魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第二章

『だから海に別荘を建てよう!』

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 俺の目標も定まり、弟子たちの方向も決まった。
なので今回は、その予行演習としてミニマムなテストケースを行う事にした。具体的に言うと空中庭園を作ろうとする前に、別の施設を作るわけだな。できればそれが領地に収益を齎し、同時に自分の我儘を叶えてくれるようなシロモノだとありがたい。

そこで今回は『海水浴場としての別荘』を建築する。
……という名目で、かねてからの計画であった第二塩田を作ることにした。どっちも俺のマジカルライフには必須なので、作るしかないよな!

「ゴルビー地方を手に例える場合、この砂浜は小指の付け根だな」
「丘陵と言うには高く、行き来が難しいから隙の作り易い場所だ」
「海賊の問題もあるので、この辺りに点在する家はまとめて村にする」
「防衛拠点でもある避暑の別荘を作るという名目で第二塩田を作り、余程の事が無い限り、行く行くはお前たちのどちらかの家系に任せることになるだろう。お前らもやりたい事とかして欲しい事が在ったら盛り込んでいけよ」
 要するに実験と検証用の土地である。
空中庭園で盛り込む為の機能を試し、俺の欲望がそのままこの地方を良くしていくという流れを示す場所だ。自分の我儘の延長だから好きに試せるし、領地の為だから心残りも無いって感じだな。

それに海賊対策ってのも嘘じゃないんだぜ?
外洋から遠くの海賊が襲ってくる時には守り易いし、なんというか食っていける様な仕事も与えるから、『食えない海の民が海賊になる』なんて事は避けられるから。

「え? ホントですか? 悩むな~。何にしようかな」
「本当にそんなこと言っても良いんですか?」
「良いんだよ。お前らだって家の都合で三十前の男に愛想まく生活に余禄が無いと嫌だろう? それに姫には形式としてはもっと良い本館を作る予定だから、ここに自分好みの部屋を作らせるくらいは望みを叶えたって良いだろうよ」
 真面目な姉のセシリアの方が尋ねて来るが笑って返した。
前世で言えばパパ活で手に入れた金なら使えるし何があっても自業自得だが、親に妾としての奉公へ出されたようなものだ。そういう目に合わせているとか言うのは、俺の気持ちの負担が大きい。むしろ盛大に要求してくれて、こっちが遊んでいるくらいの方が気分が良いってもんだ。金持ち風吹かせやがってと思うかもしれないが、世界を救った後の第二の人生だから好きに生きなきゃ嘘ってもんだろ?

もしセシリアだけなら遠慮したかもしれないが、そこは空気を読めない女であるアンナが先に暴走する。

「じゃあじゃあ、おっきなお部屋作ってもらって良いですか? それも……」
「姉とは別の部屋だろ? 構わねえしそれだけじゃねえぜ。もしお前を妾にせずに、誰か他の男へ嫁に出す時は、部屋を取り上げる代わりに相応の家を作らせようじゃないか。領主の持物である以上は出ていくなら残せないが、その時は若い盛りを弟子として拘束した分だけの手切れは渡す。もちろん残るなら部屋はずっとお前のもんだ。セシリアも何か言ってみろ。どうせ今みたいな条件だし、俺の方からも要求はする」
 思わせぶりだけなのはクソ野郎なので、ちゃんと候補としての報酬は出す。
妾に成れば相応の扱いをするし、そういうことを臨まれる生活である間は良い暮らしをさせるのが甲斐性という物だろう。その上でアンナが『やっぱり好きな人が出来たので、出て行きます』と言った場合は、青春を此処で消費させた分は支払うべきだろう。世界観が中世だから領主の館で妾に成ったり、師匠と決まった弟子が性生活を送るのは別に不名誉ではない。だが、そこにも代価はあるべきだと思う。まあ弟子の場合は勉強方面だけどな。

そういう雰囲気を出すとセシリアの方も意を決したようだ。ただ、それに合わせて質問する当たりがこの娘らしい。

「わ、判りました。私の場合は勉強に向いた部屋にしようかと思います。その上で要求って何でしょう?」
「お前の部屋には倉庫を付けよう、それで良いな? 要求は呪文だな」
 当たり前だがエロイ事は要求しない。
お妾さんになったらあーんな事や、こーんな事をするのは当然である。なのでそんな事を別荘の代価にしてもしょうがないのだ。もちろん第二夫人として入籍する様な相手として格式のある対応をされたら話は別だが、今回はそう言う話でもないので、この話は終わりだ。

