魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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プロローグ

『そんな事よりゴーレムだ!』

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 解散した勇者軍に所属していた者たち。
彼らの全てに行き先があるわけではない。また、今までより扱いが良くなることを夢見て、士官しようとする者も居た。大抵は巻き込まれた町の出身者で、魔物憎さで戦ったり何も出来ないから兵士に鳴る方がマシだという者たちだ。それでも基本的には何もできないし、人数の多さから食わせていくだけで精いっぱい、教育している余裕などない筈だった。

まあ幸いにも(?)、俺が砂漠と荒野しかない地方に行くと知って、殆どの者はそっぽを向いて他の連中にたかりにいったわけだけどな。

「ワシらの様に何も無いもんでええんですかい?」
「役に立つ加護でもなく、魔法だって覚えてねえっすよ」
「問題無いさ。それより重要な素質を君たちは持っているからね。俺が意見を言って、何度断られたか知ってる人も居るだろう? 少なくとも、此処には話を聞いてくれる人しかいない。そういうことさ」
 それでも着いてくるしかない行く宛てのない者たち。
そんな中でも俺が目を掛けた一部の者たちは当初困惑していた。だが、俺が語って聞かせると何人かは『ああ、なるほど』と頷いていた。ゴーレムで穴を掘って臨時拠点の周囲に空堀を作るまでは良いとして、塹壕に籠って守ろうとかが最初は通らない。勇猛果敢な騎士あたりだと『そんな事をするくらいなら亜人でも良いから一体でも多く倒せ』とか反対される訳だ。で、実際に数に押されて不利になり、即席の空堀と塹壕の二重ラインでようやく戦い易くなる。その事実に加えて『魔物や亜人に正々堂々とした名誉の戦いをする必要はない。守って数を減らしてから戦おう』とか言うと、ようやく聞いてくれる騎士が出てくる。

もちろん実際にはそこまで聞き訳が無い連中ばかりではないが、実例としては判り易いのではないだろうか?

「俺がゴーレムを使ってやっていたことを知っていて、素直に頷いてくれる人は貴重なんだよ。それに向こうで細かい職人仕事をする訳じゃない。勝手に何かせず、真面目に仕事を続けてくれる人が重要なんだ」
「そう言う事なら……なあ?」
「んだ。おら達で良ければ使ってくんろ」
 何も出来ないから難民と呼ぶ……なんてこともがあるが、彼らはマシだった。
それが難民と言う者であり、勇者軍に所属して従軍した彼らは難民よりもマシだ。少なくとも俺が言う事を聞いてくれるし、『こういうことをしたら危険だ』と忠告すれば話を聞いてくれる。中世の世界観だと頑固に今までの常識に従うか、さもなければハイハイいう代わりに何もやらないか、目端が効く代わりに盗んだり余計な事を吹聴して回るような者が多いのである。これから色々やる事もあり、付き従う者たちの中でも、素直であったり言う事を聞く性格の者たちに目を掛けることにした。

何しろゴーレムで効率化を図る事って、あんまり言いふらされたくないからね。着いてくる連中は他にもたくさんいるが、その中でも素直な彼らを事業の中核に据えるつもりだ。

「移動するにあたって道々復興を手伝いながら、代わりに木材や食料を賄って行こう。向こうには何も無いからね。まずやるべきことは途中で荷車の作成かな」
「荷車? そんなの王都なら幾らでも買えるのでは?」
「馬鹿たれ。こんな高い場所で買えるか。作れるもんは手造りよ」
 とりあえず最初に用意するモノは決まっている。
物資輸送とその簡略化のためにやるべき事があるのだ。若者を諭す老人の言葉は間違っていないが、正解と言う訳でもない。俺が作る以上はゴーレムだし、今後を考えたら人力や動物よりもそっちの方が楽だからね。とはいえ王都の木材商に頼んだら情報が洩れるし、金額も馬鹿にならない。それを考えたら途中で木々がある程度余っている場所の方が良いだろう。

そんな訳でゴルビーに向かう途中で地元の領主を手伝うことにした。

「悪いな。瓦礫を片付けるだけではなく、開墾まで押し付けて」
「そこにあった木や粘土を戴きますからお互い様ですよ。食料も正当な価格で分けていただきましたしね」
 流石に食料は幾らあっても足りないので無償提供ではない。
だが、それがお互いに対等だと示す行為であるので仕方がない。物を持ち上げたり開墾で苦労するのはゴーレムであるし、代わりに木々や粘土をもらえるというのは申し訳ないくらいだ。もちろんこの領主も開墾地を普通に報告するのではなく、暫くは隠し田にして、王都には『難民のお陰で生産が追いつきません。今、必死で開墾しています』と報告する気だろう。その口止めも含むと考えれば、やはりお互い様であった。

