ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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ラストバトル編

終戦

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 最終局面を迎え膠着した戦いが徐々に変化する。
洞穴ケイブエルフ側は呪術の長が前に出てきたことで盛り返したが、こちらはホムンクルスを盾役にして犠牲を許容した。強烈な攻撃呪文は損害としては痛い、生きていてもおそらく再起不能になる個体が出るだろう。だが、敵の方は総数自体が減っているのだ、巻き返しが出来ない場所が出て来るだろう。

フーとジャンはフォローに回し、ポーションを使いながら攻勢待ち。そして後方に居るホムンクルスを徐々に前に出し、呪文で倒された時の予備として使う事にした。今までみたいに許容限界を越える前に入れ替えたりはしない。むしろ使い潰して倒し切る方が確実な局面である。

「さっきから顔ぶれが増えてるアルネ。回復する余裕無くなった見えるヨ」
「もしかしたら『消耗戦対策』が成功したのかもな。単純に向こうの底が見えたかもしれねえが」
 ホムンクルスたちは盾を掲げて進み、剣で槍と相対している。
敵は呪文を使うので威力は強いが、呪文を使う以上は攻防一体とは言わない。またホムンクルスはタフネスに設定されてあり、野外で戦うならばまだしも、正面切っての戦いでは不利だろう。正面からの消耗戦では、相性が致命的に悪いと言えた。

そして眠って回復した方が良いはずの連中が戦いに参加。
今まではいなかった年を経たり、少し若い……少年ではないかと思う者や女の戦士が前に出てきたのである。数で何とかできると思ったのでなければ、眠る事が出来ないか、善戦を支えることのできる最低人数を割り切ったのだと思われたのだ。

「繰り返すがクロスボウは撃つなよ、味方に当る可能性がある」
「その上で沈黙の霧を考慮して、何時でも動けるようにしとけ」
「あの呪文に限らず対抗呪文を用意しながら、チャンスがあり次第に前に出る」
「後少し! 後少しでこの戦いも終わりだぞ! ホムンクルスは前進させ撃破優先、騎士たちはその維持と補助。倒した連中は俺達や後衛で対処するから余計な事をするな!」
 デボラは居ないが、潜入した時に似た言葉を繰り返す。
これは彼女が役目を終えて帰って来た時の符丁であり、彼女であれば聞いた時点で位置を変えることになっていた。最初に作った呪文型ホムンクルスは命じたまま消えている奴の把握に務めているので、この段階で動けばデボラで確定。位置を変えなかったら敵さんが姿を隠しているという事だ。

そして位置を変えたことで合図がお互いに徹底される。
射撃は行わずに流れ弾を避け、デボラの方でも沈黙の霧が使える状態を目指すという事だ。違うのは主導権がデボラにあり、敵後方から沈黙の霧が発生する事であった。位置的に援護に徹している敵幹部を巻き込み易く、こっちは相変わらず呪文を使うのは俺くらいなので問題がないと言えた。

「何だ? 戸惑っているぞ?」
「内乱でも起きたのか? あさましい」
「違う。沈黙の霧だ! 突っ込め、ここで勝負をつけ……」
 騎士たちが首を傾げているが、おそらくは予定通りだ。
予想と違うのはこっちも巻き込むほど巨大な霧であり、姿は見えるが言葉が出せなくなる。前衛だけではなく俺まで巻き込むという事は、ナニカの理由で魔力を全て使って霧の大きさを拡大する理由が出来たのだろう。拡大するとすぐに味方を巻き込むのが、この呪文の大きな欠点だった。

だが俺たちはある程度予想していた。
事前に命令は出しているし、ハンドサインもあるので問題ない。ホムンクルスたちが突っ込み、騎士たちもその支援に当る。そしてフーとジャンは突撃すれば呪術の長を狙える位置までじっと我慢と言う事になる。

(拡大しまくった以上、時間はそれほど長くねえ。一気に行くぞ、タイミングを合わせろよ)
(了解した。任せて置け)
(此処で討ち取る!)
 戦い抜いたことで俺達も連携しなれていた。
ハンドサインで速攻・最終攻撃の指示を送ると、二人は頷いてタイミングを合わせる。そして混乱の隙を突いてホムンクルスが進撃した所で走り始めたのだ。

そしてここからが依然と違う部分の真骨頂である。
お互いに誰が何を狙うかなんてわかり切った事だ。フーは白兵戦が一番強い戦い奴を狙って仕留めに行き、混乱と間のスペースを助長させる。そして手数の多いジャンが連続攻撃を掛けて、一息に長を仕留めに行ったのだ。

「おっと、そうはさせないネ」
「っ!? 声が? 急げ、時間切れだ!」
「判っている!」
 ブーが短剣でフォローに回ろうとした手前の奴を抑える。
その時に言葉が聞こえたことで沈黙の霧が晴れたことを察し、声を出して最後の指示を出したのだ。残り時間は呪文を唱えるまで。既に眼前へ迫ったジャンならば倒せるはず。むしろ横入りされる方が問題だろう。

もちろん敵はその為に動くはずだし、雑兵であろうとも長の援護に命は惜しむまい。だが、不思議な事にそれを阻む者がいた。

「待たせたな! 役目は果たした。そこに転がってるのは召喚の長だ!」
「これで……終わりだ!」
 それは鎧を脱いだデボラだった。
何時までも着ていたら連中と間違えて殺される。それでなくとも高額報酬の傭兵は邪魔者であることが多い。命を懸けて鎧なしの状態で敵将の一人を倒したという所だろう。そしてそこまで見えれば流れは判る。回復のサイクルがくずれた敵は、薬物による眠りに頼ることができなくなり、魔力を駄台に消費する召喚の長自ら援護呪文で前戦に出てきたのだろう。だからこそデボラは広範囲に沈黙の霧を掛けて敵後方の呪文を遮断したのだと思われた。

そして時間が経過すれば、当然ながら予測のままに自体は進む。ジャンの刃が閃き、二発までは避けたり杖で防いだ呪術の長も、三度・四度の攻撃を受けきれずに倒れ伏したのであった。

「よし! 俺達の勝利だ! 倒れてる連中は捕縛しろ、殺すな! デボラは通訳を頼む! フーたちは護衛を頼む!」
「判った! 悪くはしないと伝えておくぞ、後は任せた!」
「仕方がないな。金を貰ってる間は何とかする」
「誰を守るということなのか」
 俺は勝利宣言すると、その場にいる連中を捕縛させた。
大将格が二人も倒されてショックを受けているだろうし、精霊のコントロールも離れて送還された。敵防衛網を突破し、戦える者たちが全力を出せなくなっている。最後まで抵抗するのか、それとも捕虜になるかは分からない。

だが、ここで戦いは終わったのであった。
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