるはずである。そのままの素体では鈍重であるが、ゴーレム魔法を駆使すれば軽くて丈夫なゴーレムが作れることになる。

それはかつてアニメで見た、オーラで戦う世界のゴーレム。魔獣の素材を使って作られた空飛ぶゴーレム同士が戦い、ワイバーンですら時代遅れと言わしめたあのドラゴン・ゴーレムを作れるのではないかと思ったのである。繰り返すが戦闘力的には必要ない、だが夢とロマンに溢れている気がしたのであった。
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