とりあえず俺は丘というには高い場所に向かいつつ、当面の問題を挙げた。

「例えばこの向かい側との連絡が便利にできないか? という研究」
「それが簡単にできれば、此処が大きな海賊に攻められても困らないだろ?」
「ここで遊んでる時に、ゴルベリアスが襲われたら急報とその返事が欲しくなる」
「現時点では暗号文にして矢を飛ばすくらいしかやり様がない。ただ、呪文を使うという前提ならば、幾らでもやり様があるんだ。得意分野にも寄るけどな。俺なら身の軽い小型ゴーレムを伝令にしたり、紐で手紙の入った袋を引き揚げさせるとかだ。なお、まだ愛人としての弟子じゃないから説明しないが、既に回答は用意してある」
 魔法における師匠として、具体例に段階を持たせておく。
呪文を使わずとも暗号文をやり取りしたり、上に待機している人間が居るなら情報交換が可能だと簡単に説明する。ゴーレムを使った伝令もその一環だが、実の所それは表向きの用法である。別に専門的に用意するならば、ここへエレベーターを用意しても良いんだし、暗号を送るならば丁子暗号とかやりようがあるからな。ただ、そんな専門的な方法というか、具体的な工夫は説明しない。面倒だからではなく、パクリをされたら困るからだ。

こういったやり取りをしながら弟子として思考を鍛えさせるわけだが、愛人でもある関係の深い弟子ならば『殆ど』全部伝えても良い。そのくらいは疑うものだし、肉体関係と言うか『こいつならば大丈夫』と見込んだ相手を愛人として特別扱いする訳だしな。

「この急斜面をですか? ええと……風に伝声の呪文があったはず」
「ほ、他の内容だとどうでしょう? 他の内容があれば一番思いつくので」
「セシリアは一抜け、それを覚えたら屋外では便利だし、将来の目標としてマジックアイテムにするとか他の自分が覚えてみたい呪文で出来ないか良いし考えてみるのも良いぞ。考察することは頭の体操になる。アンナはもうちょっと頑張れと言う気もするが、この場には新しく作る用水路が流れてくる予定だ。水を綺麗にする方法を呪文でも薬草でも解決できれば良いし、そもそも塩田だからその効率化でも良いな」
 流石に意欲の問題で姉の方は合格点だろう。
妹に関しては不安になるし、幸せにしてくれるなら誰でも良さそうな気もするので、用意注意には変わりない。だったら姉の方を愛人として目を掛ける弟子にすれば良いかと言うと、こいつはこいつでこの領地を『腰かけ』にして学院に言って帰ってこなさそうな感じもするので微妙である。就職活動で『御社で学べるスキルに興味あります。大手に入る為には今の技能じゃ不足していて』なんて態度を見せたら人手不足じゃない限り雇わないよな。

ともあれ、今は何をして欲しいか、ソレを自分の尺度で考えることを習慣付けてもらおう。その上で呪文を繰り返して、魔術のレベルを上げてもらう訳だ。まあ二人と仲良くなる未来が無い訳じゃなし、教育に手を抜くのは良くない。

「午後からは塩田を見に行こう。二人ともメモを取って暇な時に考えてみろ。セシリアの方は思いつけば授業の単位というか……ポイントを増やしてやろう。渡す教材を良くするし、学院の試験を受ける時に書く添え書きが異なる」
「はい! 頑張ります!」
「頑張りまー~す」
 妹の方にはヒントを渡し、姉の方には点数を付けてこの場は終了。
この場所に来たのは遊びに来ただけではないので、職場見学のついでに色々と改良案を考えておきたい。その内でリゾート開発もするが、何というか趣味の為の苦労ならば買ってでもしたいところだ。

現地で採れた魚介類を軽く焙って食事をすると、さっそく第二塩田の候補地へと向かう。

「あれ? 塩田と言う割りには水車小屋しかないですね」
「前は汲んだ水を散らすための水車でしたよね。今度は普通?」
「あの小屋が塩田だ。この周囲は遠浅に加えて干満差が少ないから塩田には向かない。第一塩田以上にな。その分ゆっくりしたり、泳ぐためのリゾートには向いているんだ。だからこそ、良く知らない奴に隠せているとも言える」
 海に面した水車小屋、それが第二塩田の正体だ。
遠浅の海の中で、比較的マシな所に水車があり、それが回転して中に海水を引き込んでいる。内部との結節点が見えない様にしているが、別に内側に人間もゴーレムも居ないので、何も知らない人間が見たら勝手に水車が回っている様に見えるだろう。しかし、俺の事をゴーレム魔法の使い手だと知っていると、水車小屋の中にゴーレムが居て回していると思ってくれる筈だ。

