ダンジョンのコンサルタント【完】

流水斎

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最終計画

見えない間の把握

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 どうしても動かせない予定を先に入れ、残りを調整に充てる。
ウイザード・アイと幻影を使うホムンクルスの完成を待って移動するつもりだが、その前にやる事があった。もちろん間で完成した量産型ホムンクルスの訓練であり、今回だけスポット参戦するデボラを合わせた訓練だ。

不思議な物で物腰や肌の色が違うせいか、洞穴ケイブエルフにも関わらずダンジョンを占拠している連中と同じ種族だという認識は仲間達にもない。

「デボラだ、短い間だがよろしくな」
「雇用主のエレオノーラよ。私がするべき役目なのだろうけれど、手が離せなくなってごめんなさいね」
 同じ役の目の交代劇だけに少し怖い。
だがエレオノーラは情報を知っているはずだが特に難色は示さない。内心はどうあれ、種族だの性別よりも実績と能力の方が重要だと割り切れるからだろう。短期間でもあるし、高額報酬もそれほど気にならないようだ。まあ、こう言っては何だが、デボラが居るだけで洞穴ケイブエルフが暴走する可能性がかなり減るからな。仮に反感を覚えたとしても短い間ならば問題ないのだろう。

そしてデボラの方も同じだ。
彼女はプロであり、基準は真偽と報酬である。この手の依頼を受ける段階で気に入らない話ならばそもそも選んでいない筈だ。相談している時点で、交渉役と呪文対処役というのは判っているのだから。性格の問題に関しては、やはり短期間で割り切れるのだろう。

「納得してくれて助かる。計画の流れとしては大したもんじゃない」
「交渉に関しては手紙か何かを送るとして、本格交渉は追い詰めてから」
「まず親族衆が寄こした兵士や、渡しているホムンクルス込みで部隊を作る」
「各所を同時に進軍して抑えつつ、最低でも下層の半分以上を抑える。その段階で連中が引いてれば交渉しても良いが、おそらくは頑強に抵抗するだろう。部族の仲間が減って、滅亡が見えた時点で声を掛けることになるだろうな。俺やデボラを含めたチームはそこからが出番だ」
 そう言ってエレオノーラとデボラにメモを渡す。
一番上に降伏条件と記載し、降伏する時点での権利保障を書いている。早い段階ならこっちも痛みを覚えるレベルだが、追い詰めてから以降は加速度的に権利を制限する予定だ。もちろん信じられない場合の確認には時間を稼がせないために余裕は作らないが、外に出る場合は段階的に無事であるかどうか、狙われていないかどうかを確認させるつもりはある。

要点はあくまで一番困る暴発事故を防ぐためだ。
天然のダンジョンが崩壊して何もかも台無しって状況を避けられるのであれば、少しくらいの出費は問題ないというスタンスである。だからこそ、時間稼ぎをして地震の魔法を大規模な儀式として扱う様な時間だけは与えられない。

「優先順位としちゃあ連中の降伏はかなり下だ。まずは殲滅戦の対処をする。時間自体はあるが、それぞれのスケジュールもあるから突貫作業で訓練することになるな。まあ、最悪は『沈黙の霧』を使うタイミングと範囲の把握ができりゃあいい」
「手紙の内容はこっちで精査するわ。でもあの呪文よく覚えたわね」
「出自が出自だからな。身内が敵である事は多いものだ」
 最初は隔意があったのかもしれないが、次第に二人は打ち解けていった。
おそらくは身内に裏切られ孤立し掛けたという背景が似ているのだろう。それでも内に留まったエレオノーラと、さっさと見切りをつけて外に出たであろうデボラのさもあるのだろうが、基本的に苦労した部分は似通っていると思われた。

ちなみに『沈黙の霧』は無条件で呪文を抑止する。
敵味方を問わないという効果もだが、他にもいろいろ不便な事が多い。呪文を投射して発生させる場所であったり、効果範囲の師弟が微妙なのだ。下手をすると自分の味方も巻き込むし、相手の伏兵などは含まない場合があるなど、遣い勝手が非常に悪いのである。

「あ、そうそう。フレド。何人か貴方に相談があるそうよ」
「やれやれ。ようやくダンジョンの不備を認めたのか。このタイミングになって言わんでも……いや、既定の戦力を集められないんだろうな。判った、代替品か労役化何かで向こうでも用意できる条件を整えとくわ。また後でな」
「忙しい男だ。ドンと構えて居れば良い物を」
 俺は他のメンバーを呼びに行くついでに執務室に向かう。
そこにはエレオノーラに提出して置いた、領内の特産品リストが置いてある。魔力などの収支も一緒に記載しているが、そちらは領主たちの自主報告なのであまり当てには成らないだろう。それを回収して申し出た連中が何を提供できるかを思案しつつ、フィリッパやリシャール達の元に向かう事になる。オーク兄弟たちは予定日に合わせて来るので、その後はジャンの居る開拓村に行って今日は終りになるだろう。

その後は皆を集めて先ほどと同じ情報を共有して、可能な部分から訓練を始めることになった。

「此処は地底、故郷の地底。かつてあれど此処に無し、失われし斜陽の王国。洞穴は四方を閉じ、入り口を閉ざせば風は吹き込まず、そして動くことも無し。サイレントフィールド!」
「「……! ………………!?」」
「あーあー! 聞こえますかー!」
 数人が並んで声を出す。途中からは効果の外。
沈黙の霧の魔法が面倒くさいのは、その領域が特に見えない事だ。まあ結界魔法の一種なので、当然と言えば当然であるが。そして射程に比して範囲はそこそこある。未強化だと射程10mで効果範囲が5mほど。何も考えずに体幹で判るのが10mほどであり、戦士が剣を振り回す距離が3mほどだ。意外と近くて狭く、そして強化するとワケが分からなくなる。

それでも移動しなければ、何となく判るのだ。
しかし、大抵の場合は作戦行動中だと移動し続ける。暗殺の為に接近するならばともかく、適度に近寄って相手だけを射程に入れるのは相当に難しいと思われた。

「今みたいな感じで突然に喋れなくなるから丁度良いとも言えるが、同時にこっちも喋れなくなる。だが逆に言えば、敵味方を躊躇なく巻き込めば問題なく主要な連中は含められるだろう。後はハンドサインで連絡を取り合うことになるな」
「想定する行動次第だな。攻撃や優先順位くらいなら何とでもなる」
「兵士には各自ポーションを持たせて、敵を指さすだけでも行けますしね」
 デボラの解説に俺たちは色々と話し合った。
この呪文を唱える時は、交渉決裂で殲滅する時だろう。降伏を受け入れる派閥と受け入れない派閥くらいなら、まだ何とか指示して殺す相手を選べる。問題なのは姿隠しをしている奴を見逃したり、精霊が隠れている時だろう。その場合は最悪、俺だけでも範囲の外に出て、解呪の呪文を唱える必要があった。

それらの事を箇条書きにして、再び相談しながら色々と練習を繰り返す感じだな。この場にエレオノーラが居ないのは、雇用主が逃げたと思われないように忙しくさせたのもあるが、意見というものはいつしか方向性が固まってしまうものだ。よって後で報告を提出する前に、どんな事を気を付けるかを考えてもらい、角突き合わせることになっていた。

そして俺たちは突貫作業でどうにか練習を終える。
そしてウイザード・アイと幻覚を使える呪文型を連れて、元のダンジョンの方で実験。どんな風に相手を偵察できるか、その時に違和感があって気が付くかなどのチェックを行っていったのだ。
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