その関係が崩れそうになったのは、先ほど言った荷車を造り始めてからだ。
向こうで使う予定の水車を先に注文し、荷車を伐採する木々の領に合わせて発注する予定であった。

「ゴーレムに引かせるのか? 面白い事を考える物だ。頼んだらいかほど掛かる?」
「今から作るのは儀式を伴わない簡略化ですからね。ゴーレム魔法の使い手が居れば、使うたびに掛け直せば良いので安く上がりますよ。居ないならば何か月かに一度、うちに持ち込んで掛け直す必要がありますね。もちろん、本格的な儀式ですと、私がつきっきりになる分を補填していただくことになりますが」
 良くある話だが、『自分で作れるなら安く上がるだろ?』という考えがある。
自分の領地に居る絵描きに絵を描けと命じたら無償で描くかと言われたら、無償な筈もない。絵具だって掛かるし、拘束する分の食費どころではないだろう。税金として取り上げることもできるが、その場合は有名な絵描きなら逃げていく事になる。もちろん、他所の領主にやらせると『借り』が大きくなるので話はナシだ。ここの領主も気には成っていたが、大枚をはたく気はない様で助かった。

「水車が完成しましただ。そんで、ゴルビーの領主さま。荷車に何を付けるんだ?」
「支えにする補助脚をこの辺に頼むよ。それと車輪の幅は広く、軸なんかも頑丈にして欲しい。流石に丸太同然だと困るけどね」
 村の大工に頼む荷車だが、大雑把で頑丈な物になる。
この辺りの街道で使う訳ではなく、砂漠や荒野で使うために車輪は広い。軸が頑丈なのも重量物を載せてへし折れては困るからだ。これでゴーレムが強引に牽引していっても問題ない軽トラ……じゃなくて荷車の完成だ。補助脚を追加しているのは、荷車を支える為もあるが……あとでスキーを付けてソリに出来るようにするためだな。

その完成を待っている間に、腰の曲がったお爺さんを見つけたので、少しモデルを頼むことにした。

「すみません、お爺さんちょっと貴方の姿を真似てもよろしいですか?」
「はあ? まあ。そんなんでよければどんぞ。流石に長くは困りますけどのう」
 暫く観察してお爺さんの動きを覚えておく。
そしてゴーレムを仕上げる段階で使う魔法にアレンジを加えることにした。基本的にゴーレムの動作は人間の動きをコピーすることで調整を簡略化しているのだ。ゆっくり確実に動き、途中で腰を上げたり真っ直ぐにするお爺さんの動きは、戦闘なんかしない牽引用ゴーレムには丁度良いと言えた。

「ありがとうございます、おじいさん。お酒でも飲んでください」
「……? こんなんで良かったんですかのう? まあこちらも助かりましたわ」
 記憶した所で早速呪文を使いたい。お礼として銅貨を持たせ軽く頭を下げた。
そして簡略化した……というか、儀式化していない状態のゴーレム魔法を使用する。地・水・火・風で派生形が違うのだが、動作やパワーを司るゴーレム魔法(火)の呪文で、先ほどの動きをトレースしておいた。すると腰を上げてスタンバイ、そのまましっかりと進み始め、待機状態だと腰を落とす姿勢になる。後は牽引用の棒を持たせれば、荷車を引くゴーレムの完成だ。

「都の人形劇で見たことがある。なるほど、そういう風にやるのか」
「応用の一つですがいちいち命令を覚えさせるよりも便利なんですよ。大仰な動きをさせる気もありませんしね」
 ゴーレム魔法は付与魔法の一部門でしかないので、発展途上だ。
この手法も命令系統を簡略化するために研究して居た時、市井の傀儡使いが編み出した方法になる。今では本家である魔法学院の授業で料金を取って教えているくらいには、便利な方法であった(なお、特許なんかないので傀儡使い達には銅貨一枚も入ってはいない)。

こうして伐採した木々を使い、二台の荷車を完成させる。

「もう一台は領地に着いてから完成させるとして……。今回は色々とありがとうございました。着任の挨拶は改めて行いますね」
「君も言っていたがお互い様だ、気にするな」
 そんな会話の後、ちょっとした宴を開いて別れる。
それはそれとして、戦力を持ち過ぎても疑われるので持って来たゴーレムは一騎だが、他に代用手段がある。というよりも、転生者である俺としてはそちらの方が本命だったと言える。おいそれと他人に見せる気はないので、本格的に使うのは領地に辿り着くか、途中で人力で運べなくなってからになるのだが……。

さて、先ほどはゴーレムに動作の命令をインプットしたのを覚えているだろうか? つまり人間の形をしているから歩いているわけではなくて、人間の動作をコピーしているから歩いているわけだ。

「ミハイルさま。こっちの荷車なんだか動かし易いですね。同じ大きさなのに」
「ああ、ゴーレム魔法の応用だよ。俺が疲れるからあまりやらないけどね」
 そう、別に荷車自体をゴーレムにしても良いのだ。
インプットする動作は『車輪を動かす』だけ、場合によって速力に差をつけるくらいだ。難易度的には簡単で、むしろ内包するエネルギー量だとか外から魔力を取り入れる為の、ゴーレム魔法(風)に比重を回しているほどであった。普通の魔法使いはこんな使い方を考えないので、転生した時に知識を残せたのは僥倖であろう。もしかしたら俺に加護が無いのは、神様からみれば加護扱いで記憶保存でもしたのかもしれないと思ったほどである。

まあ、そんな冗談はともかく領地に辿り着けば無事に作業が出来そうだ。荷車に煉瓦を積んで壁を造ったり、作ってもらった水車を設置して領地を良くしたりできるのだから。

こうして俺たちは途中の村々で復興作業をしながら資材や食料を少しずつ調達し、ゴルビー地方の領都であるゴルベリアスへと辿り着いたのである。
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