そう、あの水車こそがゴーレムである。
組み合わせたから一つだけじゃないし、多分ポンプを間に入れた方が楽だとは思うが。

「お前さんらはスポンサーの娘でもあるから、もう少しだけ教えておこう」
「海水を高い位置に汲み上げるのは同じだが、竹の細工物に落としている」
「小さな穴が空き先が尖った分岐に分かれて、雫がポタポタと落ちる感じだ」
「そんな仕掛けが暑苦しい小屋の中で起きてるわけだ。当然ながら効率は段違い。そしてあの中で延々と作業できるのはゴーレムしかいない。人間の役目は竹細工を交換したり、下で受ける砂を交換して、煮詰め直す作業だけだな。その作業の代価に結構な報酬を払っているから、連中は俺を裏切る事もない。お前たちの親父さんが真似ようと思っても、ゴーレムが居なきゃここまでの効率化は無理だろう」
 現代技術は干満差を利用した揚げ浜式より進化してるらしい。
その情報しか知らなかったので、具体的には推測して再現可能な部分だけ実用化している。要するに海水を汲み上げる手間をゴーレムで省くとして、中間にある『乾燥する手間を省くために何が必要なのか?』を想像して水滴だと穴埋め回答したわけだ。もちろん違う可能性もあるが、現段階では十分成功しているので問題ない。

ひとまず第二塩田自体は完成しているので重要なのは省力化だ。

「ここが順調なら俺は塩を売る金でこの領地をもっと良くできる。ついでに塩不足の領地とも交渉するし、複数の商人が売り歩くから自然と値段が下がっていくだろう。重要なのは塩を作るために最終段階がまるで変わってない事だ。この領地では木材が貴重……後は判るな?」
「煮込む必要があるんですよね? あ、その為の呪文が必要なのか」
「火炎。鍋を温める。水を消すのは……駄目だから抜く呪文の開発?」
 流石にアンナにも言わんとすることが分かったが、姉はその先を行く。
意識の差はそんなものだが、此処からアンナが地道に火炎の呪文だけを磨く可能性もあった。仮に精霊魔法で行く場合はその方が早いし、止めた方が良いが火使いに専業化するなら簡単に出来る作業だからな。

少し考えて二人の話を考察し、俺なりに『次』の展開を踏まえて話をする事にした。

「最終的に塩を取り出せれば何でも良い。火炎を出し続けても良いし、脱水の呪文を改良して除水的な物を生み出しても良い。ただ、それぞれに利点があるからただの使いっ走りで終わりたくなければ『次』を考えておくんだ。火炎ならば鍋や風呂を炊くのにも使えるし、毎日風呂入れたら楽しいよな。脱水の呪文なら湿度の多い地方にスクロールだけでも売れるだろう。もっと言えば、塩と水を分離する呪文にまで進化させられたら、海沿いや塩湖なら女神に成れるぞ」
「あ、そっか。お風呂って素敵ですよねー。お鍋も良さそう」
「次……うん。私は此処で終わりたくないし……次かあ」
 これでひとまず難しい話は終了だ。
今のところは第二塩田は順調だし、塩を売った金で色々と購入できるので事業の運転も問題ない。網を買って貸し出せばこの辺りの漁師たちはますます裏切らなくなるし、あまった魚を干せば良いと言うのは前にも話した通りだ。

そしてこの作業の締めを二人に任せ、更に後継者を確保させれば今後の憂いは無くなるだろう。

「今言った呪文習得や開発は俺でも出来る。だが、師として俺はお前たちに好みの呪文を習得して魔術を磨き、この領地の役に立てと言っておくぞ。俺は領主としての用事もあるし、魔術師としてもゴーレム魔法を磨く成り、後に続く者の為にゴーレム魔術を研究する必要もある。代わりにここでの良い生活を保障し様じゃないか」
「「はい!」」
 明確な目標と、明確な報酬。
セシリアとアンナの姉妹は、判り易い話だっただけに即座に頷いた。こうして第二塩田の改良と、呪文を覚える事での魔術習得。それらをこなしたことで、やるべき事は終わったと言えるだろう。

そして……堅苦しい話が終われば、後はレジャーの話である。

「難しい話は此処まで。この後は別荘としての話に移ろうじゃないか。ここの村を貰って子供たちと一緒に住むにしても、遊ぶところも無いんじゃ嬉しくもなんともないからな。足を漬けるだけの安全な場所、腰まで浸かって子供なら泳げるところ、大人でも練習くらいは出来る浜辺をゴーレムで造成する。もちろん第二塩田の取水口より流れが下の方だけどな」
「別にそんなのな無くても……」
「いいんですか!? 楽しそ―」
 不思議な話だが、水泳の授業は楽しくない。
だが浜辺で遊ぶとなるとどうして楽しいのだろうか? 将来的には流れるプールを作りたいな……と思いつつ、浜辺を開削して水浴びが出来る程度の場所を作ることにした。

もちろん最優先は、第二塩田に引き込む海の水を干満差が少なくても順調にする水路作りなんだけどな。

ともあれこうして第二塩田と弟子教育が始まったことで、領地経営に弾みがつきそうだった。
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